開いて結んで:光

1.


 月曜日。光の朝はスマホの着信音で目が覚める。ベッドから手を伸ばして、机に置いてあるスマホを手探りで掴んだ。そして通話ボタンを押す。


「ふわああ、おはよう拓馬」


 布団の中であくびをしながら、朝一のあいさつをする光。


「おはよう、光」


 電話の相手は光の彼氏の拓馬だ。サッカー部でキーパーをしている巌のような男だ。


「なあ、昨日野々花と会ったんだけど、あいつどうかしたのか?」


 ついでに光と野々花の幼なじみでもある。三人は小学校から仲が良く、近所に住んでいた。


「ああ、うん。まあ、何ていうか、友達とケンカ中、かな」


 珍しく光は歯切れが悪い言い方をする。野々花とレイアはケンカをしたというよりも、うまく歯車がかみ合わなかったといった方がいいだろう。実際に言い争って、ぶつかったわけでもない。


「そうか。早く仲直り出来るといいな」


「うん。それじゃ、後でね」


 うーんと腕を伸ばして、伸びをする光。これから着替えて、拓馬と朝のランニングをするのだ。光と拓馬は甘いデートなどはほとんどしないが、部活も同じだし、一緒に自転車で登下校するし、いつも隣にいる。




 いつも隣にいると言っても、四六時中というわけではない。クラスが違うから授業中は別であるし、昼食は野々花たちと取っている。その昼食のために食堂にやってきた。いつもボリュームのあるメニューを選ぶ光は、この日はからあげ定食特盛を頼んだ。


「レイア、そわそわし過ぎ」


 席に着くと既に座っていたレイアが、おそばを前に辺りをキョロキョロ見ている。


「早く野々花ちゃんに直接謝りたいのです。あのときはすごくいいことだと思ったんです。だけど、光ちゃんや夕美ちゃんに言われて、やっと気づきました。私、お邪魔虫だったのです。二人の間にお邪魔虫はいりません……」


「野々花は邪魔とは思ってないよ」


 夕美がやってきて、光の隣の席に座った。


「うん。野々花は誰かのことを邪魔とか思わないね。たぶん、間接的じゃなくて野々花が自分で連絡先を聞きたかったんじゃないかな。紘道先輩になかなか言い出せなくてもさ」


「……そうですか。私、どちらにしても余計なことをしてしまいました」


 レイアはしょんぼりと肩を落す。


「まあ、野々花が来たら仲直り出来るって」


 そう言って光は箸を手に取った。そのとき、光がテーブルの上に置いたスマホが震える。光は手に取って、送られて来たメッセージを開いた。


「野々花からだ。……今日は教室で食べるって、みんなによろしくって」


 光は読み上げながらレイアを横目で見ていた。レイアは肩を震わせて、瞳も震わせて、やがてテーブルに突っ伏す。おそばの汁が揺れて、少しこぼれた。


「野々花ちゃん、やっぱり私のこと許せないのですね!」


「あー……レイア、大丈夫だって、今日だけだよ」


 夕美の言うことにうんうんと光も頷く。きっと野々花もこの前の今日だから、気持ちの整理がついていないのだろう。


「ほら、レイア。顔をあげて」


 テーブルに突っ伏しているレイアは結構注目されている。レイアは潤んだ目をこすりながら、ゆっくりと身を起こした。


「うぅ、紘道先輩の連絡先は消します。元々、私は連絡するつもりはなかったですし。野々花ちゃんの見ている前で消します。私のけじめです」


 連絡先一つで大げさだなぁと光は思う。しかし、その連絡先一つにどんどん大ごとになっていった。


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