N2話 あの子はオフライン
-社員の声
「今日も神父さまが出たらしいぞ」
「そういえば誰か探してるやつがいなかったか?」
「俺は知らないなぁ」
「俺もだ」
「思い出した!武器屋の親父だよ!」
「親父って、Ⅳの時に荒れてたっていう親父のことか?」
「あぁ、そうだ」
-終業後
「どうやら、我らが神父さまは大暴れしてるみたいだぜ」
まだお酒を一滴も飲んでいないはずの店主は、その小太りな腹を叩きながらえらく盛り上がっていた。
「それで、どうする気なんです?」
「おいおい。お前さんもストレスが溜まっていないのかい?」
「溜まってないわけじゃないっすけど」
村人はボソボソ呟いた。それを聞いた店主はニカっと微笑み、
「どうにか戻ってきてもらおうぜ」
神父さまの前職であるセーブ係の仕事は、昨今のオートセーブやノーセーブ全クリなどの流行によって疲弊の一途を辿っていた。そんなストレス下に置かれた神父さまは、ある日セーブデータを消すためにユーザーと対峙(これは業務の一環)し、ユーザーをぶちのめすことでストレスからの解放を得ていたのである。
この一連の騒動に店主と村人も参加していた。
「手がかりはあるんっすか?」
「これがあるんだよ。どうやら神父さまと会って、話したユーザーがいるんだと」
「そのユーザー様のお名前は?」
村人は食い入るように聞いた。
「タローって名前らしい。最近始めたての新米ユーザーだな」
「じゃあ、早速、明日から探しましょう!」
二人は久々の再開に心を躍らせ、酒を飲み交わした。
-翌日 終業後
「いましたか?俺、忙しくって」
「いや、今日は見当たらなかったなぁ」
-そのまた翌日 終業後
「俺も探したんっすけど、いないっすねぇ」
「俺もだ。レベル上げでもしてるじゃねぇか?」
-そのまたまた翌日 終業後
「いないっす」
「いねぇ」
そんなこんなで5日ほど経ってしまった。
「ログインすらしてねぇ」
「なんでなんすかねぇ。ログインボーナスとかあるのに」
「知るかよ。そいつしか手がかりがねぇのに」
「ユーザー様に“そいつ”はアウトっすよ」
居酒屋で、落ち込みムードの二人に明るい声がかかる。
「どうも。暗い顔してるけど、なんかあったの?」
「なんだ町娘か」
声の主はオフラインモードで町“娘”を担当する女性だった。
「なんだは余分でしょ!何があったか教えてよ。私はオフラインで暇なんだから」
「オフラインにはわかんないっすよ」
「酷いじゃない。私はどこかの受付嬢みたいに聖徳太子のマネはごめんよ。どうせみんなボタン連打で飛ばすし。だったら、オフラインで一人の男性の物語を」
「はいはい、わかったよ」
町娘のオフラインの魅力解説をたちきり、村人はヘソを曲げた店主の代わりに話をした。
「私、そのタローってユーザー様知ってるよ。ていうか、私の担当だし」
「え?」
「どういうこった⁉︎」
店主すらこちらを向いてきた。
「最近、熱心にオフラインのストーリー進めてるよ」
「そういうことか。じゃあ、ちょっとオンラインに来るように一言伝えてくれよ」
店主の突飛な申し出に町娘は引き気味な解答を示した。
「流石に無理です。先輩の頼みでも。私だって、仕事中ですし」
「今度、美味しいお店連れて行くからさ」
村人がすかさず、付け加える。町娘の表情が明らかに変わった。明るく、そして少し不敵に。
「おごってくれるなら、」
「なら?」
「メッセージボックス開けておきます。そしたら通知行くはず!」
「OK!ありがとう!!」
そんなこんなで三人は神父さまへの手がかりになる
まだ、彼らはこの行動の重大さを気づいてはいなかった、、、
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