第19話 悪の源
「領主??」
王女様は少し面食らったような顔をしたが、すぐにニコッと笑った。
「この辺はミーシャの家族が治めてた土地ですし、メシア様に治めていただけるならこれ以上ない幸せですわ。今は空いてますわ。
私が父上に申し上げておきましょう、ふさわしい人物がいた。と」
ミーシャさんがウンウンと頷く。
「あ、それでその話なんですけど……
その領主の話をするときに、王様。王女様のお父上に会ってみたいのです」
「それはもちろんです。
メシア様にみていただいて、品定めしておいていただいて損はないでしょう
私たちが倒すべき相手ですし」
実の父のことなのによくそこまで言えるものだな……
正義感が強いのだろうか。
「ふふふ……
この王女はよくも父上のことをそんな風にめちゃくちゃに言えるな?
と言う顔をされてらっしゃいますわね。
こんなこと言うのもあれですが、私昔から父上のことが嫌いだったのですわ。
無駄に贅沢をするために民から税を多く取り、病や飢えに苦しんでいても手を差し伸べず……
これでは国は豊かになりませんわ。
子供にでもわかることです。
それに、私と同じくらいの歳の少女をあの手この手でとらえて来ては酷いことをして、
果ては殺すこともあるようで……
わたしは怖く思うと同時に怒り、憎しみも覚えましたわ。
でも力がありませんでした。
わたしもまた父上の言いなりだったのです。
でも今は違います。
メシア様にお会いできて、やっと好機がきたと思っておりますわ。
どうか、知恵をお貸しくださいませんか……
そして、わたしをお助けください」
僕も同じ気持ちだ。
返す答えに選択肢があるわけない。
「僕でよろしければ、喜んで」
▼▼▼▼▼▼▼▼
「メアリーはまた出かけてるの?」
入浴中の女性が声を上げる。
「はい。王女様はプテロートの方に従者と行っている模様です」
そう従者が告げると
はぁ……と女は大きなため息をついた。
ペタペタペタペタ……
ガチャっ
浴室へと通じる扉が開く。
周りで控えていた従者たちが驚いた顔をする。
そんなことは御構い無しに少年は浴室の近くへと進む。
「母上!!」
「きゃっ!!
あら……どうしたの?」
女は浴室の前に現れた息子に驚いたが、すぐに平静を取り戻し、尋ねた。
「母上!!またメアリーが勝手に出かけているそうですね……??」
「そうなのよ。
困った子だねぇ。あとでうんと叱らなくては……
どうしてこんな悪い子になったのかしらね?」
「私は良い子です。母上」
そう言って彼はニヤリと笑った。
ローテン王国女王エリザベート母上と呼ばれる女は
息子の第1王子の言葉を聞いて満足げに頷いた。
ザッパーン……
ちゃぽん…ちゃぽん…
赤き鮮血に満たされしヴァーミラ宮の浴槽。
また新鮮なのが手に入るらしいから、楽しみね。あなたもいい子だったわ。ふふふっ。
▼▼▼▼▼▼▼▼
ローテン王国。首都、バーミラ。
ローテンはゲルムス人の言葉で「赤」と言う意味がある。
代々の王様の名前はスカーレット。緋。
初代王、スカーレット1世はこの地、バーミラを首都に定め現在のローテン領を平定したそうだ。
大陸暦1105年のことである。
彼曰く、女神エリスの庇護を受けた、と。
彼曰く、天命によってゲルムス人を束ね、国を作った、と。
彼曰く、平等に接せよ、と。
この話が元になり、この世界にいくつかある正教の一派、現在の赤正教が成立したのである。
正教はとある聖国にある女神エリスを唯一神として崇める、正教会に認められた王国の中で発展していく宗教であり、赤正教の場合はスカーレット王家が使徒として崇拝対象になったということだ。
以来、赤正教は王家を崇拝する宗教であり、統治に都合がよいということで国教化された。
スカーレット20世の頃には他宗教は禁止され、亜人達も反抗し始めた、と。
亜人達は赤正教ではなく古来からの土着宗教を信仰してたり……王女様もこっそり信仰するシオニ教の教徒だったり。
そういうわけで人間、特にゲルムス人と亜人の仲は悪くなっていった。
スカーレット25世の治世下には、両種族の間に争いが起き、詳細は割愛するが王家側、つまり赤正教側が勝利した。
これにより亜人の地位は低下。奴隷や下賤の民として卑下されて扱われるようになったのである。一部の貴族となっていた要人達は除くけれど。
現在はスカーレット33世の治世である。
彼もスカーレット20世以降の王と同じドクトリンを採用し、亜人に対し厳しい政策を取っていた。
そればかりか中央集権化、王権強化に積極的であり、人権軽視、私利私欲の混ざる苛政を敷いているのである。
それはいつしか人間にも及んでいた。
女神エリスは天から下界を眺めていた。
欲望と争いの種が渦巻くローテンとかいう王国にあなたを下ろしてみたわ。
どうなるかしら?
ドーナツを1つ頬張った。
確信犯である。
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