第8話 忘れてたとは言えない

「ところで、昨日の約束は?」

 金曜の約束を吹っ飛ばし、神父さまに問い詰められるタロー。街では武器を使えないためPK(プレイヤーキル)されることないのだが、なぜか神父さまにはPK出来てしまうようなオーラが出ている気がする。

「すみません...... 実は」

「私のせいです」

「君は?」

「スミレです!」


 <ユーザーネーム> スミレ

 <レベル> 97

 <職業> 海賊


 このステータスを見た神父さまは、少しばかり驚いた。神父さまは立場上、ユーザー情報を覗けるのだが、サラクエで一番人気のない職業である海賊をここまで極めているユーザーは指で数えられるほどしかいないのだ。なぜ人気がないというと、固有スキル“略奪”がPK特化しており、他ユーザーから警戒されやすいからである。


「お二人はリアルでも知り合いなのですか?」

「はい!」

 今、サラクエをやっている家にすみれがいるわけではないのだが、チャット欄の文字だけでも昨日の一件がタローの頭によぎる。


「私のギルドに入りませんか?」

「私、入ります! 先輩も入りますよね!」

「ちょっt」

 タイプ途中の文章を送信してしまうタロー。すみれの巻き込み力がタローを完全に支配しているようだ。

「入ります」

 タロー的にもギルドへ抵抗感はないため、入るのには問題はなかった。しかし、彼女スミレと一緒なのは少しばかり気がかりである。


 -数日後

「まずは、この新イベントをやりましょう!」

 神父さまの提案で新イベント攻略がギルドの初仕事となった。イベントの概要としては、トレジャー&バトルの形式である。


「見つけた!」

 ≪隠れ勇者は姿をあらわした!≫

 いきなり戦闘に入る。四人パーティの構成は、タロー、スミレ、神父さま、ダークゲイザーであった。ダークゲイザーというのは、神父さまが直々にスカウトしたユーザーの一人で、レベル99の魔剣士である。基本的には無言で話す時もチャットのスタンプ機能のみという少し絡みづらい人だ。


 ≪隠れ勇者のこうげき≫

 ≪ダークゲイザーに130ダメージ≫

 防御力が高め設定の魔剣士であっても、通常攻撃でHPの半分を持ってかれる。


 ≪タローは聖女の息吹をつかった≫

 ≪タローたちを聖なるオーラがつつむ≫

「遅かった。この勇者、すばやさが高すぎないか」


 ≪スミレのアンカーバインド!≫

 ≪隠れ勇者に87ダメージ。隠れ勇者のすばやさが下がった。隠れ勇者は逃げることが出来なくなった≫

 アンカーバインドは海賊の固有特技の一つで、すばやさや裏パラメータの回避率を下げるばかりか、逃げるを3ターン無効に出来る優れた技である。


 ≪ダークゲイザーのドレインクラッシュ!≫

 ≪隠れ勇者に124ダメージ。ダークゲイザーはHPを31回復した≫

 ダークゲイザーは回復と両立できる攻撃を選択した。


 ≪神父さまのこうげき≫

 ≪〜エラーが発生しました〜≫

 神父さまの姿が消えた。

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