恋人ガチャのスキルを持つポンコツ聖女は、勇者と魔王に追放される ~街で出会った婚約破棄された悪役令嬢に恋人ガチャを使ったら、なぜか魔王を引き当てました~
1. ポンコツ聖女は、モテない勇者に会いに行く
恋人ガチャのスキルを持つポンコツ聖女は、勇者と魔王に追放される ~街で出会った婚約破棄された悪役令嬢に恋人ガチャを使ったら、なぜか魔王を引き当てました~
アトハ
1. ポンコツ聖女は、モテない勇者に会いに行く
この世界に、勇者と魔王を知らぬものは居ない。
人類の希望を背負って戦いに挑んだ者と、人類に恐れられる忌み嫌われていた者。
彼らは互いの生き残りをかけて総力を挙げて殺し合い――やがては、熱い友情で結ばれたのである。
――生まれたのは、人間とモンスターが共に生きる国
誰もが一度は想像し、しかし鼻で笑い飛ばすような理想が本当に形になった場所。
国の首都には、勇者と魔王が住まうお城が平和を象徴する様に鎮座。
人間とモンスター共存の象徴、とも言える奇跡のシンボルと言えるだろう。
◇◆◇◆◇
ここはメランコリー・デントリア城。
勇者と魔王の名を冠するお城の中を、1人の少女がいそいそと大ホールに向かって歩いていました。
純白のドレスを見に纏った少女の名はシルフィー。
「勇者め。人の迷惑も考えずに、こんな朝っぱらから何だ!?」
首を傾げながらも、シルフィーはそわそわと。
端的に言うと浮かれていた。
「勇者が私に用なんて、天変地異の前触れか!」
勇者・デントリアは、まるでシルフィーに興味をもたない。
思えば幼馴染として幼いころから一緒に育ち、魔王討伐の旅では命懸けの旅をした仲であるにも関わらず!
未だに、これっぽっちも女子として意識されていないのだ!
(な、なぜだ……?)
シルフィーは考えた。
常日頃の勇者のシルフィーに対する、あまりに素っ気ない態度の理由を。
いつからだろうと思い返すと、記憶は幼少期まで遡る。
太古の記憶は、わんぱく坊主と一緒にモンスターのフンを投げつける勇者の姿。
涙目のシルフィーに対して「それぐらいで泣くなよな!」と、そんな言葉を投げかけたのだ。クズである。
イラッとしたシルフィーは、道端に落ちていた馬のフンを果敢に投げ返す。やられっぱなしのか弱い少女ではないのである。
逃げ惑う悪ガキたち。調子に乗って追いかけまわすシルフィー。
広がる地獄絵図。……ロクな記憶じゃありゃしない。
――全部、勇者が悪いんじゃないっ!
ふん、と鼻息を荒くするシルフィー。
(私って可愛い方よね?
そりゃあ絶世の美女ってわけじゃないけど。一応、聖女だし)
幼き日のシルフィーは、図々しくも自身をこう評した。
なんとも図々しいが、シルフィーのポジティブな思考回路ではそれ以外に考えつかなかったのだ。
ちなみに聖女というのは、王国で行われる検査で認められた正式なものである。
聖女のような清らかな心を持つ(自称)聖女という比喩表現などではない。
(これほどまでに魅力的な女の子が傍にいたのに、惹かれないのはおかしい!)
何も疑問を持たず、シルフィーは思考を暴走させる。
(つまり勇者は女の子に興味がない!
勇者の中で、恋人は男しか考えられないということねっ!)
その思考回路を読める人がいたなら、ちょっと待てと突っ込みが入っただろう。
しかし、残念なことにこの世界にシルフィーの思考にツッコミを入れられる人はおらず。
何の疑問を挟む余地もなく、幼き日のシルフィーはそう思い込んでしまったのだ。
そして、幼きシルフィーは一大決断をした。
(勇者は大切なお友達。間違った道に進むのは見過ごせない!
勇者に素敵な恋人を見つけて、目を覚ましてあげないとっ!)
幸いにしてシルフィーは【聖女】である。
聖女なので『恋人ガチャ』を持っている。
この2つには何ひとつとして因果関係はないが、シルフィーは「聖女のくせに役立たず」と揶揄されても『恋人ガチャ』というスキルを入手したことに感謝している。
このスキルがあれば、勇者に素敵な恋人を紹介することができそうだから――
【スキル名: 恋人ガチャ
1日1回、対象人物の素敵な恋人を召喚する。
本当に恋人に出来るかは、対象人物の魅力次第である】
そう決意してから。
シルフィーは、毎日のように勇者の恋人探しを手伝った。
それこそ魔王討伐の旅の途中であっても、1日も欠かさずガチャを回し続けたのだ。
1日1回の権利を利用して、毎日勇者のために「恋人ガチャ」を回してあげたのである。
……残念ながら、勇者の恋人はまだ見つかっていない。
勇者はびっくりするほどモテないのである。
そんな日々も今は昔。
勇者・デントリアと聖女・シルフィーは、ともに魔王討伐の任を無事終えたわけで。
そのご褒美とでも言わんばかりに、メランコリー・デントリア城で平和な暮らしを謳歌していた。
シルフィーは、勇者の隣でニコニコと世話を焼き。
そんなシルフィーを、勇者はちょっと面倒くさそうにあしらう。
「くだらない用だったら許さない」
そんなことを思い返しながら、シルフィーは勇者の待つ大ホールに入るのだった。
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