第13話 その頃……
ホーホーッ、ホーホーッ……
月夜に照らされた薄暗い病棟。
周りを取り囲む柵が不気味なシルエットになっている。
周りの森ではフクロウが不気味に泣いている。
コツコツコツコツ……
青白い月明かりが窓に差し込む廊下。
革靴を履いた白衣の男が歩いてくる。
月光が男の手のひらにある古い十字傷を映し出す。
彼はドアノブに手をかける。
ガチャッ
たくさんのモニターが並ぶ部屋に入る。
そのモニターからの青白い光が部屋を煌々と照らしている。
「様子はどうだ?」
「問題アリマセン」
「そうか」
手元のカルテを見る。
手元のカルテに書かれていたのはその少年の現状である。
#1076/男性は植物状態のようになっています……
警報がなってからのここ数日、生きてはいるものの、
まるで魂が抜けたかのようだな……
そういえば、もう一人の子の方もまだ意識が戻らない。
コポコポコポ……
その男はふと、後ろの方を見、
ふ……とため息をひとつついて、部屋を後にしたのであった。
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エリスは悩んでいた。
かの、至極面倒な世界の管理をいつまでもしたくは無い、と。
エリスは喜んでいた。
使えそうな子が来て、しばらくあの箱庭から目を離しても良さそうだ、と。
エリスは弛んでいた。
久しぶりになんの気兼ねもなくゆっくり出来る、と。
エリスは気づいていなかった。
下界に人を送り込む術式を解除していないことに。
エリスは知らなかった。
これが後に、悲劇をうむことになるとは。
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本日は宮都大学の●●教授に来ていただきました。
よろしくお願いします。
よろしく。では講義を始めましょう。
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世界というのは時に、面白い化学変化を起こすことがあるのです。
我々の知らない所で新しい技術というのは生み出されていくのですが、それがまた別の新しいものに出会った時。
この世界、ひいては人間の面白き想像力によって我々多くの人間が想像もしていないような出来事が起こります。
放射性物質だって、初めから何かに使おうと思って見つかったわけじゃありません。
調べててたまたま見つかったんです。
見つけたご夫妻さんは、その放射性物質に晒され続けたのが死の理由に関係あるのではないかと言われてますがね。
他の技術の発展とかに伴って利用されていくと。
核兵器という世にもおぞましい兵器。
我々人類が絶対に使ってはいけない兵器。
されど、その絶対的な力が故に持つ国は手放すことが出来ない兵器。
開発されて以来、人類にとっては短いかもしれぬが今を生きる我々にとっては長い時間、我々の頭を悩ませ続けるとんでもない兵器が作られましたね。
開発した方々は当初はここまでなると思ってなくて後悔してました。
我々の多くの知らぬところで、
新しいものは作られ、
別の場所で使い方を創造される。
今回の例の場合だと、放射性物質なんか原子力発電に使いもしますよね。
我々の暮らしに必要な電気を供給してくれる大事な手段。
危険性も大きいけれど、使い方によっては大きな利益となるであろう。
大きな化学変化、つまるところ発明、新技術は、それだけ世界を動かす力も大きい。
それが平和な利用だろうと、
それが戦争への利用だろうと……
我々はどう向き合いどう扱っていくべきなのだろうか。
皆さんにぜひ考えて頂きたいところですn……
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テレビの画面がぷつりと消える。
ここは都内のある家。
重苦しい空気が流れている。
「【あの子】……まだ……分からないの……」
「そうか……」
2人の子は優秀であった。
来年受験を控えており、国内一の大学、宮都大学にも合格、先生にはなんなら推薦合格でも間違い無いだろうと太鼓判を押された。
あの子は昔から優秀だったのだ。
そしてその、知的好奇心を育て、未来の明るい子に育っていた。
なのに、なのに。
「交通事故にあっただなんて……」
母親のやるせない気持ちが伝わってくる。
「でも、一緒にいた《あの子》を【あの子】は庇ったそうじゃないか……立派な事だよ」
「それはそうだけど……」
母親は続ける
「それはそうだけど……でも、おかしいじゃない!!!
【あの子】はどこに行ったというの??」
父親は黙り込む。
「今警察に探してもらってるんだ。目撃者はたくさんいたそうだし、【あの子】もあの子が助けた《あの子》も見つからないなんておかしな話じゃないか。
【あの子】に君が特に目をかけているのはわかるけど《あの子》の心配もしてあげなよ……
ん……まあ、最後に医者らしき人が話しかけてたそうなのでそれに何か関係があるかもしれない」
父親は平静を保って話を続ける。
「【あの子】……【あの子】が見つかるのを待とう。
どこかでその医者さんが助けてくれてるけどまだここまで連絡できてないだけかもしれないし。
私たちがジタバタしても仕方がない。
辛いけど待とう」
(注)
【あの子】:異世界に行く前のフラートくん
《あの子》:異世界に行く前のフラートくんと一緒にいたあの子……
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