5

「私、お花摘みに行ってくる。」

そう言い、席を立ちあーさは一旦リビングを出る。

「あさがおをと付き合ってくれてありがとね。」

程なくしてお茶を1口飲み、雪子さんが口を開く。

「いえいえ、自分もあさがおさんの事は気になっていたので告白するのは時間の問題でしたよ。」

「そうかい、あの子はね6歳の時に親と弟を亡くてね。それっきり心の底から笑う事が無くなったんだよ。心配してもいつも、『大丈夫。』って言って気丈に振る舞うんだけれどね…」

そう言いい視線を湯呑みを握っている手に落とす。

「大丈夫な訳が無いのさ。私にできたのは親の代わり、あの子は人の温もり、『愛』に飢えているのさ。」

「愛に飢えてる…」

想像も考えたことも無い言葉。

あーさは愛に飢えているから自分に告白してきたのだろうか?それと、自分のことをちゃんと好きでいてくれているのだろうか?

「でも、どうしてこの話を?」

「あの子の大切な人だからに決まっておるだろ。2年生になってからしょっちゅうあんたの名前があの子の口から出るようになってね、あさがおも恋をしてるんだって安心したさ。そして、その恋は実った。こうして、あんたと話せて私は嬉しいよ。どうかあさがおを大切にして欲しい。」

「こちらこそ、あさがおは俺が守ります。」

雪子さんの目を見て言う。

「頼んだよ。」

そう言うと雪子さんは席を立ち、洗い物をしにキッチンへ向かった。

「お待たせ。」

ガチャッと扉が開き、お花摘み終わったあーさが入ってくる。

「あさがお、もう9時だから翔太くんを送ってあげなさい。」

キッチンで洗い物をし始めた雪子さんが言う。

「え、もうこんな時間?」

と慌ててあーさは時計を確認する。

「ほんとだ、帰らないと明日も学校だし。」

それに釣られ自分も携帯の時計で確認する。時刻は午後9時を少し回っぐらい。

明日も学校があるのでそろそろ帰らなくてはいけない。

「そうね。」

少し、残念そうにするあーさ。

「また明日会えるから。」

「うん。」

リビングを後にし、仏壇の前で「お邪魔しました。」とお線香を焚き、玄関で靴を履く。

外に出ると夜風が吹いていて心地よい。

「ありがと。」

腕を後ろに組んであーさが言う。

「何が?」

「私と付き合ってくれて。」

「俺もあーさのこと好きだったから。」

「うん、知ってた。」

そう言って1歩詰寄る。

「いなくなっちゃ、やだよ。」

「いなくなったりしない。」

「絶対?」

「絶対だ。」

「そっか。安心した。」

そう言うと「少しだけ」と抱きつく。

それを、受け入れ自分もギュッと手を回す。

「ありがと。じゃあ、また明日。」

「うん、また明日。」

そう言い、俺は家へと帰った。





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