7.ポンコツ聖女は、貴族社会の闇に振れる
「ええっと……聖女については置いておいて。
何もしていないミスティーユ様が、なんで国を追放されることになったんですか?」
「幼き日に親同士に決められた婚約でしたから。
王子は、私を疎ましく思っていました。信頼関係を結ぶことができなかったのです。
だから――男爵令嬢の言い分が、全て信じらてしまった」
ミスティーユの話が全て真実だとするのならば、この公爵令嬢はありもしない罪で断罪され、更には国外追放までされたということになる。
どうやら浮気相手の男爵令嬢が、王子の婚約者の座に収まったらしく。
(ミスティーユ様は、
これが貴族社会の闇か、とシルフィーは冷や汗をかく。
貴族社会の暗部に触れてしまった気がして、平民で良かったと改めて思った。
「今回の功績を称えて貴族の位を与えよう」という国王の提案を、勇者が断ったときシルフィーは散々文句を言ったものだが、勇者の判断を称えたい。
「そのような無茶苦茶、見逃されて良いはずがありません。
ミスティーユ様のご実家は、黙っていらっしゃったのですか?」
「男爵令嬢ごときに嵌められるような娘はいらない。
『おまえとは親子の縁を切るだ』と言われて、庇ってもくれませんでしたわ」
なんと厳しき貴族社会か。
身内であっても、恥を晒したものには容赦ないということだろう。
「とんでもない話ですね……」
話を聞く限り 120% 隣国の王子が悪い、許すまじ。
あれだけ憧れたミスティーユは、今では涙で顔を濡らしてドレスもぼろぼろ。
これほど完璧なお方を国外追放に処するなんて、正気とは思えない。
見たこともない隣国の王子を、シルフィーは内心で罵り恨みをぶつける。
「ようやく落ち着きました。
ありがとうございます、親切な方」
ミスティーユ様が、ドレスの端をつまむと気品のある一礼をしてみせた。
すべての動作が優雅で、本当に見習いたいと思うシルフィーであった。
「住めば都とは言いますが。
『魔王と勇者が作る国』と聞いて、モンスターと人間が共に暮らしているなんてどんな街なのかと戦々恐々としていましたが……。良い街ですね」
「ありがとうございます。勇者もきっと喜びます!」
勇者たちが、築き上げた街を褒められるのは喜ばしい。
私が満面の笑みでそう答えると、
「ところで、あなたのお名前をお聞かせ頂いても……?」
「あ、名乗りもせずに申し訳ありません。
私は、シルフィーと申します」
ミスティーユに名前を尋ねられ、シルフィー今更だなと思いつつ名乗った。
これが貴族のパーティーだったら、失礼にも程がある。
初対面なら、とりあえず出会ったら挨拶するのは貴族社会の常識である。
さすが3日坊主、マナー講習で受けた内容をなんてシルフィーの頭には残っていなかったのである。
(3日坊主は早過ぎた。ミスティーユ様の前で、こんな失態をっ!
せめて1週間ぐらいは、貴族のマナーをまじめに習っておけばよかった。すべては、マナーを実践しようとしたら笑いやがったあの勇者が悪いっ!)
シルフィーが心の中で勇者を口汚くののしっていることも知らず、
「まあ。『シルフィー』と言えば。
勇者様と並んで世界平和に貢献されたという聖女様と同じ名前ですね?」
目を丸くしたミスティーユはそう言った。
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