第18話 メシア

「豚は草」

 確かに豚だったけど……おっと、亡くなったのにそんな言い方は不謹慎だ。


「草??なんですのそれ?!」


 翻訳のシステムは完璧じゃないのか。スラングとかのニュアンスは伝わらないようだ。


「面白いってくらいの意味で深い意味はないです。続けてください!」


 気を取り直して。


「あの気弱な悪徳さん。だけどなかなか力はあって厄介だったから。

 私には使える力もそんなにないから父上の取り巻きをこっそり減らすしかないの……」


 なるほど。

 継戦能力=取り巻きの力の破壊というのは合理的だ。


 やはり戦争も相手の継戦能力を奪っていくことから始まるからなぁ。


「ミーシャは偵察とか隠密行動とかそんな感じの力に秀でてるので、ぴったりの役目なのですわ……

 汚れ仕事なのは申し訳ないのですけれど」


 そんなことないですよ王女様!

 私は与えられた役目をこなすだけです!!


 と、ミーシャさんがフォローする。


 そして二つ目が。


「メシアの見定めですわ!」


 メシアって救世主だよね。

 なに、僕が異世界から来た系の救世主だって??

 それはそれで楽しそうだな。


「先日、女神様から神託がありまして、メシアがこの世に現出します……と」


 あの女神エリス様か。

 僕が運ばれてくるのを事前に知ってたのか?


 まあよくわからないけど一応神様とやらの存在だ。

 その可能性はある。


「それで、降り立つ町がプテロートということでしたので……

 ミーシャを送り込んだのですわ。

 新しい暮らしに向かわれるだろうから家を斡旋するところで待ち伏せを……」


 なるほど。

 つまり、ミーシャさんは僕のことをかなり前から待っていたということか。


 なんか全部計算づくしだな。

 まさかあのぽやぽやしてそうな女神様の手のひらの上で話が転がってたりして……


「案外そうかもしれませんね……!!」


 ミーシャさんが同意する。


 コホンと王女様が一つ咳払いをする。

「……そして、メシア様を見つけたらその人になんとかついていくかどうかして、見極めてきなさい!と命令したのですわ」


「でも王女様に連絡する前に、王女様の方が先に来て驚きました!!

 それに、フラート様、いえフラートさんのことを知ってるとかおっしゃるものですから……」


「まあ、優秀なシオニの巫女がいるからですわね!!

 私たちシオニ教徒にとってはメシアは大事な存在ですわ……」


 聞くと、

 この世界にある宗教は沢山あって、ここローテン王国では赤正教が国教として信仰されているらしい。


 赤正教

 ローテン王国国教。総本山はバーミラのローテン王宮内。

 スカーレット1世を女神の神託を受けしメシア(救世主)として崇める。


 一方、獣人(ここの世界では亜人と総括して呼ばれるらしい)を中心にシオニ教徒が一定数存在するらしい。

 彼らは少数派であり、かつ王の血筋を崇めないことにもなる為、異端とみなされ迫害を受けてきた。

 なにせ、王家の先祖が救世主ではないと言っているようなものなのだ。


 シオニ教徒

 少数派で中心的教会は存在しない。

 メシアはまだ出現していないとの立場をとり、メシアの出現を望み女神に祈る宗教。


 この王女様は表では赤正教を信仰しているように見せているが、実際はシオニ教に帰依しており、

 その巫女や教義にも詳しいようだ。


 そんなわけで、


 ミーシャさんから僕に関する連絡がいくらかなされ、

 力の強さとか、人格を見てもメシアとして問題ないと判断されたのだろう。


 強さはともかく、人格はどうなんだろうか。

 少なくとも立派な人間には程遠いのだが。


 まあ信用には足る人物だと思われたのかな??


 信用は人との関係において一番大事なものですよね。

 誠実さと真面目さがモノを言う。


 まあそれはおいといて。


「私達に御尽力願いたい、のですわ」

「「私たちからもお願いします」」


 そうして3人にひざまずかれた。

 なんか、こういうのを見ると辟易してしまう。


「3人ともやめてくださいよ!!

 僕もこの国を見てて変えないといけないなとは思ってたんです。

 志を同じくするのでしたら協力しますよ!!」


 パァっと3人の顔が輝く。

 こういう嬉しそうな顔には弱いんだ。


 でも。

 話を続ける。


「でも、一つお願いがありまして……」


 せっかくのチャンスだ。

 王家の人とは知り合いになれた。


 ここからは根城を作って作戦を考えたり知見を広めたりして手伝う準備をしたい。

根城……本拠地……

 となると、やっぱりあの企みはやりたいな。


「この屋敷の付近の領地に支配者がいなければ、私を王女様の力で領主にしていただけませんか!!」

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