2. ポンコツ聖女は、追放を言い渡される

 大ホールに入ったシルフィーを、愛用の剣を背中に差した青年が出迎える。

 ツンツンした髪の毛が特徴的な彼こそが、勇者・デントリアである。



「シルフィー、おまえをこの城から追放する!」


 開口一番、デントリアはそう言い放った。

 ピシッと気合の入った表情で、シルフィーに指を突きつける。  


「な、なんの冗談よ?」


 シルフィーとしては、そう返すのが精一杯であった。

 冗談だと思いたいが、勇者の表情はいたって真面目なもの。

 それが分かるからこそ……



(――は?)


 シルフィーは、頭のなかで「何故?」を連呼する。



 右も左も分からぬ中、共に協力して冒険者として成長してきた。

 魔王討伐の旅で心が折れそうなときは、互いを励まし合って苦境を乗り越え。

 訪れた勇者の危機には、必死で回復魔法をかけた時もある。

 私とデントリアは、それはもう固い絆で結ばれている、とシルフィーは固く信じ込んでいるのだ。


 ちなみにシルフィーの中で、記憶はだいぶ美化されている。

 魔王討伐の旅で心が折れそうなときには、勇者がシルフィーの愚痴に付き合い続け。

 訪れた勇者の危機には、雀の涙ほどの回復魔法に呆れた勇者が、自前のエリクサーを使って危機を乗り越えたのだ。

 シルフィーはポンコツ聖女。それはもう、びっくりするほどに戦力外だったのである!

 


(勇者にとって、私はどうでも良い存在だったの?)


 シルフィーは自問自答する。

 シルフィーにとって、勇者と一緒に過ごした魔王討伐の旅はかけがえのない輝かしい記憶。

 


 聖女として生まれてしまったため、シルフィーは魔王討伐の旅に付いて行くことを期待されていた。

 命を落とす可能性も高く、出来ることなら行きたくはない。

 シルフィーとしては嫌で嫌で仕方なかったが「幼馴染の頼みなら」と、なけなしの勇気を振り絞って付いて行ったのだ。

 他でもない勇者の頼みだからと。



「いや、だってお前のスキルすごい俗っぽいじゃん。

 そんなスキルを持った聖女なんて、ほかに聞いたことないぞ。

 本当に聖女なの?」




(なんと失礼なっ)


 シルフィーは、あまりに失礼な言葉に言葉を失った。

 聖女の検査で王冠を輝かせることに成功しているため、どんなスキルを持っていたとしても聖女であることには間違いないのだ。

 たとえ持っているスキルが「恋人ガチャ」などという、まるっきり役に立たないものであったとしても。



「な、私のスキルが役に立たないとでも!」

「まったくもって役に立たねえよ!」

「ゆ、勇者の馬鹿っ!

 そこまで、はっきりと言い切らなくても良いじゃない」

「うっさい。『恋人ガチャ』なんてくだらないスキルを、なんで聖女のおまえが持ってるんだよ!?」


 そんなもの私が知りたいわ、とシルフィーは思った。

 後天的に身に付けられるスキルはともかく、生まれ持ったスキルは変えようがないのだ。

 


「せめて一人前に回復魔法を使えるならまだしも……。

 お前のお守りをしながら魔王討伐の旅をするのは、本当に大変だったんだぞ?」

「な――。回復魔法使ったじゃん!?」

「やくそうの方が効率が良い回復魔法なんか、あっても無くても変わらねえよっ!」


 勇者、ブチギレる。

 ポンコツ聖女たるシルフィーは言い返す言葉を持たず――


「うっさい、勇者の馬鹿!」



 女の子の必殺技を発動。

 目から流れ出るその液体は、世の中の大半の男の子に致死量の大ダメージを与えるのだ!


「回復魔法、勇者様のために必死に覚えのに………」

「覚えただけじゃなくて、もうちょっと上達してくれ……」


 うわ~んと涙をこぼすシルフィーを、面倒くさそうに払いのける勇者。

 勇者は幼馴染のウソ泣きなんて見飽きている。

 なんの効果もなかったのだ。

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