第1話 二人の子供
「パパはやくいこ~!」
「ご飯冷めちゃうよ~!」
「分かった分かった、引っ張るなって~」
着替え中の俺のズボンを引っ張るのは、俺と妻であるキングコブラとの二人の子供
どちらかと言えば、トウヤは妻に、シュリは俺に似ている…かな?目付きとか髪のクセとかもそうだけど、何か考え事をしていたり、おやつを食べたり、ちょっとしたお勉強をしたり…その時にふと見せる仕草や雰囲気が、なんとなく似てるって感じだ
二人とも正真正銘フレンズで、トウヤに関してはパークで二人目の男のフレンズになる。だけどけものプラズムは二人とも発現していない。それがまだなのか一生なのかは分からない
分かっていることは、どっちも元気一杯、健やかに育っているということ。でもたまに元気すぎないか?と思うこともある。何故なら今二人して俺のヘビの尻尾にぶら下がろうとしているのだ。危ないからやめなさい
「お待たせ、じゃあいくぞー」
「「はーい!」」
「む、トウヤ、シュリ。廊下は?」
「「はしらなーい!」」
「よし、いい子だ」
どたばたと駆けていきそうな二人だったが、妻による復習によって未遂に終わった。その小さな身体で大きな返事をした二人とその様子に満足した彼女。朝から良いものが見れました
*
「おっ、来たね八雲一家」
「「おはよーございます!」」
「おはよう、今日も元気ね」
ろっじの厨房では、既にオオカミさんとキリンさんが妻の作った朝御飯を食べている。他のお客さんも食べたのか、いくつか食器が重ねられていた。家にもキッチンはあるけど、皆で食べる方が楽しいので殆んどここで食べている
家族揃って挨拶をして、席について手を合わせる。『いただきます!』とキチンと言って、トウヤとシュリは黙々とご飯を食べ始めた
こうして食べているのを見てると懐かしい思い出が頭を過る。最初の頃はテーブルや服にボロボロ溢していた二人だったけど、今はもうその心配はない。ご飯も一粒も残さず口に運んでくれるのでお父さんはとても嬉しいです
『ごちそうさまでした!』
「お粗末様でした」
「あっ!シュリ、ほっぺたにごはん粒つけてる!」
「そういうお
「えっ!?どこ!?」
「ここだよ!…あれ?」
「シュリのもそこじゃん!」
「ホントだ!」
シュリは自分の頬に指を当て、トウヤにつけている場所を教えた。しかしそこは偶然にも自分もつけていた場所だった。似た者兄妹だなぁ
「お前もつけてるぞ」
「えっ?本当?」
「本当だ。ほら」
ひょいっと、キングコブラが俺の頬についたごはん粒を指ですくい、口に入れた。大胆なこと皆の前でするようになりましたね?ニヤリと笑っちゃってるし
「パパおっちょこちょ~い!」
「おっちょこちょ~い!」
「お前達もそうなんだぞぉ~!」
「「アハハハ!」」
ガシガシと頭を撫でると、嬉しそうに笑うトウヤとシュリ。笑った顔を見ると、やっぱり俺達の子供なんだなって感じるよ
*
子供達が生まれたこと、ヒトが戻ってきたことで、俺達の生活には変化が訪れた
俺達家族は、ろっじにそのまま住んでいるわけではなく、ろっじの近くに家を建てそこに住んでいる。四人家族で住むには十分すぎるほど綺麗でスペースのある家だ。来航客が訪れることはなく、パークスタッフも基本的に立ち入ることはない
パークスタッフ達は、俺達家族(特に俺)に対してごく普通に接してくれている。ここら辺は両親やミライさん、カコさんに
パークの事情に関しては、大体1年前から仮オープンということにして、抽選した人やスタッフの知人等を数日おきに招いてはいる。セルリアンがいなくなったわけじゃないし、建物を作り直すにも手間がかかるしね
ろっじの支配人はそのままアリツカゲラさんがしていて、サポートとして数人のパークスタッフがいる。今はお客さんが多いわけじゃないから、とんでもなく忙しいということはない。現に今日は全然忙しくない
「お外であそぶー!」
「あそぶー!」
っと、パークの内情とかその他諸々は、また追々話そうと思う。トウヤとシュリがウズウズしているからね
「よーし遊ぶか。なにやりたい?」
「かりごっこー!」
「かくれんぼー!」
「「むむむ…!」」
おっと、二人の意見が分かれてしまった。両者睨み合い…とまではいかないけど、見つめ合って気持ちをぶつけ合っている
兄妹ケンカになりそうだって?いいえそんなことありません。お父さんはそんな心配していません
「…かくれんぼ、しよ!」
「いいの?」
「いいよ!僕かくれんぼも好きだし!」
「やったー!ありがとうお兄ー!」
「でも明日はかりごっこだよ!」
「うん!私かりごっこも好き!」
ほらね、問題なかっただろう?
トウヤとシュリの意見がこうして別れた場合、トウヤはシュリの意見を優先することが多い。幼いながらも、既に『自分は兄だから』という心構えを持っているのだ
シュリもそんな自分に優しい兄が大好きで、飛びっきりの笑顔でキチンとお礼を言う。トウヤも嬉しいようで、可愛い妹の頭を優しく撫でている。仲良し兄妹で心があったかくなりますよ
「なら、かくれんぼに決定だな。鬼はどうする?」
「僕鬼やりたい!」
「私も一緒にやるー!」
「なら二人でやるといい。二人で私達全員を見つけることが出来たら、今日のお昼ご飯は二人の好きなオムライスにしてやろう」
「「ぜったい見つける!」」←やる気MAX
さっきまでのほのぼのは何処へやら。オムライスというワードを聞いて二人の心と瞳が燃え上がっている。ちょっとキングコブラ、苦笑いしながらこっち見ないで。あと皆も見てこないで。言いたいことは重々分かってるから
さて、参加するのは俺、キングコブラ、オオカミさん、キリンさんのろっじ組。それと泊まりに来ていたジョフロイネコさん、オセロットさん、アリクイさん、インドゾウさんだ。場所はろっじから少し離れた所。範囲も見て分かるように決めてるから、危険もなくのびのびと遊べる
トウヤとシュリが並んで、木に顔を向けて視界を隠す。俺達は各々散って、静かに身を隠す
「「もういいかーい!?」」
『まーだだよー!』
少しの物音がして。少し時間が経って
「「もういいかーい!?」」
『もういいよー!』
「いくぞー!」
「おーっ!」
かくれんぼ、スタートだ
「僕あっち見てくるから、シュリは向こうね!」
「わかったー!」
おっ、どうやら手分けして探すようだ。二人で一ヶ所を探しそうだなぁなんて思ったけど、そこはちゃんとしているね
この場所は木々が他と比べて少ないから、倉庫にあったものや新しく作った遊び道具を置いている。動物のパネルや小さな滑り台、土管や丸太のブランコなどだ。その為、中や物陰など隠れる場所は十分にある
茂みもあるから、そこに隠れることも勿論可能だ。さて、我が子達が最初に見つけるのは一体誰かな?
「キリンちゃんみーっけ!」
…またか~い!
「あれ!?完璧だったはずなのに…!?」
「だってお耳出てたもん!」
「あっ!?」
今度は耳か~い。前にやった時はマフラーだったから、そっちを気にしすぎた結果かな?どっちにしろ彼女はかくれんぼが苦手のようだ
「フ、フフフ…これはわざとよ!シュリが探偵に相応しいか試したのよ!」
「そうなの!?」
「そうよ!じゃなきゃ私がそう簡単に見つかるはずがないもの!」
「そっかー!そうだよねー!」
おいなに無理やり誤魔化してるんだ。うちの子純粋だから信じてるじゃんか。でも『探偵の素質があるわね』って言われて撫でられて嬉しそうなシュリ可愛いからいいかぁ←親バカ
「ジョフちゃんとオセロットちゃんみっけ!」
「見つかった?どうして分かったの?」
「葉っぱが落ちてきたよ!」
「むむむ、迂闊だったでち」
「へへ~ん!」
今度はトウヤがジョフさんとオセロットさんを見つけた。木の上にいた彼女達だったが、どうやら爪が甘かったようdいやここはよく観察していたトウヤを褒めるべきだな、よくやったトウヤ
「アリクイちゃんにインドゾウちゃんいたー!」
「オオカミちゃんはっけーん!」
「「ママもみーっけ!」」
そこからは次々と見つけられていく。一人、また一人と姿を現しては二人を褒める
そして、また少し経って
「「せーの……パパみっけー!」」
「あー見つかっちゃったー!」
ゲームセット。この勝負、トウヤとシュリの勝ちだ
*
いっぱい遊んだ後のお昼ご飯を終えたら、子供達は簡単なお勉強タイム。数を数えたり、文字を書いたり、ちょっと絵本を読んだりだ
「さて二人に問題です。ドーナツが4個あります。俺達4人で皆で分けると1人何個でしょう?」
「「1コ!」」
「正解。ご褒美のおやつのドーナツだぞ~」
「「わーい!」」
頭を使うと糖分がほしくなる。それは大人になっても変わらない。というわけで俺が食べるのはおかしくないのです
「…あれれ?もう1個あったぞ?」
「まだあるの?」ジュルリ
「ほんとうだ!」ジュルリ
「パパはお腹いっぱいだからもういらないや。キングコブラは?」
「私も満腹だ。だからこれは二人にやろう」
視線を合わせ、夫婦揃って軽い演技をする。これでドーナツは二人のもの。二人とも凄く食べたそうに見ているね。はてさてここからどうするのかな?
…え?本当はお前も食べたいんだろって?そ、そんな訳ないじゃないですかハハハ
「シュリ、はんぶんこでいい?」
「うん!はんぶんこするー!」
「じゃあこれシュリのぶん!」
「ありがとうお兄ー!」
あーなんてえらいんでしょう!ちゃんと分けあって食べているではありませんか!当たり前のように『はんぶんこ』と言えるのが本当にえらいぞ!
「相変わらずの反応だな、お前は」
「そういう君も顔緩んでるよ?」
「むっ…」
カウンターが決まったようで、彼女からそれ以上の返しはなかった。大なり小なり、俺達は同じことを感じているからね
写真でも撮っておけばよかったかな、なんて、仲良く幸せそうにドーナツを頬張る二人の姿を見て、俺はふと思ったのだった
*
「んじゃ、ちょっと離れるね。一緒にお昼寝でもしてて」
「そうだな、お言葉に甘えておこう」
勉強とおやつが終わると、頭を使った疲れと満腹になった満足感によって、トウヤとシュリはお昼寝タイムだ。俺かキングコブラかのどちらかが付き添って見守っておくんだけど、大抵寝顔を見ているうちにつられて寝てしまうんだよね
…その回数は、俺の方が圧倒的に多いんだけどね
この時間から晩御飯まで何をするかというと、執事としてのお仕事。俺の仕事は、周辺の見回りや各空き部屋の掃除等だ
「アリツカゲラさん、掃除終わりましたので見回り行ってきますね」
「ありがとうございます。一応、お気をつけて」
外に出て、ろっじ周辺…だけじゃなくて少し脚を伸ばした所まで行く。近くにはいなくても、そこまで行くとたまにいるからね
というわけで、目を凝らしてくまなく探していく。右手に盾を左手に剣を発動…してない。右手に剣を持ってるだけだ
「…うん、問題なしっと」
ただ、今回はセルリアンの “セ” の字もなかった。気配も全く感じない。武器を出した意味はなし。特にいた形跡もないから、倒されたんじゃなくて元々いなかったって感じだ
最近はセルリアンの数も昔と比べて随分減った。定期的に見回りをしてるってのもあるけど、遭遇率に関しては格段に減った。トウヤとシュリが、未だに実物のセルリアンを見たことがないくらいにね
といっても、大きめの個体が出現する時もあるから油断はしない。家族を守るためってのもあるけど、せっかく順調に進んでいるパーク復興を邪魔されたくはないからね
「戻りました。特に問題ないです」
「ありがとうございます。お疲れ様でした」
「はい、お疲れ様でした」
アリツカゲラさんに報告したところで、今日のお仕事は終了。水を飲んで、家族の元へ脚を早めて向かう。足音は立てないように気を付けながらね
なんでそんなことするかって?その理由は極めて簡単だよ
「…フフッ。良い顔頂きました、なんてね」
無防備な三人の寝顔を、一人占めするためだ
仰向けで寝ているトウヤとシュリ。その二人を腕と尻尾で守るように包んで眠るキングコブラ。その様子を写真に収めて、俺はそっと部屋を後にした
*
お昼寝を経て、晩御飯を食べ、お風呂に入った子供達はどうなるか?答えはこれだ
「キリンちゃんたんていごっこやろー!」
「私もたんていやりたーい!」
「なら皆でやるわよ!」
そう、宴が再び始まるのだ
今日の遊びは、オオカミ先生作『ホラー探偵ギロギロ』のなりきりだ。これにはこんな感じでキリンさんとよく遊んでいる。付き合ってくれて本当にありがとうございます
「真実は!」
「「いつも1つ!」」
「犯人は!」
「「お前だー!」」
「バッチリね!」
「「いえーい!」」
三人で元気にハイタッチ。こんな感じでいつもノリノリである。たまに俺も混ざってやることもあるけど、大抵は犯人役でやられ役だ。けどそんなの全然気にならない。二人が楽しければ、役なんてなんでもいいのだ
その後も違う決めポーズや決め台詞を繰り返して、『探偵っぽい?』とか、『カッコいい?』とか、キラキラした瞳で聞いてくるトウヤとシュリ。『二人ともカッコいいよ』と答えると、とても嬉しそうにはしゃいでくれる
「ふぁ…」
「む、そろそろ寝るか?」
「寝るぅ…ママ~…」
「はいはい、よっ…と」
「ほら、シュリもおいで?」
「うん~…だっこぉ…」
そうして夜は過ぎていく。そこまで遅くならない時間になると、二人とも目を擦りながらこうして抱っこを求めてくる。ベッドに寝かしつけてあげれば、あっという間に二人は夢の中だ
「今日も元気だったね」
「健やかなのは良いことだ」
ベッドで気持ち良さそうに寝ているトウヤとシュリを見て、俺達は一息つく。これでこの二人の1日は終わるのだ
明日になったら、きっとまた元気に起きて、遊んで、お昼寝して、ちょっと苦手な勉強をして、おやつを食べたらまた遊んで、こうしてまたぐっすりと寝る。それを眺めながら、俺は1日を過ごしていく
こんな毎日が、本当に楽しい。二人の成長が見れることが、本当に嬉しい
「さて、私達も寝るとしよう。今日みたいに寝坊しないようにな?」
「うっ…分かったよ。おやすみ」
「おやすみ」
釘を刺されてしまったのでちゃんと寝ますかね。昨日の夜遅くまで起きてた結果寝すぎて、今日あんな風に起こされたからね。何してたかっていうと最近図書館に追加された小説をずっと読んでました。ちょっと夢中になりすぎました
寝る前に、そっとトウヤとシュリを撫でる。更に緩んだ顔を見て思う。きっと夢の中でも遊んでいるのだろうなって
妻と子供達の可愛い寝顔に満足して、俺もゆっくりと瞳を閉じる
今日もまた、良い夢を見られそうだ
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