2

そもそも、『葵田あさがお』という女性との出会いはたまたま席が隣になった、ただそれだけだった。

「ねぇねぇ、相川くんは何の係やるの?」

声の方を向いてみると、そこには茶色のショートヘアにクリクリとした目をしたあさがおがこちらを見ていた。

きっと彼女のような誰からでも好かれそうな雰囲気をただよわせる人がクラスの中心に立つ人間になるのだろう。

そして、同じような男と付き合いクラスのみんなから応援されるカップルになるのだろう。あー羨ましー。

「もしもーし、聞こえてる?」

「は、はい?」

自分の妄想から意識を引き上げ反射的に返す。

「聞いてた?」

「何をです?」

「だから、相川くんはどの係にするか聞いたの。」

「あ、あぁ、まだ、特に決めたない。」

女子と、というか人と話すことにあまり慣れておらずだんだん声が細くなっていく。

「そう、じゃあ、一緒にクラス委員やらない?」

「え、」

「私も特に決めてないしそれにほら、」

そう言いながら黒板を指さす。

黒板を見てみるとクラス委員のところが空白になっていた。

そして、クラス委員が決まらなければ次の係は決まらない。

「誰もやりそうにないし。ね、一緒にやろ。」

「なんで俺なの?」

自分のようなやつよりもっと適任なやつがいたはずだ。

「んー、何となく。」

そう言うと「はい、私やります。」と言って立候補した。

そして、急かすようにこちらをじーっと見てくる。

「自分もやります。」

彼女の視線に負け渋々立候補する。

そして、彼女が委員長、自分が副委員長になり以後の係決めの進行役になった。

そこからはあっという間に決まった。


キーンコーンカーンコーン…

そんな回想をしていると下校の予鈴が鳴る。

今も抱きついてる彼女を見るとまだ、離れたくないと言うような目でこちらを見ていた。

「さすがに帰らないと。」

「そうだね。」

名残惜しそうに離れ、「ん。」と手を差し出してくる。

その意図を察し、恐る恐るに手を取る。

「んふふ。」

嬉しそうに頬を緩まし指を絡ませ、小さく柔らかい手でギュッと握る。

そんな彼女の笑顔を直視出来ず思わず目をそらせる。

「か、帰ろうか。」

出た言葉はこの一言だった。

幸いと言うべきか生徒玄関までは誰とも会うことなかった。

少し残念そうな表情をしながら靴を履くために絡めた手を解く。

靴に履き替え少し待っていると程なくして靴に履き替えた彼女が来る。

今度は自分から手を取る。

少し驚いたようにこちらを見てくる。

「ダメだった?」

「そんな事ないとっても嬉しい…じゃあ、えいっ!」

あーさが自分の腕に抱きついてくる。

彼女もしっかり女の子の体しており、ふたつの山もしっかりと感じ取ることが出来た。

「あー、今エッチな事考えてたでしょー。」

からかいながらさらに体を押し付けてくる。

きっと今の自分の顔は真っ赤に染まっているだろう。

「ふふふ、顔タコみたいだよ。」

やっぱり。

「い、行こうか。」

何とか言葉を絞り出し、玄関を出る。

校庭ではサッカー部が円を作りストレッチをしており「イッチニーサンシー」という掛け声が聞こえてくる。

逆側を見てみればテニス部がテニスコートでゲーム形式で練習しており、「オッケー!!」と言いながらテニスボールを打っていた。

そして、そのぐらい意識をそらさなければ倒れ込んでしまいそうなほどの気恥ずかしさに襲われていた。

さっきすれ違った部活終わりの生徒たちに珍しいものでも見るような目を向けられていた。

それもそのはずで、玄関を出てもずっと腕に抱きついたまま離れる気配を見せない彼女はまるで周りに見せつけるようにゆっくりと歩いていた。

「もう少し早く歩かない?」

と言っても

「これが私の普通なの。」

そう言われればしょうがなくはないがしょうがない。

今日は家に帰るだけで疲れそうだ…






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る