9話 ソウゾウの始まり

「私たち2人で一体どうするの?」

「まぁ他にもまだ人は集めるつもりだけどね。最低でもあと3人は必要かなぁ。」

「3人ってことは全員で5人か…何するかは考えてあるって言ってたけど5人で一体何するの?」

「ミュージカルよ。」

「え!?ミュージカル!?5人で?それはちょっと無理があるんじゃ…。」

「大丈夫!ちゃんと考えてあるって言ったでしょ?私たちがやるのはミニミュージカルよ!」

「ミニミュージカル?」

「そうよ。」

「ミュージカルの縮小版って事?」

「少し違うけど大体はそんな感じね。」

ココロの頭にははてなが飛び交っている。それを察してかアスカは手帳に何かを書き始めた。

「普通のミュージカルと比べて私たちは練習時間も人も足りてない。でもその代わりステージの時間も限られてる。私たちの持ち時間は15分。その15分で最高のステージをする為に少数でやるの。」

「でもミュージカルなら人数はもう少し多い方がいいんじゃない?」

「10分でそんなにたくさんの人がステージに上がってもただゴチャゴチャしたものが出来上がるだけよ。大人数だとフリを合わせるのにも時間がかかるし、練習時間を合わせたり場所の確保も大変になってくるわ。それに今回のステージは事務所の方々に見てもらえる大チャンス…皆んな自分が目立ちたいと思ってるはず。」

「そっか…そういうところで揉めたりするかもしれないもんね。」

「それに事務所の方々に自分を覚えてもらうには少人数の方が好都合!」

「むしろそれがいちばんの理由なんじゃ…。」

「まぁそんな理由で少数精鋭でのミニミュージカルにしようと思ったわけ。」

「理由は分かったけど…それでも5人だと準備も大変なんじゃない?それに迫力に欠けるし…。私精鋭でも何でもないんだけど…」

「ココロはやる時はやるじゃない!まぁ準備は少し大変かもしれないけど、でも迫力に関しては大丈夫!何とかしてくれそうな人がいるのよね。」

「何とかしてくれそうな人?」




それから2週間がすぎ学校が始まった。もう秋になるというのに空気が焼けるように暑い。

(学校が始まったら声かけてみるって言ってたけど何とかしてくれそうな人って誰のことなんだろう?今日はあと一コマで終わりだし終わったら聞いてみようかな。)

ボーッと考え事をしながら教室へ向かっていると曲がり角で誰かとぶつかった。

「キャッ!ごっごめんなさい!」

ぶつかった拍子に相手が持っていたプリントが数枚床に散らばった。よく見るとぶつかったのは同じクラスのアキラだ。

「僕の方こそすみません。大丈夫ですか?」

「大丈夫!ちょっとボーッとしてて…あっ!プリント拾うね!」

「いいですよ。これくらいなら1人で拾えますから。」

「私がぶつかったのが悪いんだし私が拾うよ!」

そう言ってプリントを拾おうとすると足元に落ちているプリントを踏みつけた。

「わぁっ!」

「ちょっうわぁぁ!!」

転びかけたココロが咄嗟に掴んだのはプリントを持っているアキラの腕だった。突然引っ張られたアキラは抵抗することも出来ずココロに引っ張られて尻餅をつく。そして見事に全てのプリントが床に散らばった。

「あ…あの…。ごめんなさい。」

「はぁ…。誤ってる暇があったらさっさとプリント拾ってくれませんか?早く先生に届けて教室に戻らないといけないので。」

「はっはい!ごめんなさい!」

プリントを全て拾い終えるとアキラはすぐに提出しに行ってしまった。

(悪いことしちゃったなぁ。でもアキラ君前はあんなにツンツンしてなくてもっと優しかった気がするんだけど…。)




「ねぇアスカ。今日アスカが言ってた何とかしてくれそうな人を誘うんだよね?それって誰なの?」

「あーそれなんだけどちょっと一筋縄じゃいかないというか…。実は朝一で誘ったんだけど『僕が納得できるようなプランが出来るのならやってあげてもいいですよ。』って断られちゃって…。」

「なんかすごい上からだね…。でもそれじゃあどうするの?」

「諦めないわ!他に適任者もいないしね。でも他の人からも声かけられてるの休み時間に見ちゃってさ。だから早く説得できるように他のメンバーを先に揃えることにしたの。それでココロに頼みがあるんだけどココロにも1人メンバーを集めて欲しいのよ。」

「え!?私が?だっ大丈夫かな…。私が誘いに行っても断られるんじゃ…。」

「私ももう1人誘う人決めてるからそっちがうまくいけば手伝うからさ!ココロはダンスが上手な人1人誘ってみてよ!合宿でみんなのこと見てるしわかるよね!それじゃあ私はそのもう1人を勧誘してくるからよろしくね!」

「あっ!ちょっと待ってアスカ!!」

アスカはあっという間に教室の外へと消えた。

(どうしよう…ダンスが上手い人には心当たりはあるけどでも一緒にやってくれるかな…。)

ココロは不安に思いながら、とりあえず帰路についた。1人で歩きながら先程アスカに頼まれた事を考える。

(なんて誘えばいいんだろ…一緒に学年末ステージやりませんか?とか?でも…。「また去年みたいに迷惑かけられたくないから無理。」とか「アナタみたいなトラブルメーカーとは一緒にやりたくないわ。」とか言われたらどうしよう…。)

悪い想像で頭が一杯になっていると突然誰かに肩を叩かれた。

「ふわぁ!?だっ誰!?」

ビックリして振り向きざまに後ろに転びそうになる。

(ヤバ!ここ石畳!!)

衝撃に備えて目をぎゅっとつぶるが転んだ時の痛みの代わりに誰かに前に引っ張られる感覚がした。

「大丈夫?」

声がして目を開けるとそこにはカイトの姿があった。

「かっカイト!」

「声かけても気づかなかったから肩を叩いたんだけど…びっくりさせてごめんね。」

「えっと…その…私も考え事してて…あの…気がつかなくてごめんなさい。」

「大丈夫だよ。あと少しだけど一緒に帰らない?」

「うん…。」

2人で寮に向かって歩き出したもののココロはカイトの顔を直視出来ないでいた。

(カイトの顔見たらまた思い出しちゃった…。変な態度とかとってないかな…。)

鼓動の音が早く大きくなって頭もパンクしそうだ。

「声かけても気がつかないなんて相当真剣に考えてたのかな?それとも困りごと?」

「えっと学年末ステージのメンバーを1人誘うようにアスカに頼まれたんだけど…。OKしてくれるかな〜って、断られたらどうしようかなって考えてて。」

「あと半年後だからね。今日他にもメンバー集めしてる人たち見たよ。」

「うん。だからもう誘われてるかもしれないし、誘われてなかったとしても私去年みんなにたくさん迷惑かけてるし私なんかと一緒にやりたくないかもしれないから…。」

「俺だったらココロに誘われたら直ぐOKするけどね。」

「あっありがとう…。」

「それにココロが誘おうとしてる子なら大丈夫だよ。」

「どうして?」

「ココロが誘おうと決めたんだからその子はすごくいい子なんじゃないかなって思ってさ。ココロが思ってるようなひどい断り方はしないよ。」

カイトの手が優しくココロの頭を撫でる。

(そっか…そうだよね。みんながみんな酷い人ばっかりじゃないもんね。)

「もう着いちゃったね。それじゃあココロ、頑張ってね。」

「うん!ありがとう!」

寮へ入るとココロは自分の部屋を通り越して同じ階の角部屋の前に立った。一度深呼吸をするとインターホンを鳴らす。ドキドキしながら待っているとドアがゆっくりと開いた。

「どちら様?」

「あっあの!こんにちは!リカ!」

「ココロじゃない?どうしたの?」

「えっと…ちょっと話があって来たんだけど…今時間大丈夫かな?」

「いいわよ。どうぞ上がって。」

「へっ!?入っていいの?」

「立ち話もなんだしね。それにちょうど今お茶入れたところなの。」

「じゃあ少しだけお邪魔します。」

部屋に入ると可愛らしい物がたくさん置かれている。

「すごい可愛くて女の子の部屋って感じだね。」

「だって女の子じゃない。」

そう言いながらリカは紅茶をいれる。

「私の部屋はもっと暗い色が多いから同じ間取りでも全然違う部屋に来たみたい。」

「そんなの当たり前でしょう?家具が違えば同じ部屋でも印象なんて全然違うわ。はい、どうぞ。ミルクとレモンは好きに使ってちょうだい。」

「ありがとう。このカップもすごくおしゃれだね。」

「あら!ココロ見る目があるわね!これは私のジノリコレクションの中でもお気に入りのカップなの!」

「えっ。ジノリ?」

カップを持とうとした手を止めて自分の聞き間違いかどうかを確認するが、リカはとても嬉しそうに返事をした。

「そうよ。この繊細な作りに際立つ白!とっても素敵でしょ?」

「もしかしなくてもリカってお嬢様だったりする?」

「そんなことないわよ。普通よ普通!」

(いや絶対お嬢様だよ!)

「それより話って何かしら?」

「えっと…リカってもう学年末ステージ何するか決めたの?誰かに誘われたとか。」

ドキドキしながらリカが紅茶を飲んでいる姿を見守る。

「そうね。別のクラスの子に今日誘われたわ。」

「そっか…。じゃあダメだね…。実はステージ一緒にやらないかなと思って誘いに来たんだけど…。」

「いいわよ。」

「え?」

今度こそ聞き間違いではないかと聞き返してみるがそうではなかった。

「いいわよ。一緒にやりましょう?」

「え!?でもさっき別の人にもう誘われたって…。」

「誘われたけどOKはしてないわ。」

「どうして?」

訳を聞くとリカは少しムスッとした顔になった。

「だってあの子たち向上心が見られないんだもの。何をするのか聞いて即お断りしたわ。」

「でも私まだ何するかも話してないのに…。」

「きっと夏休み前だったら断ってたけどね。」

「えっ。」

「去年のココロを見て出来てないところはなかなか直らないし、何度言っても間違えるし。私、ココロは努力できない自分に甘い人だと思ってたもの。」

「そんなふうに思われてたんだ…。」

苦笑いを浮かべながら他の人にもそう思われていたのではと少し不安になる。

「でも夏の合宿でそうじゃないって知ったわ。本当に運動が苦手なだけだってね。」

「ゔっ…。」

「ふふっ。やる気もあって努力もできて何とか自分の苦手を克服しようとしてる。私もダンス始めた時はココロみたいに何もできなくて何度も練習したのを思い出したわ。」

「えっ?リカが?」

「そうよ。誰でも最初からうまくできるわけじゃないわ。私も最初はココロと同じくらい下手だったんだから。でもそんなこと忘れてみんなにも自分と同じモノを求めるようになってた。でもそれは違うんだってココロが気付かせてくれたの。」

「リカ…。」

「そんなココロが誘ってくれるステージなんだから絶対にいいものになるに決まってるでしょ?どんなステージになるのか楽しみだわ!」

不安もドキドキも全部消えてなくなって温かい気持ちがココロを満たした。

「ありがとうリカ!私頑張るからよろしくね!」

「こちらこそ!」




次の日。リカにOKをもらえたことが嬉しくてルンルンで登校して来たココロは早速アスカに話しかけた。

「おはようアスカ!ダンスしてくれる人OKもらって来たよ!」

「本当!?やるじゃないココロ!」

「ふふふ。こちら新しくメンバーに加わってくれたリカでーす!」

「よろしくお願いするわ。」

「えっ!?リカさん!?でもどうして!?」

「そういえばアスカにはまだ詳しく言ってなかったっけ…。合宿でいろいろあって仲良くなったの!」

「そうなんだ。まあその話はまた今度聞くとして私も1人人員ゲットして来たわ!隣のクラスのマコト君!音響と照明を担当してもらうわ。」

「それじゃあ残すは昨日言ってた強敵だけだね!」

ココロがグッと拳を握って気合を入れているとリカが不思議そうにしている。

「強敵?何なの?それ。」

「アスカが一回誘ったんだけど『僕が納得できるようなプランが出来るのならやってあげてもいいですよ。』って断られちゃったんだって。」

「何だか腹の立つ言い方ね。」

「まあそうなんだけど実力は本物なのよ。おっ噂をすれば!私ちょっと連れてくるわ!」

そう言ってアスカは今しがた教室に入って来た男の子を1人捕まえた。

(あれあの子確か…。)

「はい!この子が私が昨日言ってたアキラ君でーす!」

「ちょっと!朝から一体何なんですか!人を無理やり連れて来て!」

「あの〜…アキラ君って映像系だったような気がするんだけど…。」

「あら、じゃあこの方は裏方なの?」

「そうよ!アキラ君は私たちのステージに絶対必要なの!」

それを聞いたアキラがアスカの手を突然振り払った。

「だから昨日も言ったでしょう!僕が納得できるようなプランがない限り貴方と組むつもりはありません。まだ人も揃っていないと昨日言っていたでしょう?それでは話になりません。僕はこれで失礼します。」

「ちょっと待って待って!メンバーなら揃ったから!」

慌てて引きとめたアスカにアキラが怪訝そうに尋ねた。

「メンバーが揃った?昨日の今日でですか?」

「そうよ!」

「はぁ……。昨日の今日で揃うような寄せ集めのメンバーで僕を勧誘しようとは…。僕も安く見られたものですね。そんなものに…」

「安くなんて見てないよ!」

ココロが突然大きな声を上げた。

「リカはクラスで一番ダンスが上手いしアスカだって歌がすごく上手だし!マコト君の事は私はよく知らないけど…でもアスカが少数精鋭でやるって言ってたの!だから絶対安くなんて見てないよ!」

アキラはビックリした顔で固まってココロのことまっすぐ見ている。

「あっえっと…私は別に精鋭じゃないんだけど…でもみんなの足引っ張らないように頑張るから!一緒にやってくれないかな…?」

数秒間を置いてようやく固まっていたアキラがメガネの真ん中の部分をクイッと押し上げる仕草をする。

「それではアスカさん、リカさん、マコト君、そしてココロさん貴方もメンバーという事ですか?」

「うっうん。そうだよ。やっぱり私と一緒じゃ嫌かな……ごめ…」

「やりましょう。」

「え?」

「ですから、あなた方にこの僕が力をお貸ししましょうと言っているのです。」

「え!?でも納得いくプランじゃないとやってくれないって…。」

「何を言っているんですかアスカさん。そんなこと言いましたかね。」

「いや、さっきも言ってたでしょうが。」

「そんな事はどうでもいいです。僕がココロさんたちのステージを必ずや良いものにして差し上げましょう。」

「ありがとうアキラ君。これからよろしくね。」

「っ!ええ…でっでは僕はこれで!」

少し慌てた様子でアキラは教室の前の方へと去って行った。

「メンバー揃ってよかったね!アスカ!」

「ちょっと納得できないところはあるけどまあいいわ。あとは曲を決めたらひたすら練習よ。」

「でもミニミュージカルでアキラ君に何してもらうの?」

「そうよ。あの子映像専攻希望なんでしょ?」

アスカが何やら待ってましたと言わんばかりに不適に笑う。

「ふふふ…。ココロ去年アキラ君がホログラムの映像作ってるの見たのよね。」

「うん。本当にそこで動いてるみたいですごかったよー!」

「それを使ってダンサーを増やすのよ。前もって2人にはダンスを録画してもらって本番ではステージで2トップで踊ってもらうわ。後ろのダンサーは好きな数に調節できるし映像だから2人が振り合わせ出来ればあとはみんなぴったり踊ってくれるってわけ!」

「確かにそれなら人数が少なくても映像の組み合わせでいろんなことができそうね。」

アスカの案を聞いてリカも想像を膨らませる。

「でしょ?それで出来れば全部で3曲やりたいと思ってるの。2曲は私が歌って最後の1曲はココロにも歌ってもらう。」

「えっ!?私もいいの!?」

てっきりダンスのみの参加だと思っていたので嬉しく思いつつも驚きが勝る。

「ココロは最終的には歌もやりたいんでしょ?だったらアピールしといて損はないじゃない?それにダンスはリカさんだけになるけど、そこに見せ場を持ってこればダンスで一番輝ける。どう?みんながそれぞれアピールしたいモノがこのステージではアピールできるの。」

「すごいよアスカ!」

「本当にすごいわね。そんなに考えがまとまってるとは思ってなかったわ。」

「まあココロはすぐOKしてくれると思ってたけど他の人を誘うならそれなりにちゃんと考えてないといけないかなと思ってたからね。」

「誘ってくれてありがとうアスカ!本当に楽しみ!」

「私も誘ってくれて感謝するわ!最高にいいものにしましょう!」

「それぞれの強みとかやりたい事全部詰め込んで自分を出せるいいステージにしよう!」

「「「おー!」」」

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