第4話 香月蓮は煩悶する。

 建物が老朽化したら建て替える。これは当たり前のことだ。ウチの高校も例外でなく、僕が入学する何年か前に改築がなされていた。しかし、OB会や地域からの要望で取り壊されずに残った施設がいくつかあって、そのうちの一つが古めかしい木造の図書室。新校舎にも図書室は設置されたので、便宜上、旧図書室なんて呼ばれている。蔵書や設備やアクセス性などあらゆる面で新設の方に劣るせいか人の出入りは少なく、僕はそこに目を付けた。ちょっとくらい騒いでも許される図書室というのは、なかなかそそるものがあったのだ。


 昼休みが始まってすぐ、僕は朝方コンビニで購入してきた菓子パンと飲み物を持って旧図書室へ。周りの目を気にせず自由に会話できるということで、芦屋にもその場所の存在は教えていた。既に利用実績もある。少しかびたような木の匂いは嫌いではなくて、鼻から息を吸って年代物の丸椅子に座った。案の定、僕以外の生徒はいない。老齢の女性司書さんが本を読んでいるだけだ。


「こんにちは」


 言ったのは、僕ではなかった。少し遅れてやってきた芦屋が司書さんに向けてにこやかにお辞儀をして、軽やかな足取りで僕の隣へ。


「ごめんなさい、呼びつけた私が遅れて」

「これくらいは誤差だろうよ」


 いつも一緒に昼食を摂っている友人たちに一言伝える手間があるぶん、僕より時間を食うのは既定路線。わかっていることにいちいち文句を言うほど小さい人間ではないつもりだ。

 それよりも、気になるのは。


「んーー……」

「…………?」


 唸る。今日の芦屋と昨日の芦屋が自分の中でイマイチ重ならない。白昼夢を見ていたのならそれが一番だったのだが、あいにくそうではないのだと告げてくる証拠があった。


「どうかした?」

「本来なら僕のセリフ……なんだけど、僕も僕でまあまあどうかしちゃってる疑惑があるしなぁ」


 自己完結の独り言を受け、芦屋は首を傾げた。これは昨日崩壊してしまうまで僕が持っていた芦屋像にバッチリ合致するもので、余計に状況がややこしくなる。彼女の奥ゆかしさは健在で、もしかしておかしいのは自分の方なのではないかと思えてしまうのだ。


「そういえば、お隣のすずさん? でしたっけ。 あの後大丈夫だった?」

「一応大事取って今日は家で大人しくしてる。熱はすぐ下がったから問題ないと思うけど」

「家っていうと、香月くんのお宅?」

「いや、ちゃんとあいつの自宅」

「本当に?」

「……たぶん」

「向こうから来るぶんにはどうしようもない、と」


 今の会話で、やはり昨日あった全ては現実だったのだと実感。僕は耳栓をしていたので全て聞いたわけではないが、すずと芦屋の舌戦は結構なところまでヒートアップし、最終的にキャパシティを超えたすずが知恵熱でダウンした。昔からよく見る光景だったのでそこまで心配はしていないが、途中で止めてやるのが優しさだったかもしれない。でも、内容が内容だけに聞いていられなかったんだ……。


「……まあ、食べながら」


 ビニールの包装を剥がす。乗じる形で、芦屋も小さな弁当箱の包みをほどいた。十中八九、今頃すずは僕の部屋でくつろいでいることだろう。あそこには娯楽があふれているから、時間を潰すのに最適なのだ。


「昨日は話の途中でお開きになってしまったから」


 彩り豊かなお弁当は、毎朝早起きして芦屋本人が仕込んでいるらしい。素直にすごいと思うし、尊敬する。だが今は、彼女が食んでいるタコさんウィンナーにも僕の口に詰め込まれているメロンパンにも、そこまで意識を向けられる余裕がなかった。味のしない小麦の塊をこれまた味のしないコーヒー牛乳で流し込んで、空腹だけ紛らわす。昨日の話にどこまで触れていいのやら、僕の頭がぐらぐら揺れる。


「……漫画、面白かった?」

「ええ、まだ三巻の半ばだけれど」

「そりゃよかった」


 絶対違う。これじゃない。ジャブから軽く当てにいった自分の心の弱さを呪って、会話をどう組み立てるべきか再度考え直す。『昨日錯乱してなかった?』なんてどうだ。熱があったのは実はすずだけじゃなかったのかもしれない。そう考えれば全てのつじつまが……合わねえな。

 じゃあどう問いかけるかと言われて、僕には手立てらしい手立てがなかった。完全にお手上げである。いっそ、昨日はなかったことにしてしまうのが一番なのかも。できるかどうかは別として。


「……芦屋さ、もしかして学校だと猫被ってる?」


 悩んだ末に吐き出されたのがこれなんだから、僕の対応力は本当に救えない。もうちょっとオブラートに包むなり迂遠に聞くなり、やりようはいくらでもあったはず。だけど、遅々とした腹の探り合いなんかができるようなタマではないから、結局一番手っ取り早いのはこのやりかたかもしれなかった。


「猫?」

「そう、猫」


 可愛らしく、右手で虚空をくいくいと掻く仕草をする芦屋。その猫っぽいジェスチャーを指さしで肯定する僕。なんだこれ。


「僕の記憶している限りでは入学してから今日までの約三週間、君はセクシャルな話題を取り上げたこともなければ、それにまつわる単語を口にしたこともなかったはずなんだ。……昨日を除いて」

「本当にそうだった?」

「まちがいなくそうだった。賭けてもいい」


 彼女とは、バンドや流行りものの話ばかりしていた。そのせいかプロフィールや家族構成、どんな友達がいるかなんていった情報をほとんど知らない。友人を自称しておきながら奇妙な話だとは思うが、延々と趣味の話だけをする日々だったのだ。

 考えてみれば、僕という人間は芦屋という人間をまるで理解していなかった。話が合うという一要素でわかり合えた気になっていただけで、彼女の素性らしき素性を知らない。誕生日とか、血液型とか、知り合って間もない時期にはいい話題になるだろうに。


「大前提として、僕は今後も君と良好な友達付き合いをしたいってことは念頭に置いといて欲しいんだけど、正直今の混乱しまくった状況だと困ることが多すぎる。だから、それを解消するためにこれからいろいろ質問していいか?」

「ええ。……でも、最初に私から一つ聞いていいかしら?」

「構わない」

「香月くんって、友達だと思っている女の子とでもセッ〇スできるタイプ?」

「…………」

 

 構わない。この五音を口にした自分が憎い。結果として全然構わなくない言葉を引っ張り出してしまった。お願いだから、平然とした表情で言い放つのをやめて欲しい。テンションのギャップで脳みそがおかしくなってしまう。


「……それに答えるとどうなる?」

「ノーだったら例のすずさんは香月くんにとってただの友人。でも、イエスだったら友達という枠組みを超えた存在だということになるから」

「ロジックとしては正しいだろうが、エシックとしてはまちがっていると言わざるをえない。それに、僕が仮にその問いに答えたとて、君にどんな利益があるんだよ?」

「今後、あなたとどう付き合っていけばいいかを見つめ直せるわ」

「…………」


 思うことはいくらでもあったが、僕とすずの間に肉体関係がないという一つの事実を材料にして発展していく推理、マジで地獄。突き詰めるとこれ以外の感想がない。っていうか絶対これ、ド真面目なテンションでしちゃいけない会話だ。修学旅行で深夜三時に男だけでしてようやく許されるようなレベルの話題じゃないのか。


 僕は再三煩悶し、悩み、悶え、苦しんで、最後にもうなにもかもがどうでもよくなり、自意識過剰も甚だしいド直球の問いを繰り出すことにした。後は野となれ山となれ。今を生きる力が全て。






「芦屋は僕とセッ〇スがしたいのか?」

「細かい説明は省くけれど、結論だけ言ってしまえばそれでまちがいないわ」




 


 へぇ、そうなんだ、ははは。………………………………………………なんて言えるわけがない。


「……僕は、どちらかと言えば君が省いてしまった細かい説明の方に興味がある」

「どうして?」

「心当たりがないからだ」


 竜也風の言い回しを用いるなら、好意の文脈。僕視点、芦屋からはそれがさっぱり欠如している。人が人に恋慕の情を向けるというのなら、ふさわしいきっかけが必要だと思うのだ。

 まあ、僕らの出会いは運命的と言えなくもなかった。だがそれは、人の捉え方に依拠する。もしも彼女が男性との付き合いに疎い純朴な少女であれば万が一も有り得たが、あいにく芦屋は男の目を惹くとびきりの美少女。方々から引く手あまただったのは想像に難くなく、その中には運命的な出会いを演出する奴だっていたはずだ。であれば確実に耐性はついていて、あっさりころっと一目ぼれなどあり得ない。そもそも僕は、一目ぼれという眉唾モノの現象を信じていないのだが。


「めちゃくちゃに思い上がったことを言って申し訳ないんだけど、僕だからよかったのか? それとも、言い方は悪いんだけど男なら誰でもよかった?」

「私の貞操観念を疑っていると」

「端的に言えばそうなる」


 詰めるべきはそこからだ。僕の価値観だけで語るとどこかで必ずズレが出る。彼女の理解と認識のすり合わせをして初めて、納得できる気がする。

 

「……私が処女という情報が、そのまま答えになると思わない?」

「やっぱいきなりぶっこんでくるなぁ」

「こんなことを言っておいてなんだけど、身持ちはだいぶ固い方だという自負があるわ」


 胸に手を当て強調する芦屋。強調されるのが言葉だけならマシだったのだが、メリハリの効いたスタイルの方に目が行ってしまってダメだ。僕は首を傾けながら目を瞑って自戒。これは真面目な話なのだ。


「もしも信用ならないなら確かめてもらって構わないし」

「処女かどうか確認する段階で当人の処女性は喪失されると思わないか? 僕はそれを処女のパラドクスと呼称している」

「確認してもらうのは過去の経歴のつもりだったのだけど……」

「…………」


 一本取られたのか、僕が自爆したのか。真偽のほどは定かではない。定かではないものの耳まで熱くなる感覚があって、まあ恥ずかしい。普通に死にたい。


「香月くんがそうしたいなら、よしなに」

「言質にしないでくれ」

「香月くんのお宅だと難しいだろうから、私の家で」

「話を進めるな。言葉の綾なんだ。ってかその調子だから貞操観念疑われるんだぞ」


 進みかけた会話が逆戻りしている。お互いに揚げ足取りをしていたら進むものも進まないので、「とにかく」とパンの残りを一気に流し込んで言う。


「すずも昨日言ってたけど、人間関係には順序があるんだよ。っていうか君友達多いしそのあたりの勝手は僕より心得てるだろ」

「……休み時間に話したり一緒にお昼を食べたり休みの日に会って遊びに行くのは順序ではないと?」

「おっとぉ」


 暗雲。黄信号。過去全てを振り返ってもこれ以上話が合う相手に出会ったことはなく、ずっと夢見心地だった。最高の友人を手に入れられてラッキーとしか思っていなかった。


「男の子を遊びに誘ったときの私の心情はまるで斟酌されていなかったと?」

「あ、あぁ……」

「カラオケ店の密室で万が一を想定していたのは私だけだったと?」

「お、おぉ……」

「後半露骨にラブソングへシフトしていったのは偶然だったと?」

「…………あの、一ついいか」


 ぶっちゃけ、なにひとつ気づいていなかった。歌上手いなぁと無邪気に喜びながらタンバリンを叩く馬鹿しかそこにはいなかった。その状況下でやたらパーソナルスペースを詰めてきたのも、単にボルテージの上昇によるものだと疑わなかった。


 ……悪いの、もしかしなくても僕なのでは?


「申し訳ありませんでした」


 頭を下げる。全然見えていなかったのはこっちだ。いきなりで不気味だなぁなんて、馬鹿の発想だ。


 ――そのうえで。


 なおも、気がかりなことは残っている。


「……でも、きっかけの方はまだわからない」

「きっかけ?」

「順序だてられていたことは遅まきながら理解した。そこに関しては完全に僕の非でなにひとつ言い訳できない。……でも、そういう順序を組もうと思ったらそれにふさわしいイベントが必要というか」

「あるわよ」

「……マジ?」

「ただ、教えてあげない」

「まあ、うん、まあ……」


 そこまで詳らかに話させるのはさすがに野暮ったい。散々恥をかかせてしまっていたようだし、解き明かすのは僕の仕事か。

 しかし、わかったらわかったで参ると言うか、なおも未解明の部分が残るというか。

 なんで肉体関係へ直行したがっているのかは、未だに謎のままだ。


「申し訳ない」


 また言って、お辞儀。この状況における最適解が見つからない以上、平謝りするのが一番に思えた。頭は昨日よりもよっぽどこんがらがって、状況の整理で手一杯。せめてこれ以上の無礼を働かないよう努めるべき。


「そこらへんの感覚が鈍くなってるの、あの幼馴染さんの影響?」

「……否定はできない」

「今日は、それを聞きたくて呼んだの」


 そういえば、呼び出すからには彼女の方にも理由がなければおかしいか。こちらの疑問をぶつけるばかりでまるで気が回っていなかった。視野狭窄を省みつつ、続く彼女の言葉を待つ。


「すずは名前?」

「涼音って言うんだ。名字は花柳」

「いつからの付き合い?」

「はっきり覚えてるのは小学校に上がるあたり。あのマンションは分譲なんだけど、ちょうどその頃に花柳一家が入居してきた気がする」

「……ということは、家族ぐるみの関係と」

「うちも向こうも両親が家空けがちだから、自然とな。今日は花柳さんちで夕飯ご馳走になりな~みたいに」

「なるほど」


 質問というよりは、尋問といった方が近い。問いは大きな波がないまま淡々と続く。


「家族構成は?」

「向こうも僕も両親と子どもの三人。あ、うちは父親が単身赴任で離れてるけど」

「香月くんのお母様は花柳さんのことをなんて?」

「勝手に侵入するのは容認してるな。僕の面倒を見てくれていると思ってるらしい」

「……じゃあ、香月くん自身はどう? 正直、プライベートが明け透けになるのは嫌じゃない?」

「うーん……」


 顎に手を当て、唸る。思春期らしい思春期、反抗期らしい反抗期を経ないで生きてきたものだから、そのあたりの感覚が多少なりとも一般からズレている自覚はある。


「うざったいなぁと思う前からあんな感じだから、半ば刷り込みで平気になってるな。勉強するって言えば付き合ってくれるし、本当に一人になりたいときは向こうが察して勝手に帰るしで、一応弁えるところは

弁えてる」

「エッチな本はどこに隠してるの?」

「急に質問の知能指数を下げるな。あんな筒抜けの環境で隠しごとなんてできない」

「そうね。で、そんな禁欲的な環境に可愛らしい女の子と二人きり。それも毎日でしょう?」

「……なにが言いたい」

「ふとした拍子に魔が差したこと、ないの?」

「…………」


 よりにもよって、そのめちゃくちゃナイーブでデリケートなところを攻めるのか。

 普通だったら無視なり適当な答えで場を白けさせたりするところだが、これまでに僕が芦屋へ働いた無礼を思えば、逃げると心理的なつり合いが取れなくなる。友人間の貸し借りは常にイーブンにしておきたがる僕の性根的に、それはよくなかった。


「その類の質問がこれっきりだって約束してくれるなら答える」

「……前置きがほとんど答えじゃない?」

「儀礼みたいなもんだよ」

「じゃあ、約束」

「ん」


 差し出された小指に僕の小指を絡め、簡易的な契約をする。こういう人間としての基礎部分において、芦屋は信頼していい相手だと思う。本性にずっと気づけないままだった僕だけれど、悪人か善人かは論じるまでもなく明らかだ。


 だから、本当は絶対言いたくないことを、どんな言葉で表すか考えるだけで胃が痛くなることを、口にした。


「……脳裏によぎらないわけはない」

「じゃあ」

「でも、僕は行動に移したこともない。性欲の化身じゃないからな」

「悶々とした行き場のない感情、私でよければ発散に付き合うけど」

「愛人マインドすぎる。君の行く末が心配になるからやめてくれ」


 すず関連の踏み入った話はできることなら誰ともしたくない。なんなら、すず本人とも。あの居心地のいい空間が一時の気の迷いで簡単に崩壊してしまうことくらい僕はとっくに気が付いていて、けれどそれから目を逸らしたくなるほどに、今が楽しいのだ。二人で朝方までぶっ続けでゲームして、昼過ぎまで眠って。朝食だか昼食だかわからないご飯を食べて、適当にだらだらとくつろぐ。これ以上を求めたら罰が当たりそうなくらい、最高の生活。僕らの聖域。

 では、なぜそれが脅かされる可能性を孕んでいるというのに、僕は芦屋を部屋に招いたのか。


「彼女の言う通り、少なくとも私が来ている間だけは遠ざけておくべきだったんじゃない?」


 当たり前のように、彼女もその疑問に行きあたったようだった。だが僕は、なにも行き当たりばったりで凶行に及んだわけではないのだ。


「あいつ、友達が極端に少ないんだ」

「そうは見えなかったけれど」

「内弁慶なだけで、僕が近くにいないときは完全に借りてきた猫状態。前髪で目を隠して、極力人の意識に入らないよう努めてる」

「どうして?」

「昔いろいろあったんだ。詳細はさっきの約束で伏せさせてくれ」


 あいつの了承を得ずに話していいことじゃない。そして、了承を得たって話そうとは思わない。封をして記憶の底にしまった、悲しい思い出だ。ある日をきっかけにして人との関わりを極端に恐れるようになったすずは、ごく少数の人間にしか心を開かなくなった。自宅や僕の部屋であれば多少の融通も利くのだが、一歩でも外に出たらてんで駄目。学校に通えていることすら奇跡だと僕は思っている。

 でも、今のままではまずいなぁという漫然とした不安は、昔からずっとあって。


「同性の友達が一人でもいると、ずいぶん気が楽だろ? で、僕の友人である芦屋なら、そのあたりスムーズに行くかもしれないと思ってたんだ」

「じゃあ、昨日は初めから顔合わせのつもりで?」

「……想定外のことが起こりすぎたけど、一応はその予定でいた」


 蓋を開けてみれば、どちらかが今にでも噛みついていきそうな熱戦が展開されていたけれど。……でも、基本姿勢が逃げ腰のすずを思えば、むしろ昨日はいい兆候とすら言えて。できるのならこのまま仲良くしてやって欲しいなんて、出過ぎた願いを持っている。僕はあいつの保護者じゃないのにな。


「言ったら逃げるあいつは別として、芦屋には最初から伝えておくべきだった」

「……まあ、それなら過度な期待を持たずに済んだかもしれないわね」

「…………そ、それでだな」

 

 蒸し返したくなるのは理解できるが、それじゃ話が進行しない。つまるところ、僕が言いたいのは……。


「できることなら、たまに相手をしてやってくれないか?」

「無理」

「……ぇ」

「事情が事情だもの、仲良くなんてできないと思う」


 言って、立ち上がって。


 手をひらひらと振りながら、芦屋は旧図書室を立ち去った。


 僕は、初めて彼女から示された明確な隔意に圧倒され、その場からしばらく動けなくなってしまった。

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