6. ポンコツ聖女は、悪役令嬢と出会う

(記念パーティーに招待された際の立ち振る舞いは、本当に格好良かった)


 シルフィーがミスティーユのことを記憶に刻んだのは、とあるパーティーでの出来事。

 そのパーティーはモンスターとの和平を祝うために、隣国で盛大に開かれたものであった。



「あらまあ、このようなパーティーにそのような身なりで訪れるなんて。みすぼらしいこと」

「聖女などと言われても、所詮は平民の出。このような場所には相応しくありませんわ」


 慣れないパーティーの場に、シルフィーも勇者も悪戦苦闘。

 シルフィーは、嫉妬から嫌みを言う令嬢たちの餌食となってしまったのですが――



「この場は、モンスターと和平を結んだ勇者様と聖女様を称えるためのパーティーですわ。

 相応しくないのはどちらでしょうね?」


 ミスティーユはそう言い放ち、華麗に嫌がらせを言う令嬢を撃退。

 凛とした立ち振る舞いは格好良く、極めつけは王子との優雅なダンスはまさしく会場中の空気を持っていくものだった。




◇◆◇◆◇

 

(あのパーティーの後には、影響を受けてマナー講師を雇ってみたからね。

 ……3日坊主だったけど)


 シルフィーという少女は、とても熱しやすく冷めやすい。

 だから飽き始めたところで「うわっ。おまえが令嬢口調とか似合わねえ!?」などと勇者に馬鹿にされたら、一発勇者をぶん殴ってポイッと止めてしまうのも仕方ないのだ。

 慣れない令嬢言葉に悪戦苦闘するシルフィーを見て、爆笑していた勇者も大概である。

 


 シルフィーにとって、ミスティーユ様には尊敬する雲の上の人。

 だからこの街の中で困っている姿を見て、放っておくことなどできなかった。

 

「ミスティーユ様。

 どうして、このような所にいらっしゃるのですか?」


 せっかくこのような場所で出会えたのだから。

 シルフィーは、少しだけ緊張しながらも話しかけることにした。



「ヴィルフリート王子が、男爵令嬢と浮気をしていたのです。

 そのうえ、嫉妬から男爵令嬢を暗殺しようとした等と冤罪までかけられて。

 あろうことか、大勢の貴族が集まる場で婚約破棄を突き付けられたのです」


 シルフィーが状況を尋ねると、ミスティーユは泣きながら事情を説明した。


 和やかなパーティーは、ヴィルフリート王子の取り巻きが全員で寄ってたかってミスティーユを糾弾する恐ろしい舞台に変貌したとのこと。

 王族と公爵令嬢の婚約が、そう簡単に破棄できるはずがない。

 にわかには信じがたい話だが護衛の方も連れずにここに居ることが、その話が真実だと証明していた。



(ヴィルフリート王子が、そこまで常識の無い行いをする方だったなんて……)


 シルフィーは驚きながらミスティーユに質問を続ける。



「それで、どうしてこの国を訪れたのですか……?」

「私が嫉妬心から男爵令嬢を殺そうとした、と国ではすっかり信じられてしまって。

 婚約破棄の後、国外追放されてしまったのです」


 ミスティーユが語ったのは、王子のとんでもない所業でした。

 着の身着のままでの国外追放。大罪人が相手だったとしても、そんな事例は聞いたことがない。



「暗殺とは穏やかではありませんね……。

 そのようなことをなさったのですか?」

「まさか、そんなことする筈がございません!

 神と、この国にいらっしゃる聖女様に誓って!」


 神と並べられていしまったシルフィー。

 誓われても困るシルフィーは、曖昧な笑みを浮かべるしかない。



「ええっと、随分と聖女様に入れ込んでいらっしゃるようで?」

「当たり前じゃないですかっ!

 聖女様のおかげで勇者と魔王は争いを止めたのです。言うなれば、聖女様のおかげで世界平和が実現されたようなもの。

 それほどの大業を成し遂げておきながら、祖国には何の見返りも求めない――ああ聖女様……」

「そ、そうですね……」



 ミスティーユは身を乗り出して、早口でそう語る。

 憧れのミスティーユにべた褒めされてシルフィーは喜びつつも、化けの皮が剥がれないかと内心ではヒヤヒヤ。

 勇者に付いて行っただけなので、世界平和に貢献した記憶なぞまったく無いのだ。

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