10.ポンコツ聖女は、恋人ガチャでURを当てられる

「落ち着いてください、ミスティーユ」


 他人のためにここまで本気で怒れるミスティーユは、大変魅力的なのですが。

 話がだんだんと物騒な方向に向かっているのを察して、シルフィーは慌てて止めにかかった。



「はい、シルフィー。冷静に機を見るべきですね。

 軍部か内政か。出来たばかりの国は、買収も容易でしょう。

 まずはどこから崩しますか?」

「大真面目に、この国を転覆させようとしないでください……」


 この人の恨みは買わないようにしよう、とシルフィーはひそかに決意。



「クーデターなんて、起こさないですからね!」

「遠慮は美徳ですが、このままでは国は変えられませんよ?」

「いえいえ、勇者様と魔王に任せておけば間違いないので……」

「とてもそうは思えませんよ。

 クズ勇者に変わって、聖女様がこの国を切り盛りしていくべきです」



 ミスティーユの中で、勇者の株は下がり切ったようである。

 かわりにシルフィーの株が際限なく上がり続け、収拾不能なレベルに到達。


 シルフィーは知っている。勇者の優秀さを!

 暇を持て余していたシルフィーは、勇者と魔王が「これから国を良くするために」と話しているところを盗み聞きしたことがあるが、これっぽっちも内容が理解することができなかったのだ。




「まあまあ、せっかくこうやって会えたことですし。

 もっと楽しいことを話しましょう」


 ミスティーユの勢いを止めることは不可能。

 シルフィーは、諦めて話を逸らしにかかった。

 



「景気づけに『ガチャ』、回してみませんか?」


 【恋人ガチャ】なんて名前を、ミスティーユに伝えるのは少しだけ恥ずかしく、シルフィーは少しだけぼかした伝え方をする。

 本日分の分のガチャは、勇者が回していないのでちゃんと残っていたのだ。

 使いどころに困っていたが、ミスティーユに使って貰えるなら大歓迎である。



「ガチャですか?」

「ええ。その人が必要としているものが手に入る、一日に一回だけ使える私のユニークスキルです。

 ちょっとした運試しと思って是非っ!」


 どうやらミスティーユの国では、とても珍しいスキルだったようで。

 ミスティーユは、シルフィーの説明を興味深そうに聞いていた。


「そんな貴重なスキルを、私ごときが使ってよいのですか?」

「ミスティーユに使ってもらえるなら本望ですよ」


 何が出てくるのでしょう?

 ミスティーユが気に入るような可愛らしいモンスターとかが出ると良いのですが。



「ふふっ。面白いスキルですね。

 何故そんなものを取得したのか? などと聞くのも、野暮なのでしょうね。

 聖女のスキルを使いこなすだけで大変でしょうに、そのような趣味スキルまで取得しているとはアッパレです。シルフィー様は、ユニークなお方なんですね」

 

 ミスティーユは、くすくすと笑いながらシルフィーを褒めたたえた。

 聖女のスキルがガチャのスキルなのだが、その事実をミスティーユが知ることはなかった。



「ではミスティーユ、このボタンを押してみてください」


 シルフィーは「恋人ガチャ」と書かれた「恋人」の部分を隠しながら、ガチャボタンをミスティーユに差し出した。

 ミスティーユは、ちょっと悩みながらもポチッと押す。




 やがて現れたランクは


 ――UR


「どうなんですか、これは?」

「ミスティーユ、凄い運です。

 最高レアリティですよ、初めて見ましたっ!」


 ワクワクしたミスティーユの質問に、シルフィーも興奮を抑えきれずテンション高く答えた。

 勇者と冒険しながら回し続け、結局1度たりとも出くわすことの無かった最高レアリティ。

 派手な演出とともに現れたきらびやかな文字は、シルフィーにも何とも言えない達成感を与えたのだ。



「な!?」


 そして、虹色の光を発し「ガチャ」の魔法が発動した。

 一体なにを召喚しようとしているのか。

 現れたのは魔法陣はとても禍々しく、とうてい幸運を運んでくるものには見えない。

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