所有
騒々しい音を立てて扉が蹴破られた。勢い余ったそれは金具の軋む音を立てながらゆっくりと跳ね返り、佇んでいた人物を隠す。
「失礼、足癖が悪いものでね」
薄暗い闇の中から豪快に突き出されたのは、扉を蹴り開けるという粗雑な振る舞いをしたとは到底思えない程に磨き抜かれた上等の革靴だ。砂粒の一欠片もついていない靴底がやっと床へと着地すると、飴色の靴の持ち主は鋭い視線で部屋の中を見渡した。
彼はこの店のオーナーであるガマズミだ。経営は店長に任せているが、実権は彼が保持しており、各地から素質のある
そして信じられない事に、ドロップの父親……だという。それが言葉のアヤとしての二人の関係を指すのか、実際に血縁関係のある親子関係なのかは……誰も詮索はしない。真実を知るのは恐ろしく、命が惜しいからだ。ドロップは先程までの聞き分けの悪い女童の振る舞いはどこへやら、突然の来訪者に嬉嬉として文字通り飛び付いた。
その背後ではクチナシが無表情を取り繕っているが何とも言えない感情を幽かに滲ませて、ドロップの浮き上がった肩甲骨とそこに這うガマズミの太い指を見つめていた。
先程までステージの上で蠱惑を振り撒いては幾多の客達の視線を弄んでいた魔女になっていた事などまるで嘘のように、ドロップは天使のような笑みを浮かべ自分を抱き締める逞しい胸にぐいぐいと額を寄せていた。香水の吹き付けられた太い首筋へ鼻先を突っ込みミドルノートを嗅いでは、ミニスカートから剥き出しの華奢な脚を絡ませ上等なスーツに皺を作る。
全身全霊で甘えて来る愛人のスキンシップに、ガマズミは頭の天辺から爪先まで贅を凝らした衣服や小物が乱れていくのも構わずによしよしと頭を撫でた。明け透けな愛情表現を穏やかな顔で見つめる様は、確かに父性的な眼差しに近いと、クチナシにはそう思えた。
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