最終話 ココロの世界

学年末ステージの準備が始まり、曲や振り付けも順調に決まっていたある日。ココロはある事に悩んでいた。

「うーん…。」

「どうしたの?携帯見て唸って。」

「自分のダンスを撮って見てたんだけど納得いかなくて…。」

「この前見たときはいい感じでできてたじゃない。」

「そうなんだけど何かもっとこう…何で言ったらいいのかわからないけど何かが違うというか足りないというか…。」

「どれどれ〜?」

横から動画を覗き込んできたアスカと頭から動画を確認し直す。

「綺麗にまとまってるし特にミスもないし私はいいと思うけど?」

「うーん…。そうかなぁ。」

「リカに相談してみたら?私たちよりダンス歴も長いし違う視点で意見をくれるかもよ?」

「そうだね。これから丁度練習だし聞いてみようかな。」

そう言って立ち上がるとアスカに別れを告げて練習場所へと向かった。練習場所へ行くとリカが既に準備を始めていた。

「準備ありがとうリカ!」

「もう終わるから先にストレッチしてていいわよ。」

「ありがとう。」

リカを横目で確認しながらストレッチを始める。しばらくするとリカも隣でストレッチを始めた。

「あのね…ちょっとリカに聞きたいことがあるんだけど…。」

「あら、どうしたの?」

「自分のダンスを撮って見直してるんだけどね?特に目立ったミスもないしそれなりにできてるとは思うんだけどどこか納得いかないところがあって…でも何に納得出来ないのか分からなくて…。」

「まずその動画を見せてくれる?」

「はい。」

リカに携帯を渡すと真剣な顔で動画を見始めた。何度か繰り返して動画を見るリカを落ち着かない気持ちで待つ。3度目の動画をスタートさせると動画を見つめたままリカが話し始めた。

「私もね、たまに何かが気に入らない時ってあるのよ。でもそれって案外小さなことだったりするのよね。ココロみたいにダンスが少しずつ出来てきて楽しくなってきた頃はそれが何なのか全く分からなかったわ。それでも結局踊るしかなくてただひたすら踊ってた。それで気がついたのよね『今の私のダンスは自分のものじゃない』って。」

「自分のもの?」

「そうよ。今のココロもきっと引っかかってるのはそこだと思うの。この動画の動きはキレイに踊れてるし確かにミスも少ないわ。でももっとココロがやりたいようにやっていいのよ。」

「やりたいように…か…。」

「何があるんじゃない?ここはもっと動きを大きくしたいとか、タメを少し長くしたいとか。何でもやってみたらいいと思うの。それを見て何か違うと思ったらまた直せばいいわ。」

「でもリカと合わせないと…。」

「いいじゃない!確かに合わせた方がいいところもあるわ。一寸の狂いもなく合わせるステージだってあると思うし。でもこれは私たちが作るステージなのよ。今できることを最大限にやらない手はないと思うの。だからココロも自分の思うようにやればいいのよ。私から盗みたい動きは盗めばいいし違う表現にしたいなら変えたらいい。私もそれがいいと思えば私もココロに合わせるわ。」

「でも何だか難しそう…。」

「最初は確かに難しいかもしれないわね…。じゃあ私も少し手伝うから今日は一緒に自分らしさを模索しましょう!」

その日の練習はいつもよりあっという間に時間が過ぎていった。練習を終え汗を流した後フカフカのベッドに倒れ込むと心地よい疲労が睡魔を誘う。

「ふー!」

(今日はリカに相談してよかったなぁ…。自分らしさか…。確かに今まではただフリをこなしてるだけでどうしたらどうやって魅せられるのかなんて考えたことなかった。自分の理想の…動きと…の…ズレに…違和…感……た…の…かな……。)




それから数日が経ち自分なりに試行錯誤はしているものの納得できるようなものにはたどり着けていなかった。

(何が足りないんだろう…。最初のところもなんかもっとこう…。うーん。ダメだ…。リカはどんな風にやってるんだろ。)

リカに振りを覚える用に踊ってもらった動画を再生すると

(あれ?ここ…リカこんな風に踊ってたっけ?なんかもっと違ったような気が…。)

もう一度動画を確認して今度は自分の動画を見る。

(あれ…これって…??何だろう何か…)

ドアの開く音がしてチラリと目をやるとマコトが教室に入ってきた。今日は進捗報告などの会議をやるからとアスカがみんなを空き教室に集めたのだ。まだ教室にはココロとマコトの2人しかいない。

「おっおはよーマコト君!」

「ども。」

沈黙がメンタルにダイレクトに突き刺さる。チラリと時計を見ると約束の時間までまだ10分もある。

「えっと…マコト君早いね!」

「まあ。」

(どうしよう…。何話したらいいんだろう…。)

「あの…その…。」

「どうした?」

「えっ!?いや…どうもしてないんだけど…その…。」

「何か悩んでる顔してた。教室入った時。」

「え…。」

(いつもあんまり喋らないから怖いイメージがあったけど優しい人なのかな…?)

少し心のどこかでホッとしながらもあまり話した事が無いマコトに緊張で体が強張る。

「えっと…実はダンスでちょっと行き詰まってて…。自分らしい表現っていうのがよく分からなくて。何をどうしたら自分らしいになるんだろうとかいろいろ考えたんだけどまだどれもしっくりこないし…。どうしたらそういうのわかるんだろうって…。ごっごめんね!急にこんなこと言われても困るよね!」

「いや、いい。それに何となくわかる。」

「えっ…?」

「俺のやってる事はステージ上に上がっている人たちと違って直接俺のことが見えるわけじゃない。光と音。それを通じてステージという名の一つの作品の世界をより鮮やかに客席へ届けるものだと俺は思っている。例えば音の入りが数秒違うとか、ライトが右から当たるか左から当たるかそれだけでも見え方は変わってくる。そう言った細かいことを一つずつ確認してパズルのピースをはめていく。少しでも違和感があれば納得いくまでいろいろ試す。そうやって一つの世界を完成させる。でもどうしてもピースがはまらない時もある。」

「そんな時はどうするの?」

「他の舞台を見てみたり自分が普段見ないようなものを見る。今の自分が持っているもので足りないのならそれを補えばいい。だから俺の知らないものをたくさん見てそこからヒントを得る。そうやって新しいピースを探す。」

短い沈黙が二人の間を流れる。しかし、つい先ほどとは違いとても心地よく感じた。

「なんだか…感動しちゃった…。マコト君はそうやって自分の中の世界を作品にしてるんだね。すごくいろいろなこと考えててすごいなぁ。私ももっと頑張らなきゃ…!話してくれてありがとう。」

「おう。」

「みんなもう集まってるー?」

話が終わると同時にアスカとアキラがやってきて会議が始まった。




会議が終わるとココロは急いで練習場所へと向かった。準備を急いで終わらせると、丁度リカがやってきた。

「あっ!リカ!!」

「今日の会議出られなくてごめんなさい。何か新しく決まった事はある?」

「用事があったんだし仕方ないよ!えっとね、アキラ君が今度私たちの動きをパソコンに取り込みたいから一回動画撮らせて欲しいって!日にちはまた明日学校で相談って事で。」

「わかったわ。」

「あのねリカ。またお願いがあるの!私はまだどうやったら自分が思っているようなモノを表現できるのかも、どうしたらいいのか、どんな方法があるかも分からないから…リカにもっといろんな表現を教えて欲しいの!なんていうか…自分の中にある自分だけの世界を表現したくて…その…。」

なんと言って説明したらいいか分からなくなっているココロを見てリカがクスクスと笑い出す。

「ふふっ。いいわよ。」

「ありがとう!なんていうか説明するのが難しくて困らせることもたくさんあるかもしれないけど…。」

「大丈夫よ。最初はみんなそんなものなんだから。でも私が教えるからには厳しくいくわよ?」

「合宿でわかってるから大丈夫!それにリカの厳しさは優しさだからね。」

「なっ何言ってるの?もう!」

「ふふふっ!」

照れて顔が赤くなるのを隠すように顔を背けるリカを見て思わず笑みがこぼれた。

(まだ私の中にある私だけの世界っていうのがどんなものか自分にも分からないけど…。みんなと一緒なら見つけられる気がするよ。)

「ほら!さっさと始めましょう!当日までに最高の舞台に仕上げるんだから!」

「うん!よろしくお願いします!」

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Flower Voice Collection 小説シリーズ2 @paty

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