第11話 ステージ4

 リーディス達の次なる戦場はウェスティリア。周辺に異常発生したゲイルウルフの撃退が、彼らに課せられたミッションとなる。 多勢の野獣パワーは驚威的であり、相当な苦戦が予想されるのだが、戦の行く末はいかに。


◆ ◆ ◆


「ゲイルウルフは身のこなしが速く、性質も獰猛です、決して油断しないでください!」


 マリウスによる注意喚起からステージは始まった。深い森の中を索敵しながら進む趣向であり、やはりリーディスが先行する事を求められる。


「よしみんな、行くぞ!」


 いつものように檄を飛ばし、戦場に切り込もうとした。だが大きな違和感 更に言えば凶悪な気配を背中に感じ、慌てて振り向いた。


「フシュルルル……」


 なんと、引き連れるべき農民兵が別人にすり替わっていたのだ。眼の部分だけがくり抜かれた無骨な鉄兜。裸の上半身には無数の古傷、下半身も腰当てが最小限にあるだけで、足元も素足だった。


 これは狂戦士(バーサーカー)である。正気を戦場に置き忘れた哀しき兵士。それが何故かリーディスの配下としてスッポリ収まっていた。


(何でだよ! そもそもコイツら敵じゃねぇか!)


 事態を飲み込もうにも突飛すぎる。それでも困惑する隊長をよそに、兵士たちは勇壮な雄叫びをあげ始めた。


「キィェエエーーッ!」


 その絶叫を皮切りに部隊は作戦行動を開始した。そのおぞましさから、侵略と言うべきかもしれないが、ともかく戦の火蓋は切って落とされた。


「死にさらせぇーーッ」


「臓物をブチ撒けやがれぇーーッ」


 隊員がやたら五月蝿い。勇ましいのは結構だが、とても正義の軍団には見えず、リーディスから苦笑すらも奪い去ってしまう。


 そんな異変がありつつも物語は進行する。やがて眼前に魔物の1部隊を見つけ、臨戦態勢に入った。


(敵だ。戦いに備えないと)


 プレイヤーの操作により、速やかに剣を抜いた。そして攻撃モーションに入るのだが、ここでも予期せぬ事態に見舞われてしまった。


「下郎めが、恐怖に震えよ!」


 リーディスが披露したのは、本来の設定にない技だった。剣を大きく一閃させると、濃紫色の光線が辺りを焦がし、敵を瞬時に撃破した。強烈すぎる範囲攻撃。たとえレベルが最大限にまで上がったとしても習得することのない技である。


(今のは、クラシウスのヤツじゃねぇか!)


 ここでリーディスは1つの仮説を立てた。占い師に扮したクラシウスによるお墨付き。それは言い換えたなら邪神の信託や加護を授かった事になるのではないか。その結果、自身の属性が闇に切り替わったのではないか。


 確信は無いが、有り得なくもないと彼は思う。前作の折にはシステムが厄介な立ち回りをしたものだ。クシャミのせいで先祖の名前が『ヘップションウス』にすり替えられたり、リリアなどは『賑やかし』扱いされたりしたものだ。


(まさか今頃になって邪魔するのかよ……!)


 リーディスは恨みたい気持ちになるが、プレイヤーは歓迎したらしい。何せラスボスの専売特許とも言える技を無制限に扱えるのだ。敵を見つけるなり範囲攻撃を繰り出して、その威力と性能に酔いしれた。


「よし、もうすぐ敵の巣穴だぞ!」


 リーディスは、いまだ苦戦を続ける仲間たちから突出し、1人でエリアボスのゾーンに踏み込んだ。


「グオォォーーンッ!」


 待ち受けるのはゲイルウルフのリーダー。一際大きな体を持つ個体で、しかもオスとメスのつがいだ。流石のリーディスも苦戦を強いられる、と思われたのだが。


「笑止ッ!」


 邪神だけが持つガード不能技が冴え渡る。瞬く間に間合いを詰め、死角から斬撃を繰り出す大技なのだ。それは相手に回避も防御も許さない、まさに一撃必殺の戦法だった。


 闇の眷属である彼らも、主の力には対抗できず、ついには子犬さながらの声を口から漏らした。


「キュゥウン」


 お腹を見せて服従のポーズ。これにて戦闘は終わってしまったのだが、早い。早すぎる。あまりにも呆気ない幕切れに、演者は揃って同じ危惧を抱えた。


(もはやゲーム性すら無くなってしまった!)


 衝撃的なリーディスの変貌は、実に受け入れがたいものだ。しかし、そんな状況であってもシステムは無情。ささいな改善措置すら無いままにリザルト、そして購入画面へと移行した。


◆ ◆ ◆


「いらっしゃいませ。ジャンジャン買ってくださいッス!」


 ケラリッサは景気の良い声をそのままに、だが引きつり顔にて出迎えた。動揺したとしても笑顔を要求されるのだから、看板娘も辛い立場である。


(何を買うつもりだろう。武器の類じゃなきゃ良いんだけど)


 現在も初期装備のままだ。にも関わらず、強敵をアッサリと打ち倒してしまった新技は、考えるまでもなくチート級の性能だ。


(これ以上強化されたら、いよいよ手が付けられなくなるぞ)


 そんな危惧を抱いたのだが、取り越し苦労で済んだ。プレイヤーが購入したのは『濡れ透けシャツ』という装飾品であり、遊びアイテムのひとつだった。


「まいどあり! 誰に渡すんスか?」


 ここでも指名されたのはリリアだった。どうやらこのプレイヤーは巨乳フェチであるらしい。


「えぇーー、ちょっと恥ずかしいよぉ」


 リリアは恥じらいと共に着替えを終えた。腕や胸元に張り付く白シャツが、艷やかな肌を透かしてみせた。その下には一応、水着を着込んでいるので、最低限度ながらも布地で覆い隠されてはいる。


 全年齢対象のゲームならではの仕様だ。それでも煽情的ではあるので、にわかに色香が画面を染め上げた。


(どうやら最悪の事態は避けられたな)


 リーディスは初期装備のままで次ステージへと進む事になった。ただし、連続で指名されたリリアは余程嬉しかったのか、延々と恥じらいの言葉を紡ぎ続けた。


 その喜悦を滲ませた拒絶の声は、聞く者の心に多少のささくれを生み出し、演者達は胸中でスキップボタンを連打してしまう。


(早いとこ、次のシーンに移ってくんねぇかな)


 しかしそんな想いを知ってか知らずか、プレイヤーはリリアの艶姿を眺めるべく、しばらくの間留まり続けるのだった。



 

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