15. ポンコツ聖女は、幸せになる
「ところで、国中の誤解についてなんだけど……」
話も一区切りついたころ、シルフィーはおもむろに切り出す。
「誤解?」
「ほら。私と勇者が――恋人同士だっていう、よく分からない誤解だよ」
勇者のために素敵な恋人を見つけてあげないと、という使命感で動いていたシルフィーにとって、それは寝耳に水であった。
「ああ、そのことか。今に始まったことじゃないだろうに……」
「え、そうなの?」
「なんで初めて知ったような反応なんだよ!?」
シルフィーのポンコツっぷりを舐めてはいけない。
レストランでご飯を食べていたとき、シルフィーの五感は味覚以外は機能していなかった。否、勇者から女の子として見られないことに慣れ過ぎて、勇者のことをそういう対象だと認識していなかったのである。
「……まあ、シルフィーらしいけどな」
勇者目線、踏んだり蹴ったりである。
いつ結婚するのかという目線でシルフィーとの間柄を見られているのに、シルフィーからはまるで相手にされていないのだ。挙句の果てに、毎朝のように恋人ガチャを回させてあがるー! なんて……煽ってんのかって話である。
「シルフィーが居ない生活は……なんというか、静かだったな」
「つまり、うるさいと?」
「静かだったけど――なんだか張り合いもなかったんだ」
レストランのおばさんが妙なことを口にしたせいで、シルフィーはバリバリに勇者のことを意識してしまっていた。いつも通りなようで、妙に距離感に困っているシルフィーを見て――勇者も、妙な気持になってしまう。
この2人、容赦なく互いの心をえぐり合いながらも、共にいるときが生き生きとしているのだ。国中の共通認識は伊達ではない、そう見られるだけの理由はあるのだ。
「勇者、一緒に暮らそうか?」
「もう暮らしているのだろ……」
この、2人でいることが当たり前になっていたのだ。
ガチャの時間ですなどとくっついていたシルフィー、勇者に恋人ができてしまったときどうするつもりだったのだろうか。
「ええっと。末永くよろしく?」
「照れるなよ、らしくもない……」
「……」
「何か言い返せよ! ほんっと調子狂うな……!?」
シルフィーの脳内では、これまでの勇者との思いでが走馬灯のように駆け巡っていた。
(めちゃくちゃ恥ずかしいことしてね?)
勇者のことをただの幼馴染の友達だと思っていたからこそ出来たこれまでの行動――あ~んも、食べさせあいっこも、いやそもそも魔王討伐の旅だって。
ポンっと赤くなるシルフィー。
まさかそんな羞恥心らしきものが、この幼馴染に残っていたなんてと驚く勇者。
甘い空気などまるでない、不思議な空間。
まるであるべきものが、当たり前のように収まっただけとでもいうように。
否、とっくに収まっていたのを自覚しただけか。
ちょっとしたすれ違いから始まった、ポンコツ・聖女の追放劇はこうして幕を閉じた。
◇◆◇◆◇
メランコリー・デントリア城。
そこは、2人の国王が住むお城。
「魔王様、その杜撰な予算の管理はなんですかっ!
モンスターだから計算に弱いって、そんなのただの言い訳ですよ。
シルフィー様を見習ってください、もう本当に頭が痛い……」
勇者は、シルフィーに手厚い補佐官を付けていた。
シルフィーがイエスマンになるだけで、国が円滑に回るように。
そんな事情を知ることもなく、幸か不幸かミスティーユに対するシルフィーに対する熱い信仰心は失われることはなく。
「勇者、恋人ガチャ回しても勇者しか出なくて面白くない。
なんか面白いもの出してよっ!」
そんな奇妙な形で運営されていった国は、おもいのほかうまく回っていた。
生活圏が全然違うものたちで構成されている小さな国なのだ、あまり固くならずぐらいの緩さでちょうど良いのだろう(完全に偶然の産物だが)
シルフィーは今、とても幸せであった。
勇者は今、とても苦労していた(シルフィーの幸せの分まで)。
――そんなアンバランスな4人が作っていくこの国は、末永く笑顔に包まれていたとのことである
恋人ガチャのスキルを持つポンコツ聖女は、勇者と魔王に追放される ~街で出会った婚約破棄された悪役令嬢に恋人ガチャを使ったら、なぜか魔王を引き当てました~ アトハ @atowaito
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