11. ポンコツ聖女は、魔王を召喚する
フラッシュバックする記憶。
以前、似たような景色を見たことがある。
その記憶は……
勇者がはじめてSSRを引き当てた時の魔法陣っ!
「やったね勇者っ!」とハイタッチで喜んだ矢先に、現れたのは真っ赤な鱗特徴的なドラゴンであった。
「SSRだと、ドラゴンが現れましたね……」
「え?」
「URだと何が出るんでしょうね……」
「え、え。……え?」
恋人ガチャのスキルに関して、シルフィーには圧倒的な経験があった。
経験則から、期待したときは大抵ろくなことが起こらないということを知っているのだ。
ポソッと脈絡のないことを呟いたシルフィーを、ミスティーユは驚いたように見つめる。
「シルフィ、必要としているものが手に入るスキルなんですよね。
そんなに慌ててどうしたのですか?」
「細かいことは後です。
逃げましょう、ミスティーユ様」
SSRですらメスのドラゴンが表れたのだ。
もはやポンコツ聖女は、平然と街中に凶悪なモンスターを召喚する歩く災厄と化した。
あのときは勇者がいたので事なきを得たが、あいにくここに居るのは完璧令嬢と戦う能力を持たない聖女のみ。
「状況は分かりませんが、シルフィーのことを信じます」
ミスティーユは細かい疑問を飲み込み、シルフィーの言うことに従うことを選択する。
もちろん無害なものが出てくる可能性はあるが、念には念を入れて最大限警戒するに越したことはないだろう。
(あんな別れ方をしておいて、ちょっと
万が一、変なものが出て来たときのため。
シルフィーは街を危険に晒さないためにも、一刻も早く勇者を呼ぶことを選択。
走りだそうとしたところで、慌てるシルフィーをあざ笑うようにガチャの演出は収束していき――
「シルフィーの仕業だよね……」
見覚えのあるモンスターが登場しました。
モンスター? 否、モンスターを束ねる王。
ミスティーユが回した恋人ガチャは、なんと魔王を呼び出したのでした。
「僕は国の政策について、勇者と大事なお話があるって。
そう言ったよね。なんでこんないたずらをしたんだい?」
(狙って召喚したわけじゃないよ。
むしろURが出た瞬間のトキメキを返して!)
のど元過ぎればなんとやら、そんなことを思うシルフィー。
今後の国のあり方について、それはもう熱い討論を交わしていたのだろう。
それを邪魔された魔王は、明らかに不満かつ機嫌が悪そうであった。
魔王は怒るととっても怖いのだ。
機嫌が治るまで、笑顔のままチクチクと嫌みを繰り返すようになるのだ。
その嫌みがなまじ正論である分、非常に厄介なのだ。シルフィーは、普通に怒っていそうな魔王を見て顔を引きつらせた。
「魔王様!?」
一方、そんな空気を読まずミスティーユは目をキラキラさせる。
いまだにモンスターに怯える人も多いが、彼女は勇者と聖女の物語に魅せられてしまった人間。
同じく物語の登場人物である魔王にも、それはそれは熱い視線を送るのだった。
どれだけ完璧な令嬢に見えようとも。
こういうミーハーなところを見ると、同じ人間なのだとシルフィーは親近感を覚える。
「み、ミスティーユ様。
ど、ど、どうしてこのような国までいらっしゃったので!?」
予想外だったのは魔王の反応であろう。
いつもは冷静沈着な魔王が、珍しくうろたえ声を裏がえらせたのだ
シルフィーは、こてりと首を傾げながらその様子を興味深く眺めるのだった。
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