3. ポンコツ聖女は、幸せな妄想に浸る
「ぶ~ぶ~。反復練習とか面倒くさいし……」
これぞポンコツ聖女の真骨頂。
「面倒なことはやらない! それが、人生を楽しく生きるコツだよね。
聖女だからって回復魔法に適正があると思うなよ?」
シルフィーは渾身のドヤ顔を見せる。なぜそこで威張れるのか。
「それに『恋人ガチャ』だって捨てたものじゃないよ。
恋人居ない歴=年齢の勇者にとって、心の支えになってたでしょ!?」
「なってねえよっ!
『恋人居ない歴=年齢の勇者様~。今日のガチャの時間ですよっ!』
……て言葉で、毎日のように起こされる身にもなってみろよ。いい加減、心折れるわっ!」
勇者はシルフィーに言葉を叩きつけ、そのまま崩れ落ちる。
その言葉に、一番ダメージを負ったのは何を隠そう勇者自身である。
なぜ口にしてしまったのか。
(そうだよね、やっぱりモテないのは辛いよね。
だから――女の子に興味を全く持てなくなってしまって、同姓愛に目覚めてしまったんだ。間違った道に向かってしまったんだね……)
しきりに頷くシルフィー。
幼少期の誤解は、何ら正されることなく引き継がれていた。
「諦めないで。今度こそ、URが出る筈っ!」
「ガチャで有り金全部溶かすやつのダメな発言かよ!?」
「ごめんね。この能力、課金して追加で回すことはできないみたいだから……」
「課金して回せるなら、お前ならあっさり所持金使い切りやがっただろうな」
「もちろん! 大切な勇者のためだもん!」
「やめろっ! 装備買う金が無くなる。
ろくな支援魔法が受けられねえから、馬鹿高い回復アイテムも大量に必要だったし……」
はあ、と勇者は切なげにため息をつく。
「もう騙されないぞ。
SSRが出たとか言って、メスのドラゴン召喚しやがったのは許さねえからな……」
「あれは大変だったね……」
村のど真ん中に突如として現れた巨大なドラゴン。
目をハートマークにしたドラゴンが、どこまでも追ってくるのは恐怖としか言えない。
「失敗を恐れていては、進歩はありません。
私のスキルに全てを委ねて――」
「お・こ・と・わ・り・だ。
下らないことを言ってないで、さっさと出ていけよっ!」
「お城から追放ってのは本気なんですね……」
「当たり前だ! 長年の幼馴染の呪縛を今こそ解き放って。俺は婚活するっ!」
なんとも身勝手な理由での、城からの追放。
あまりにも理不尽、とシルフィーは勇者を睨み付ける。
「勇者のばか~! いいですよ、そこまで言うなら出ていくよっ!」
勇者なんて――婚活なんて失敗して、国の運営に頭を悩ます一生を送ってしまえ!
イラッとしたシルフィーは、思考を切り替えることにした。
(仮に、このまま出ていくなら……)
シルフィーは、今後の生き方を想像する。
(勇者の陰に隠れて目立たなかった聖女の力、今こそ見せつけてやりましょう!)
そのためにも、まずは冒険者ギルドに登録するのだ。
もしかすると世界で一番強いパーティーとして、名を爆ぜてしまうかもっ!
余計な心配である。
超有能な勇者の陰に隠れて、シルフィーのポンコツ聖女っぷりが辛うじて表に出なかったというのが正しい。
あっという間に役立たずの烙印を押され、どこのパーティーからも誘われなくなる未来が順当なのだろうが……
――シルフィーは自らのポンコツっぷりを棚上げする。
(目指すは、世界で一番強い冒険者パーティー。
そうなってから追放したことを悔いても遅いんだよっ!)
今後の生き方を楽しく妄想しているシルフィーに、勇者が呆れたように声をかけた。
「いやあ、長年の付き合いだから何考えてるか分かるけど。
おまえのスキル、本当にクソほども役にも立たないからな。
下手なことを考えるのはやめておこうな?」
「何ですって!? 聖女のスキルを、またそうやって馬鹿にしてっ!」
天罰でも喰らうが良いさっ!
シルフィーは、ますます勇者の事が嫌いになった。
「こちらの身勝手で言い出したことだからな。
使用人と別荘を与えるから、そこで幸せになってくれ」
「ありがと勇者様。素敵っ!」
勇者は、失われたシルフィーからの好感度を一瞬で取り戻した!
「……そこまでして、私との縁を切りたいんですか?」
一瞬喜んだあとさすがに悲しくなったシルフィーは、しょんぼりとそう尋ねる。
勇者の態度から、シルフィーに対する「何としてでも城から出ていってほしい」という熱い想いを感じ取ってしまったのである。
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