8 ポンコツ聖女は、勇者のクズぷりを告発する
ダンスパーティーの場では、ミスティーユは貴族令嬢として堂々たる立ち振る舞いをしてみせた。
しかしシルフィーの名前を聞いたときの反応は、年相応の少女のようであった。
「恥ずかしながら、その聖女というのは私ですね」
シルフィーは、少し遠慮がちにそう返す。
あこがれのミスティーユ様からの評価を前に、いたたまれなくなったのだ。
ミスティーユ様は、言葉の意味を考えるように首をかしげていたが
「ええええ!? ま、まさか。
あなたは様は、まさか聖女様でいらっしゃるのですか!?」
めちゃくちゃ驚き、そうシルフィーに問いかけた。
「は、はい……。なんか驚かせてしまってすいません。
実物がこんなので、本当にすいません……」
「いえいえ、お美しいです。神々しいですよ!
この国に来て良かったです。ああ、もう思い残すこともありませんっ!」
ミスティーユは、「ありがたや~」とシルフィーを拝みはじめる。
こんなポンコツ聖女を拝んだところで、なんの御利益はないのだが。
「あの……。ミスティーユ様は――」
「聖女様から、様付けなんてとんでもございません。
呼び捨てでお願いします」
「え、ええっと……。では私のこともシルフィーと……」
「聖女様を呼び捨てなんて、そんな恐れ多いこと――」
ミスティーユ様は、興奮した様子で目をキラキラとさせています。
まるで有名人に出会ったら幼い子供のように。
シルフィーのあまりのポンコツっぷりに、目が覚めなければ良いのだが。
「なぜそれほどまでに、聖女を信仰していらっしゃるのですか?」
「聖女様と勇者様が紡ぐ英雄譚がですねっ!」
その質問を受けて、ミスティーユはそれはもう熱心に語ったのだった。
なんでも隣国では、勇者と聖女の魔王討伐の旅はベストセラーとなっているそうで。
ミスティーユ様は、何度もその恋物語(恋物語!?)を読んだそうで、物語に登場する聖女様に憧れていたらしい。
だいぶ脚色された物語中の"聖女様"の姿に、シルフィーは頭がくらくらとしてしまう。
――勇者にかけられた洗脳魔法を、キスで解いたってなんだ!?
聖女なら回復魔法で直せよ、とシルフィー突っ込む。
なお現実のシルフィーにそんな高度な回復魔法は使えないので、勇者に万能薬を大量に持っておくよう要求するのが関の山である。
シルフィーの役割は、1日1回の恋人ガチャで終わりなのだ。
「だ、誰のことですかそれ?」
ミスティーユ様が語る聖女像は、まるで別人の話を聞いているよう。
あまりの過剰評価に、シルフィーは内心で悲鳴を上げる。
シルフィーは必死で考え、しょうもないことを思いついた。
どうせ評価が暴落するのなら、他人の足を全力で引っ張ってやれと。
もはやただのクズである。
「勇者なんて100%純度の屑ですよ。
回復魔法や支援魔法を当然のものとして受け取って、感謝の意を示すどころか文句を言う始末です。
挙句の果てには用が済んだら、聖女を城から追放する野郎ですよ?」
シルフィーの主観ではそうなのだ。
シルフィーが、気軽にポロっと口にしてしまった一言は。
聖女を信奉するミスティーユに、絶大な効果を及ぼしたのだった。
「追放!?」
隣国でクズ王子に婚約破棄された身であるミスティーユは、その言葉にひどく敏感に反応する。
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