第17話 ふたり
「ここは知らない天井だわ」
女の子の目が開いた。
えっ……そのセリフどこかで聞いたような……
第一声が定型文すぎて苦笑してしまった。
女の子の方は、馬車の天井が土砂をある程度防いでくれたおかげで怪我はそこまでひどくなかった。
初老の男性の方がちょっと辛そうだったけれど、自前の薬、いや、魔法を付与した水の効果は思った以上で治りは順調だった。
2人とも気絶していてしばらく目は覚まさなかったけれど、命に別状はなかったので様子を見ていたのだ。
ミーシャさんは相変わらず献身的に看病してくれているが、心なしか少し硬くなっていた。
「気がついた?」
僕は気軽にその女の子に声をかけた。
ギョッとした目でこちらを見てきた。
そしてふわっと金色の美しい髪をなびかせて……そっぽを向いた。
えぇ……怖がらせてしまったのだろうか……
しかし、すぐにこちらを向き直った。
「あなたの名前は何なのかしら?」
「僕ですか?僕はフラートという名前ですけど……」
「礼を言いますわ、フラート。
助けてくれてありがとう。
私のことは自己紹介するまでもないかしらね……」
そう言って、僕とミーシャさんのいる方に目配せをしてきた。
え?僕あなたのこと分かんないですけど。
どっかで会いましたっけ??
キョトンとしていると、ミーシャさんがこそっと近づいて耳打ちしてくれた。
「彼女はローテン王国の第1王女メアリー様よ!!
知らないんですかフラートさん?!」
え、王女様?!?!
確かにそんな雰囲気と喋り方ではあるが……
王女様が警備も大してつけずに馬車でこんなとこを走ってるものなのか?!
というか僕、今の話し方といいなんといいめちゃくちゃ無礼なことしたんじゃ?!?!
「お、王女様……」
柄にもなく焦っていると、それを察した王女様が言ってくれる。
「あら、普通に接してくれていいのよ!!
それに、実は私あなたのことを知ってたし」
「え?!僕のことを知ってたんですか?!」
そもそもこの世界に来て大して経ってもないのになんでこの王女様は僕のことを知ってるんだ?!?!
「なぜ、私のことを……」
その言葉を聞くとふっと笑って答えた。
「女神様のお告げ……と言ったところかしら??」
はぁ……?!僕はまたキョトンとしてしまった。
ミーシャさんもびっくりしている。
そうこうしていると、従者らしき初老の男性の方も目が覚めたようだ。
「ふわぁぁぁ……
あっ?!王女様は?!」
キョロキョロ見回して、隣のベッドに座って僕とミーシャさんの方を見て話していた王女様を見つけて安心したようにホッとため息をつく。
「あなた方が助けてくれたのですか?!
ありがとうございました……
なんとお礼を申し上げたら良いのやら……」
「いえいえ!当然のことをしたまでですよ!!」
ミーシャさんがそう言う。
「あ……あなたは……」
「おっと、それはダメですわ」
ミーシャさんがニコッと笑って言葉を遮る。
「知り合いなの??」
そう問うてみた。
2人は王女様の方に目配せした。
はぁ……とため息を一つつき、王女様はコクリと頷いた。
「実は私たちは王女様の部下なんです」
ミーシャさんの突然の告白。
ほう??ほう??????
いや普通になんだよそれ?!?!
ミーシャさんって奴隷であの店で働いてて、えっ?!
「えっと、奴隷ってのは本当ですよ!!
実は王女様に極秘任務をふたつ賜りまして……」
王女様がこちらをまっすぐ見つめる。
「あなたもこの国が苛政のもとにあるのは知ってるでしょう」
ええと。部分的には。
「実際はあなたがみてきた何倍も酷いものだわ。種族差別は蔓延するし、貧富の差も大きいわ。
貧しい人は満足に食べられず、いつもお腹を空かせてる。税金も高いですわ。
貿易こそすれども隣国との仲は悪く防衛にもお金がかかるわ。
王、いえ私の父は全くそれを改善しようと致しませんわ……」
「まだ僕が知らないローテンの闇があるのですね……」
「ええ。私も何とかしたいのですけれど、まだそこまでの力は持ち得てないのですわ。
この国の闇についてはしばらく住んでみたらわかると思いますわ」
そんな感じでこの国の話をいくらか聞く。
重い空気が部屋の中を流れていく。
ミーシャさんも悲しそうな顔をしている。
奴隷だったのは本当ということは王宮までの話もそうなのだろう……
この王女様に雇ってもらったのだろうか。
そんなことを考えているうちに、ミーシャさんが言ってた極秘任務の話になった。
「私は二つの極秘任務をミーシャに託したのですわ。
その話を聞こうと思ってプテロートに寄ろうとして馬車で来てたのですわ!」
その道中、崖崩れに巻き込まれ、僕に助けられて今ここにいる、と。
「それで、その任務って教えてもらえたりしませんか……」
「いいわよ。
一つ目が豚の処理。もう一つはメシア様の見定めよ!」
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