第16話 近所の事故
屋敷を出て歩くこと20分。
畑が広がるプテロートの郊外についた。
屋敷のあるところもまあまあ街の外れだけど、ここまでくると完全に田舎だ。
と、急に雨が降ってきた。
空を見ると分厚い雲が遠くに幾重にも重なっているのが見える。
このままだと強くなりそうだな?
そう考えて、まだ小雨のうちに家に戻ろう。
と道を小走りで屋敷に戻っていった。
領主直営の畑を通り過ぎ、黄土の崖の合間を通り過ぎる。
次第に雨が強くなり道がぬかるんでいく。
靴が汚れちゃってるよ……
早く帰って体を拭いて、靴も綺麗にしよう。そう思ってまた走り出した。
遠くに一台の馬車があるのを見つけた。
このプテロートに来てから行商用と思しき馬車はいくらか見てきたが、そのどれよりも高価そうな、豪華な馬車だった。
その馬車が今僕の歩いている道を通ってこちらに向かってきている。
なんか偉そうな人が乗ってそうだな?このへんの偉い人か、はたまた大商人か。
そんなことより雨が強い。早く帰らないと風邪をひいてしまう。
そう思った次の瞬間。
近くのさっき通った崖が崩れてきた。
色が黄色っぽい土だったので真砂土か。
まあ、この世界にも真砂土なんてあるかは知らないけれども。
この手の土は、風化して脆いから崩れやすいんだよなぁ……
やっぱりか……という気持ちで崖の方を見ていた。
うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
悲鳴が聞こえてきた。
まさかさっきの馬車か??
急いで駆け寄る。
ひどく濡れてしまうけどそんなのは御構い無しだ。
近くに行ってみると馬車は完全に土砂に巻き込まれていた。
御者と思しき白髪混じりの初老の男性が土砂の隙間に挟まっているのが見えた。
「大丈夫ですか?!」
遠くでは大きな雷鳴が鳴り響いている。
うぅ……と男性はうめき声をあげ、かすれ声でこう言った。
「私の……ことは……いいので……
馬車の中の……王女様を……たすけ……」
体力強化を念じて発動させる。
元々の備え付けのステータスじゃないけど、使いたいスキルは念じるだけで簡単に使えるのでありがたい。
そして、体力を強化したところで土砂を手作業で取り除いていく。
まあまあの量があったが、スキルのおかげで特に疲れはしなかった。
壊れた馬車の屋根が見えてきたので、王女様とやらが居ないかを探してみる。
屋根の木の部分を壊して、馬車の中だったはずの部分を除くと、
1人の金髪の女性ーいや1人の女の子と言うべきか?ーが埋もれていた。
「おーい、大丈夫か?!」
首元を触ってみる。
良かった。脈はあるみたいだ。
所々怪我をして血が出ているが、命には問題なさそうだ。ただ、幾らかはかなりの出血をしている。
急いで引きずり出し、道端に寝かせる。
そしてお得意の回復魔法・神を少しだけこっそりかけた。
みるみるうちにひどい怪我が治っていく。
あとは意識が戻るのを待つだけだな?
うぅ……
おっと、御者さんも治さないと!!
御者の初老の男性も土を除いて丁寧に引きずり出し、寝かせたあと回復魔法をかけ……
おっと、ダメじゃないか……
魔法を使えるというのはそう易々と知られてはならないこと。
王女様がどうこう言ってたので王家に取り入る前に王家に殺されてしまいかねない……
御者の男性の方は骨の2、3本は折れてるかもしれないけど死にはしないと思うので、回復魔法はかけなかった。
意識を失わせてもいいけどあとでなんか言われたら面倒だしな……
体力強化を再び発動する。
2人をとりあえずきちんとしたとこで寝かせて魔法的じゃなくて物理的な方の治療もしないと。
2人一気に運べるかな??
屋敷はもう目と鼻の先である。
やっぱり人手がある方がいいな。
そう思ってると、ミーシャさんが傘らしきものを持って出てきていた。
雨が降ってきたのを見てから出てきてくれたのだろうか……
ちょうど良い。
「おーーい!!
ミーシャさん!!ちょっと手伝ってください!!」
雨音に負けないように叫んだ。
ミーシャさんはこちらに気づいたようで、目を大きく見開いていた。
そりゃそうだ。
2人の人が地面に横たわっていて、後ろでは崖が崩れている。
急いでこちらに走ってきてくれた。
「どうされたんですか?!」
「さっき、崖が崩れて2人の馬車が崩れたみたいでね……
手当が必要だ、屋敷に運ぶのを手伝って欲しい」
回復魔法はあんまりおおっぴらに使えないから、屋敷できちんと手当てしよう。
と、耳打ちもしておいた。
倒れている人を見て、ミーシャさんはギョッと驚いた顔をしたが、すぐに運ぶのを手伝ってくれた。
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家に着いてから僕とミーシャさんは手際よく湯を沸かし、ベッド(買ったばかり)に2人を寝かせ手当てをした。
薬とかがあったわけじゃないが、魔法を水に付与できたので、回復魔法を付与して薬の代わりとした。
これで2人は大丈夫だろう。
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