第11話 誠実

「これを見てくださいよ、先輩!」

「ん?」

 スミレのケータイ画面には、録画した神父さまの姿が。知らない特技やモーションを繰り出しているようだ。

「どうやって撮ったの?」

「夜中、目が覚めちゃったので、ゲームをやったんだけど。そしたら、こんなのが撮れたんですよ」

「そっか」


 タローは会社からの帰り道、あの動画が気になって仕方がなかった。確実に見たことのない動作ではあったが、学生時代に話題となったサラクエ都市伝説に酷似しているなと感じたためである。内容は、神父さまが手書きでセーブデータを記している説だとか、武器屋の親父に売りつけた不用品はポーションの材料になっているなど、まともなものではない。

 しかし、その都市伝説の中にNPCというものがあり、神父キャラの姿がなんだか重なる気がするのだ。

「まぁ、あの人は神父のコスチュームであって、NPCじゃないから違うよな」



 その夜、タローは久しぶりにサラクエを起動した。ギルドメンバーを見ると、神父はログインしていない。

「お久しぶりです」

 話しかけてきたのは、同じギルドメンバーのダークゲイザーであった。彼は割と社交的な人で、こまめに話しかけてくれる。そんな話す気はないタローであるが、少しばかり聞いてみることにした。

「こんばんは。神父の方と仲良かったりします?」

「はい。今日からは時の人かも知れませんね(笑)」

「何かあったんですか?」

「これです!」

 ≪URLが添付されました≫

 押してみると、昼に見た神父の姿があった。

「誰が挙げたんですk」

「ギルドメンバーのスミレさんですね」

 焦ってタイプしたため、字足らずのようになった。これは間違いなく、スミレの仕業だ。あの子はやっぱり好きになれない。下手すると、あの神父は通報される可能性がある。

「これは通報されたりするやつですかね」

「どうなんでしょうね。改造はしてそうですけど(笑)」


 スミレに連絡しようかとも思ったが、変に気まずくなるのも嫌だったため、やめることにした。その後、ぼーと1時間クエストをしてから、もう一度あの動画を見ていると、気になるコメントがあった。


「録ってるやつ自体が改造データで草。神父のやつログイン欄にいないwww」

 全くもって気づかなかった。確かにいない。じゃあ、どういうことなんだ。

 タローは急いでスミレに連絡した。


「あの録画は加工したの?」

「いいや、寝ぼけて自動投稿ONにしちゃってたみたいで。なんかマズイことになってるんですか?」

「消した方が、あの神父の人には良いと思う」

「わかりました!すぐにやりますネ!!」

 これだけ見ると、悪い人ではないのだろう。しかしながら、なんともなぁと思うタローであった。


 結局、そんなに広がりはしなかったが、ちょいちょい話題になる動画となった。







 -サラクエ内某所

「やってしまいました...」

「全く困っちゃうよ、君。どうするかねぇ」

 NPC側はユーザーたちより、大騒ぎだった。

 そして、そんな彼等NPCのもとに最大の火種バグが近づいていた。

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