第4話 グルグルじゃんぐる
「さぁて、どこかしら~?」
「「…」」
「…ウフフ、ここねぇ~!」
「うええー!?」
「みつかったー!?」
「はぁいお姉さんの勝ち~!」
「なんでわかったのー!?」
「絶対わかんないと思ったのにー!」
遠くから聞こえたのは、トウヤとシュリの驚く声と、したり顔が容易に想像できそうなアフリカニシキヘビさんの声。茂みに隠れていたけどものの数秒で見つかってしまったようで、二人は疑問で頭がいっぱいだ
「二人が悪い子だから、じゃないかしらぁ?」
「僕達悪い子じゃないよ!」
「私もお兄も良い子だもん!」
「そう?なら、二人がお姉さんを見つけられたら信じてあげる。ちゃんと10数えてから探すのよぉ?」
「「はーい!」」
そして直ぐ様第2ラウンドが始まった。悪い子ではないと証明するべく奮闘する二人に、アフリカニシキヘビさんの毒牙が容赦なく迫る。まぁ彼女に毒牙はない、あるのはピット器官だ
「相変わらず元気そうだな、おチビ共」
「おかげさまでな。お前達も元気そうでなによりだ」
その近くでは、お土産に持ってきたアップルパイを食べながら、妻のキングコブラとツチノコさんが他愛ない話をしている。二人が食べ終わればおしまい、ここにいる全員でごちそうさまだ
そして、俺はというと
「さぁコウ!今日こそ貴方の毒を頂きますわよ!」
「何度も言ってるけど俺は毒持ってないってば!」
「そんな嘘にはもう騙されませんわ!」
「なんで今更嘘だって決めつけてるの!?」
「先日ミドリから聞きましたわ!貴方が毒を使えるようになったと!だからそれは嘘ですわ!」
「母さぁぁぁぁぁぁぁん!?!?」
あの人が言ってしまうとは思わなかった!こんなことになるのは予想できたはずなのに言ってしまうとは思わなかった!あれだけ口止めしてたのに!
「楽しそうねぇ。 …そうだ、トウヤちゃん、シュリちゃん、かりごっこもやる?」
「かりごっこ!?」
「やるやる!」
「なら決まりねぇ。まずは二人でパパを捕まえるのよぉ♪」
「「はーい!パパまてー!」」
追っ手が増えたぁ!?てかかくれんぼはどうしたんだ!?
とんでもなく可愛い二人がこっちに走ってくる!捕まってあげたい!でも捕まったら面倒なことになる!ニヤニヤしやがってなんてことをしてくれたんだこのやろう…!
「捕まるかどうか予想してみるか?時間制限10分でな」
「ふむ…面白い、いいだろう。なら私は『コウは逃げ切る』だ」
「だと俺は『コウは捕まる』だな。つーわけでコウ!捕まれ!」
「「つかまれー!」」
「捕まりなさい!」
捕まれじゃないよ!なに人の窮地を賭け事にしてんだ!それをするなら君の秘蔵コレクションの1つや2つ出せってんdいや違うそもそも子供達の前でやるな悪影響出ちゃうでしょうが!キングコブラもなんで乗ってるんだ!?
「さぁて、どっちを選ぶのかしらぁ?」
わりとえげつないこと言ってるなこの人!愛する子供達の為に捕まるか、愛する妻の為に逃げ切るか、究極の2つを天秤に掛けてきやがる!こんなのどっちを選べば──
「コウ」
「なに!?」
「頑張らなくていいぞ?」
──あーそういうことか。はいはい、分かったよ…
*
「二人ともよく頑張ったな」
「ふふん!」
「えへへ!」
「まさか捕まるなんてな」
「あそこで躓くなんて、運がなかったわねぇ」
「ハハハ…ホントにね…」
勝手に設定された制限時間が過ぎようとした処で、俺はトウヤとシュリに捕まった。捕まったというよりは捕まってあげた、というのが正しいけど
キングコブラが向けた笑顔と言葉は、『捕まってやれ』という意思表示だ
という訳で、飛び出ていた木の根にわざと躓いてよろけ、木に身体を預けた。バランスを整えるふりをして隙を作ると、トウヤとシュリはちゃんとその隙をついて俺を捕まえてくれた。これもまた、二人の成長の証と言ってもいいのかもしれない
「ではコウ、毒を頂きますわ…!」
しかし、それを見るための代償は大きかったわけで。目の前にはギラギラとした瞳で覗き込んでくるコモモさん。少し離れていただきたい
「…そのままじゃ危ないよ?」
「この綿に毒を染み込ませて、その後この瓶に入れて蓋をして下さいませ」
「…りょーかい。ちょっと待ってて」
細やかな抵抗も意味がなかったので、差し出された綿と瓶を大人しく受け取って、皆から見えない所へ移動。流石に子供達の目の前でやりたくないからね
「さて、と…!」
けものプラズムを操り、このヘビの姿に似合う毒牙を出し、綿におもいっきり噛みつく。紫色の毒がじわっと瞬時に染み込んだところで、口を離して即瓶の中へ入れる。これで頼まれ事は完遂だ
…にしても、これをどう使うつもりなんだろうか。全く検討がつかないから、変なことに使わないようにだけ伝えておこう…
*
「ただいま。はいコモモさんお品物。あとこれ、この毒についての簡単なメモ。母さんから聞いてるかもしれないけど、一応渡しておく」
「ご協力感謝いたしますわ!ウフ、ウフフ、ウフフフフ…!」
うわっ…ちょっと眼がヤバいですよコモモさん。トウヤとシュリの前でそんな顔はやめていただきたい。教育に悪いと思うので
とまぁこんな感じで、俺達八雲一家、今日はじゃんぐるちほーにお邪魔しています。一家全員揃ってここに来るのは久しぶり。その度に遊んでもらってるから、二人は彼女達によく懐いている
「二人とも水は飲んだか?」
「飲んだ!」
「いっぱい飲んだ!」
「よし。ならじゃんぐるツアーに出発!」
「「しゅっぱーつ!」」
「いってらっしゃ~い」
「気を付けてくださいね」
「怪我すんなよー」
そう、始まるのはじゃんぐるツアー。ここに来るとはいっても、それは涼しい洞穴のある場所とその周辺だけで、長い時間ここを歩き廻ったことはなかった。よって今回は満を持して、万全の対策をしてそれに望むのである
そのついでと言ったらあれだけど、二人がじゃんぐるの気温や湿度に対し、どれくらいの耐性があるかを確認する。その結果によっては、二人がどんなフレンズの性質を持って生まれたかをある程度推測できるのではないかと思ったからだ
じゃんぐる出身であるキングコブラと、キメラである俺の子供。どっちを強く引き継いだのか、俺の何を引き継いだのか、それはまだよく分かってないからね
しっかり準備を整え、見送られていざ出発。ゆっくり歩きながら、トウヤとシュリに色々なフレンズを会わせていく。フォッサさんの長い尻尾に抱きついたり、オカピさんのダンスを真似たり、エリマキトカゲさんの威嚇にびっくりしたりと反応は様々だ
「あら、皆さんでお出掛けですか?」
「そんなところだ。ほら二人ともご挨拶」
「「こんにちは!」」
「こんにちは。元気いっぱいですね」
エンカウントしたのはクジャクさん。子供達に会うのは二回目。彼女も遊びに来てくれたことがある
「クジャクちゃんの羽、やっぱりすっごく綺麗!」
「ありがとうございます、さっきお手入れしたばかりなんですよ♪」
シュリがクジャクさんの羽を誉めたと思ったら、その流れで即触りに行った。続けてトウヤも触りに行った。流れが自然すぎて我が子ながら恐ろしい
しかし子供達はどっかの長とは違い、引っ張ったりいきなりぶち抜いたり等はしない。それは他のフレンズ相手でも変わらない。その辺はちゃんと分かってるから安心だけど、将来無差別に無許可で触ることのないよう注意しなければ。特にトウヤ
「いいなー、私も綺麗な羽ほしーなー」
「僕もほしい。大きくなったら出るかな?」
「うーん…ちょっと分からないですね」
「「そっかー…」」
ガックリと肩を落とす二人。可能性は0ではないが限りなく0だろう。ごめんな、パパ一応クジャクの因子あるけど他のが強すぎるから…
「その代わりといってはなんですが、私の羽根をプレゼントしますね」
「「ありがとうクジャクちゃん!」」
「フフ、どういたしまして♪」
前から持っていたのか、今抜いたのかは知らないけど、クジャクさんは自分の羽根を一枚ずつ、トウヤとシュリの胸ポケットに入れてくれた。得意気に見せてきた二人を撫でながら、お礼を言うと彼女は手を振りながら去っていった
「二人はクジャクの羽がいいのか?」
「うん。だってこんなに綺麗なんだもん」
「それに、お空飛んでみたいし」
「そっかぁ」
そうだよねぇ、そりゃ憧れるよねぇ
「でも僕、パパとママのフードと尻尾も好きだし、オオカミちゃんみたいなお耳と尻尾も好きだよ!」
「私も!それとね、キリンちゃんのマフラーとか、アリツカちゃんの羽もカッコよくて好き!」
「いっぱい好きがあるな。一つだけ選べるとしたらどれがいいんだ?」
「うーん…」
「迷うー…」
「ハハハ、迷え迷えー」
現状けものプラズムがない二人にとって、どれもこれも魅力的なのはよく分かる。一番が俺達のじゃないのも仕方ないことだ
それでも好きと言ってくれたのは嬉しかったので、俺とキングコブラは尻尾で二人を優しく抱き上げる。唸っていた二人も、こうすれば元通りの笑顔だ
…まぁこうして笑ってはいるけど、どれも可能性が0ではないと言えるのは怖いところ。頼むぞ俺の身体、将来二人が望むプラズムを受け継がせておくれよ
*
そして、だいぶ歩いた頃
「あついよぉ…」
「そう?」
「トウヤは平気なのか?」
「うん、大丈夫」
「なんでー…?」
「んー…なんでだろ?」
暑さにやられ始めたのはシュリだった。こまめに水分補給はしていたし、持ってきたひんやりグッズで暑さを和らげもしていたけど、やはり蓄積されていたらしくここらで決壊したようだ
対照的に、トウヤはケロッとした態度で歩いている。身体の異常は特に出てないから、ここへの耐性がシュリより高いのだろう
とはいえ、シュリだけでなく、まだ平気そうなトウヤも、フレンズだけど身体はまだ幼い子供。熱中症にでもなったら大変だから無理はさせられない
二人を連れてまた少し移動する。生い茂った木々の中にいるよりも、あの場所の方が少しはマシになるだろう
「うわぁ…!おっきい!」
「こらこら、危ないから走るな」
「はーい!」
たどり着いたのは、じゃんぐるの大きな川。初めて見るそれに、元々元気だったトウヤは更に元気になって、パチャパチャと手を川に突っ込んでいる。妻が尻尾を巻き付けてるから、落ちる心配はないだろう
「どうだシュリ、少しは涼しいか?」
「うん。さっきよりも暑くない」
開けたここは風通しが良く、優しい風が俺達を撫でてくれている。シュリも少し楽になったようで、水を飲みながらちょこちょことジャパリまんを食べている
「もう少しここで休んだら、今日はもう帰るか」
「え~?僕まだ帰りたくな~い!」
「私まだ大丈夫だもん!」
「そう言われてもなぁ…」
二人の気持ちはよく分かってる。待ち焦がれたじゃんぐるだ、まだまだ見て廻りたいに決まってる
とはいえ、回復したと言っても、それはきっと気持ち程度。今度こそ暑さでやられたら大変だ。ここは心を鬼にして…
「あれ?トウヤにキングコブラ?」
「コウとシュリもいるね~!」
「あっ!ジャガーちゃんにカワウソちゃん!」
そんな時に通りかかったのはジャガウソコンビ。ちょうど川下りをしていたようで、イカダを止めて川から上がってきた
「これなに?」
「これはイカダって言うんだよ。これに乗って川を下るんだ」
「なにそれ!?楽しそう!」
「私も乗りたい!」
未知へのワクワクからか、二人ともイカダの回りをうろうろしている。瞳が凄く輝いて、今にも乗り出しそうな勢いだ
…まてよ?イカダ、川、涼しさ、そして距離──
「コウ、提案があるのだが…って」
「もしかして、君も思い付いた?」
「ああ。とびっきり良い案をな」
トウヤとシュリに気を配りながらも、二人には聞こえないよう耳打ちする俺達夫婦。その内容はピッタリ同じ、流石俺の妻だ。これは二人にとって良いサプライズになるだろう
「ジャガーさん、あそこの近くまで乗せてってくれない?」
「あそこね、いいよ。カワウソ、手伝ってくれる?」
「は~い!」
「えっ!?乗るの!?」
「ああ、折角だしな」
「わーい!たのしみー!」
早速ジャガーさんとカワウソさんが川下りの準備に入る。その間、トウヤとシュリは終わるまでずっと見ていた。あまりにも真剣な眼差しで見ていたから、俺とキングコブラは目を合わせて笑った
セッティングが完了したので、念のためまずは俺が、そこから順番でトウヤとシュリ、最後にキングコブラが乗る。多少揺れたけど、それも子供達にとってはアトラクションの1つだ
「じゃあ、出発するよ!」
「しっかり捕まっててね~!」
「頼む」
「お願いします」
「「おねがいします!」」
ではただいまから我々八雲一家、じゃんぐる名物イカダ下りを体験します。川の流れを身体で感じるその新鮮さに、トウヤとシュリは早くもおおはしゃぎだ
「あっ、あそこにマレーバクちゃんとアリクイちゃん!」
「こっちにはコンゴウインコちゃんにケツァールちゃん!」
「二人ともあまり身を乗り出すな。落ちてびしょ濡れになってしまうぞ?」
「風邪引いて美味しいご飯食べられなくなっちゃうかもなぁ~?」
「「やだー!」」
手すりから身を乗り出して、あれやこれやと指差すトウヤとシュリを、やんわりと注意する俺とキングコブラ。テンションはそのままに、真ん中に並んで座って流れていく景色を楽しんでいる
「カワウソちゃん大変?」
「へーきへーき!これくらいなんともないよ!」
「ジャガーちゃん大丈夫?」
「大丈夫、力には自信あるからね」
「「二人ともすごーい!」」
4人乗せてもスピードが落ちず、バランスが崩れることもない。しかもその微調整を泳ぎながらだ、二人とも本当に凄い
*
「もうそろそろ着くよ~」
「えー?もう着くのー?」
「まだ乗ってたかったー」
とか言ってる間に、イカダ下りも終了を迎えようとしていた。元々そこまで距離が遠かったわけじゃないから、二人は少し物足りない様子だ
「そう言ってもらえると嬉しいね。良かったらまた今度乗りに来てよ」
「うん!また絶対来る!」
「次はおもいっきり遊ぼーね!」
「遊ぶ!約束だよ!」
目的地付近で川から上がって、名残惜しさを我慢して、皆でお礼を言って、二人とはこの場でお別れだ
そこからまた少しだけ歩く。目的の物への距離は、そう遠くないからね
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