第6話 ステージ2

 本ステージより、リーディス率いる解放軍に新規加入したミーナ。彼女は王宮メイドであり、都の解放を機に仲間入りを果たした少女である。今作では『大聖女』などという肩書きを与えられなかったが、『武闘派メイド』というポジションは公式にも認められた。戦闘スタイルは近接カウンタータイプ。遠距離型のマリウスと相性は抜群である。


「行きますよ皆さん。ムチャはしないように!」


 ミーナは勇ましく叫ぶなり、自ら敵陣の先頭に突っ込んだ。迎え撃つ敵軍はスケルトン兵を主体とした難敵だ。少女の華奢な体にいくつもの剣撃が押し寄せるが、ひとつとして擦りはしない。彼女は手にした短剣で攻撃をいなし、時には宙を華麗に舞う事で、敵を手玉に取ってみせたのだ。


 これが本作でミーナに与えられた特技『翻弄』である。敵にダメージを与えるものではなく、ただひたすらに避け続けるという技能だ。なので直接的な戦果には結びつかないが、使い用によってはかなり優秀な技能だ。実際、かすり傷ひとつ負う事なく、大勢の敵を引き付けつける事に成功しているのだから。


「メイド隊の皆さん、お願いします!」


 ミーナの号令によって、彼女の配下が前面に飛び出した。近接格闘を得意とする彼女たちは、ナイフによる斬撃や蹴りで敵を打ち倒していく。美しい所作に涼しげな顔つき。戦場であっても気品と優雅さを失わないあたり、メイドとしてもプロフィッショナルだと言えた。


 ちなみにミーナを含めたメイド達のスカートは、どんな動きで暴れても足に張り付くという安心設計だ。そのおかげで、短い丈であっても気兼ねなく戦場を舞う事が出来る。


「魔術師隊、準備は良いですか?」


 マリウスは後方よりミーナ隊の動きを捉えつつ、配下に向かって叫んだ。彼が率いるのは農民兵ではなく、王国から借り受けた魔術師軍団だ。彼らは部隊一丸となって強力な魔法を放つことを可能とする。


「いきますよ、フレイムブロウ!」


 発動したのは激しい熱風だ。猛烈な風は多くの敵を吹き飛ばし、更には炎によるダメージも加算した。特にスケルトンなどの死霊タイプは火属性に弱く、大きな活躍を見せる間もなく打ち倒されていく。


「道が出来ました、突入しましょう……」


 正面突破を仕掛けて市街戦に移ろうとした。だがその時、マリウス隊は背後より大きく掻き乱されてしまった。味方のリーディス隊が無意味に突っ込んできたのだ。


(いやいや、何やってんですか!?)


 依然として酒の抜けないリーディスは、戦場をあっちへフラフラ、こっちへフラフラと彷徨いまくった。その動きに釣られた敵の一部も彼の部隊を猛追する。


 そうこうする内にリーディスはマリウスの部隊に雪崩れ込み、同時に敵の一団をも招き入れ、混戦状態へと陥ってしまった。


「皆さん、どうか持ちこたえてください!」


 マリウスは懸命に檄を飛ばす。しかし配下の魔術師たちは接近戦が極めて不得意であり、更には陣形まで崩されてしまっている。まともな抵抗もできないままに、1人、また1人と打ち倒されていった。


(このままでは我が隊は全滅です。でも魔法の詠唱が間に合えば……)


 マリウスは急ぎ意識を集中させ、魔力を掌に籠めた。眼前で暴れ回るスケルトン兵の圧力が重たい。それでも彼は十分な量の魔力を集め、発動にまでこぎ着けた。


「いきますよ、フレイムブロウ……」


 だが発動させる直前の事だ。敵は無防備極まるリーディスの姿を認めるなり、そちらへ向かって殺到した。実際彼は無抵抗そのものであり、敵の攻撃を全て直撃。されるがまま。味方の救援を待つ事もできず、体力の全てを失ってしまった。


「チクショウ、こんな終わり方かよ!」


 定型文を叫ぶと、やがて画面は暗転を挟んだ。リーディス、つまり操作キャラが負けてしまえばゲームオーバーなのだ。


 リスタート地点はどこかというと幕間から。そう、たとえやり直しであっても、先ほどと大差ないロード時間を要求されてしまうため、再度同じシーンの寸劇を演じねばならないのだ。


(次こそはお酒を控えてくださいよ、リーディス)


(分かってるって。酒の替わりに水を飲んで演じるから)


(頼みますよ本当に)


 マリウスの苦言を胸に、リーディスは改めて幕間を演じた。リリアの店にフラリと訪れ、カウンターの端で延々と冷水をガブ飲みする。ただひたすらに水を飲むというのも中々に辛い作業だが、泥酔してしまうよりはマシというものだ。


 それからは多少の会話を重ね、金貨を置いて店から逃走。裏路地で木箱を蹴り、ぎこちない動きで背中から倒れると、夜空の月と向き合った。そして泣きの演技を終えるなり最後のセリフを呟く。


「次の夜はもっとマシな気分で過ごしてぇな」


 これが2回目である事を思えば、今現在が『次の夜』だと言えそうだ。願いに反して2晩連続で辛い夜を過ごした事は、演技であるのが分かっていても、どこか哀れに思えてくる。


——ロードが完了しました。


 システムメッセージとともに仕切り直しの戦いは始まった。今回のリーディスは素面(しらふ)だ。動きは別人のように逞しく、実際、積み上げる戦果は目覚しいものだった。ミーナが引きつける敵軍の横っ腹に突入し、敵兵を次々に倒していく。そこへマリウス隊の魔法が残党に炸裂すると、郊外に敵の姿はほとんど見えなくなり、フェーズは市街戦へと切り替わった。


 攻略は極めて順調だ。町の通りを占拠する敵を撃退して、主だった施設を解放すると、残るはエリアボスの『スケルトン・エリート』が相手となる。


「よくぞ来た人間よ。だが貴様の快進撃もこれまで……」


 セリフが終わる前にリーディスは既に仕掛けていた。切っ掛けの斬撃が決まれば、始まるのは無限コンボ。こうなると後は流れだ。いかに屈強で、全身を頑丈な鋼鉄鎧で固めていようとも、この攻撃を防ぐ手段はない。


 そうしてエリアボスは反撃のチャンスすら与えられる事なく、打ち倒されてしまった。これはプレイヤーに不完全燃焼な思いがあったからだ。たった一度とはいえ、操作キャラが吐きまくった挙句にゲームオーバーを迎えてしまったのだから、相当に苛立っていた事は間違いないのだ。

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