4. ポンコツ聖女は、城から追放される?

「よよよよ。ついに新しい恋人が出来てしまったんですね。

 昔の女なんて、もう邪魔だってことですね?」

「俺に恋人なんて出来るわけねえだろ、いい加減にしろっ!」

「……自分で言ってて悲しくない?」


 追放される恨みとばかりに、シルフィーは勇者の心を的確にえぐりに行く。

 長年の付き合いから、何を言えば勇者が傷つくのかを熟知しているのだ。

 嫌すぎる幼馴染である。



「国の英雄と名高い勇者様なら。恋人の1人や2人余裕でしょ?」

「幼馴染に毎日付きまとわれてて、恋人なんて出来るわけねえだろうが!」



 ――そ、そんな!?


 勇者様を正しい道に戻すために恋人を作ってあげようと、必死に毎日欠かすことなくガチャを回し続けたのに。

 私の存在が邪魔で、恋人ができなかった……ですって?

 いやいや、ないない。



「私は関係ないでしょう。

 モテないのは勇者に魅力がないからよ」

「おまっ、まじでさっさと出ていけよ!」


 立ち直ったと思った勇者が、再び泣き崩れました。

 そんな様子を見て、シルフィーは満足気な笑みを浮かべる。

 誰も得しない、不毛な言い争いである。




◇◆◇◆◇


「はいはい、いつもの痴話げんかですね。

 ごちそうさまです、ごちそうさまです。

 面倒くさいので、シルフィーは取り合えず出ていって貰えますか?」


 そんな2人の様子を呆れたように見ながら大ホールに入ってくる人物がいた。

 キラキラと輝く白髪が特徴的。

 見るものを魅了するとびっきりの美少年、その正体はなんと人間に化けた魔王。


「で、出たな魔王めっ!

 勇者をアブノーマルな世界に誘い込んだ諸悪の根源め。

 勝負だ、勝負しろっ!」


 勇者が異性に興味を持たないのは、勇者の問題だから仕方ないとして(仕方なくないし、全てはシルフィーの思い込みだが……)

 あんなに素敵な勇者様が、女の子からも一切の興味を持たれないなんてあり得ないっ!


 しかしシルフィーは原因を知っている。

 勇者と魔王のカップリングが完成度高すぎて、女の子たちがそこに割って入るのをためらったのが原因だと。シルフィーの中ではそうなのだ。


 ――つまり勇者がモテないのは魔王が悪い!


 今こそ魔王の魔の手から、勇者を救い出すとき。

 そんな無茶苦茶な理論で、シルフィーは魔王に責任転嫁した。



 シルフィーは、ファイティングポーズを取ってみせる。


「はいはい。国の政策について、僕と勇者はこれから大事なお話をするからね。

 ちょっと城下町にでも、遊びにいっておいで?」


 ……が、まるで相手にされず。

 魔王は幼い子供をあやすような口調で、そう答えるのだった。



「はい、今日のおこずかい」

「やった。普段より多いっ!」

「勇者からのお詫びの気持ちも入ってますよ」


 人間からも着実に支持を集めているのは、この微笑みが原因なのだろう。

 ニッコリとほほ笑む魔王に、シルフィーは思わず見とれてしまい――



「これで勝ったと思うなよ。

 私がいなくなってから、後悔しても知らないからね!」


 腕をブンブンさせて、そんな捨て台詞を残したシルフィー。 

 ここから徒歩5分の別荘に追放されたところで、後悔もクソもないのだが。



「追放だ、追放。

 別荘で暫くは大人しくしてろよ――じゃないや。

 もう帰ってくるなよっ!」


 シッシっと追い払うような動作を見せる勇者に、シルフィーは頬をぷくーっと膨らませる。

  



(そこまで言うのなら、本当にお城から追放されてあげますよ!

 勇者のばかっ! 頼まれたって、もう帰るもんか)



 傍から見ると、まるで家出する子供のようだが本人はいたって大真面目である。

 こうしてシルフィーは勇者と魔王に、お城を追放されたのだった?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る