第28話 ラストステージ

 リーディス達に課された責務は、残り僅かである。3つの神理石を入り口でかざし、邪神の結界を破壊した後に突入する。そして塔を登り続け、最上階のボスを倒せばクリアである。


 問題は、1つさえも神理石を集められていないという点だ。果たしてどのようにして帳尻を合わせるつもりなのか。


◆ ◆ ◆


「思えば、辛く苦しい旅だった」


 神殿を前にしてリーディスが呟く。応じるように吹いた風が、彼の頬をなでた。


「でも、そんな日々も今日でお終いだ。頼んだぞ!」


「もちろんよ。任せてちょうだい!」


 リリア達は封印の前で横並びになり、本来あるべき三聖女としての役目を全うしようとした。


「この世に光ある限り」


 リリアはそう叫ぶとともに、懐からシャモジを取り出して掲げた。神理石が埋め込まれた短剣は、今やリンクスの街とともに地の底に沈んでいるのだ。とりあえず無いよりはマシ。一番ゆかりの有りそうな品を彼女なりに選んだつもりである。


 そして、重要アイテムを持ち合わせていないのは、後の2人も同様だ。


「たとえどれ程闇が深くとも」


 ルイーズが両手でモチうさぎを掲げた。心なしか、モチうさぎも誇らしげに背を伸ばした。


「理(ことわり)の力は道を開かん」


 メリィはステッキだ。しかも数度手元で回転させてから突きつけるという、小洒落た演出までも上乗せしている。


 果たして、こんなもので結界を破れるのだろうか。基本的にシステムは融通の利かない性質なのだが。


「よし、突入するぞ!」


「オウ!」


 割とすんなり破れた。というのも、ゲーム的に許されたのではなく、裏でクラシウス自らが無力化したのだ。プロセスはさておき、最初の関門は突破できた形になる。


 神殿入り口はというと、エルイーザによって解錠済みで悠々と突破。続いては、神殿には不釣り合いな凶々しい階段を昇り、塔の内部に侵入を果たした。


「ヌーフッフ、我らが本拠地に乗り込んで来るだなんて。どこまで頭が悪いんでしょうかーぁ?」


 最初に待ち受けていたのはピュリオスだ。全身を包む黒煙は邪神の加護の証。万全の態勢だと知らしめるものだが、もはやリーディスの敵では無かった。


「邪魔すんなオラァ!」


「ぎょえーーッ!」


 拳によって一撃粉砕。これはもはや戦いではない、蹂躙であった。ちなみにエルイーザとの決戦で武器を失ったリーディスは、全ての戦闘を丸腰で迎える事になる。それでも全く問題が生じないのは、愛の力とやらに目覚めたからだった。


 続いてやってきた第2層。そこで待ち受けるのは邪神デルニーアだ。ただし肩書に「元」が付くのだが、彼は己の責務を果たす道を選んだ。


「よく来たな、愚かなニンゲンどもよ。邪神軍筆頭、総司令官が持つ強大な力を……」


「邪魔すんなオラァ!」


「ギャアーーッ!」


 ここでも鎧袖一触(がいしゅういっしょく)だ。全く良い所も無しにデルニーアは敗退した。


 さて本来であれば、以降のフロアには大型獣が出迎える予定であったのだが、今は一頭すらも配置されていない。なぜかと言えば、打ち上げの為に撤収済みであったからだ。その巨体さゆえに魔法陣による転移は不可。今頃はリンクス大橋を渡ろうと四苦八苦している所なのだが、最終決戦の場に間に合う見込みはない。


 では、エリアボスもなしに素通り出来てしまうのか。いや、違う。この問題は『根性一択』で乗り切る事が決まったのである。


「ヌーフッフ。さっきは良くもやってくれましたねーぇ。そろそろ本気の本気をみせてあげましょうか」


 迎えたのはピュリオスとの再戦だ。全身の色味が違うのはペンキを頭からひっ被った為である。容量不足の時代を匂わせる努力の跡が涙ぐましい。


 だが所詮は色違いなだけであり、リーディスを阻む程の力は無かった。


「邪魔すんなオラァ!」


「ぎょえーー!」


 次の層はデルニーアだ。やはり色を変えてきたが、結果は火を見るより明らか。


「邪魔すんなオラァ!」


「ギャアーー!」


 やはり瞬殺。もはや守護者としての役割を果たせていないのだが、以降も代わる代わるエリアボスとして登場する。


 そうまでして根性をみせるのは、それぞれに熱い想いがある為だ。特にデルニーアの熱意は並大抵でなく、『腰抜け』の肩書を払拭せんと必死であった。ちなみにピュリオスはというと、贖罪(しょくざい)のためだ。著しく下がった評価を持ち直すには、こうして体を張ってアピールする必要があるのだ。


 そんな思惑からの仕事である。今は彼らの立場に同情するのではなく、健闘を称えるべきだろう。


「みんな、次は最上階だぞ。気合いれろ!」


「オウ!」


 大扉を開き突入する。そこで彼らの目に飛び込んで来たのは、全く予期せぬ光景であった。


 正面奥の玉座に座るのは、なんと囚われの女神エルイーザではないか。本来の主であるクラシウスは床に転がされ、既に虫の息となっている。


「こ、これは?」


「クックック。まんまと誘き出されたな。目障りな勇者の末裔よ」


「何ぃ!?」


「アタシが囚われの身を演じた理由は2つ! 兄と弟に近づきその力を奪うこと、そしてニンゲンの英雄を炙り出して始末する事よ!」


「何ぃ!?」


「見るが良い。偉大なる最強神の力を! この世の街すべてをブッ壊してやる!」


「や、やめろぉーー!」


 ドォーーン。ドドドォーーン。そう口で効果音を発したのはクラシウスだ。


「クックック。これでお前が守るべき物は何も無くなったな、哀れなもんだ」


「チクショウ、許さねぇーー!」


 ドドドド、シュババッ、バキィッ!


 ズシャア……。


「馬鹿な、このアタシが……。最強神たるアタシがぁぁーー!」


 一瞬のうちに撃破されたエルイーザが霞の向こうへと消えた。リーディスはついに勝利を収めたのである。


「やった。とうとう邪神を倒したぞ」


「やりましたね、リーディス」


「さぁ早く戻りましょう。凱旋ですよ勇者様」


「でもさ、もう帰る所もないし」


「よくぞ敵を倒した、見事である!」


「だ、誰だ!?」


 玉座の裏からヒョッコリ顔を見せたのはクロウダ、もとい王様であった。彼は姿を表すなり、空になった玉座に腰を降ろした。


「こんな事もあろうかと、ずっと潜んでいたのよ」


「さすがは王様!」


「皆の衆、その働きや誠に大儀であった。実にあっぱれであるぞ!」


こうして


リーディス達の冒険は終わった


その道の途上は


決して平坦ではなく


払った犠牲も大きなものだった


だが彼らは傷つき、打ちひしがれる度に


際限なく強くなる


王国の未来は


一点の曇も無い程に輝いていた


まるで燦々と輝く太陽のように


◆ ◆ ◆


 どうにかして本編も終わりを迎える事が出来た。果たしてリーディス達の決断は正しかったのか。プレイヤーを満足させるだけのコンテンツであったのか。答えは分からない。


 今となってはスタッフロールに画面を委ね、舞台袖の裏側で祈るしか無かった。

 

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