第10話 事件解決

 犯人が誰かということは被害者の知り合いならば最も大事だと思えるものであり、まだまだ色々することが出来た人生をそこで勝手に終わらせた犯人を許せないと思う気持ちは当然である。

「その犯人は山上さん、あなたですよね。」

山上はまさか自分の名前を山口が挙げてくるだなんて思ってもいなかったので口をポカンと開けて唖然としている。

「いやいや、冗談なんて大丈夫ですよ。僕は事件の真相が知りたい、ただそれだけですから。」

「ここまで話してきたように事件の真相には辿り着いているんですよ、それが出来る人物を絞っていくと山上さん以外にはあり得ないんですよ。」

山上は少しムッとした顔をしてから捨て吐くように

「そこまで言うなら僕が犯人だという証拠くらいあるんですよね。」

と言った。聞き取り方によっては挑発している犯人とも取れなくはない。

 山上が山上なら山口も山口である。仕掛けられた挑発に乗る姿勢を見せ、ポケットから一枚の紙を取り出した。どうやら証拠物品の写真のようだ。

「この写真を見て欲しいです。ここに写っているのは返り血を浴びないように使用されたレインコートです。」

「それが何って……?」

「このレインコート実は世の中にそれほど出回っているものではなくて売っているお店が限られますし、数は多くないんです。なので購入した人を調べればこれのレインコートの持ち主が分かってしまうんですよ。」

山上の顔がこの言葉を聞いて蒼白になった。犯人の失敗が目に見えるくらい明らかな情報であろう。

「まあ完全には調べきれていないので証拠というのには程遠いでしょう。」

山上の顔は福笑いかというくらいコロコロ変わる。挑発した側が逆に遊ばれているとも言える。とは言っても山口は遊んでいるわけではいなくて、山上の表情を窺っているだけである。

「本当に証拠と言えるものは一つだけあってそのレインコートに実は皮膚片が付いていたんです。被害者のものかどうか照合したんですが一致せず、犯人のものであると思われます。その皮膚片と山上さんのDNAが一致すれば証拠と言えるでしょうね。」

「調べたら僕のDNAと一致しますよ、だって僕が角利を殺ったんですから。」

「動機は内田さんの奥さんですか。」

「そこも調べが付いているんですね。ええ、彼女のために。元々は僕が最初に見つけて声をかけて上手くいっていたんですけどあいつが……あいつに……取られたんです。」

山上の悲鳴が辺りに響いた。これでもか、というくらいに響いた。

「どんな理由だって人を殺していい理由にはならないです。それに内田さんもあなたの気持ちは分かっていたようですよ。」

 山口はポケットから写真を取り出すと、それを山上に見せた。その写真には内田の手書きの日記が写っていてその日記には離婚を真剣に考えている様子が綴られていた。

「この事が分かっていたらもう少し違っていたのかもしれなかったですね。」

 嘆きの悲鳴が山上から漏れた。後悔しているようにも見えた。もう少しだけ気持ちを自分の中に留めておけば、そう繰り返していた。

 山口の後ろに控えていた二人の刑事たちが山上を促して署へと連行していこうとした。彼らは山口の前を通って車へと向かった。山口よりも少し後ろのところで山上は後ろを振り返って

「何で僕が犯人だって思ったんですか。」

と聞いた。

「内田さんが最後のメッセージとして教えてくれました。現場にアルファベットのエイチと血文字で書かれていたんです。それはアルファベットではなく、ギリシャ文字のエータだったんです。それで気付きました。本当はそんな文字残したくない、という思いが窺えるほどに死際に書いたようです。」

 山上はそれを聞いたときにとても悲しげな顔をした。自分の友を殺してしまったことがどれだけのことなのかを噛み締めたようだった。

 どんな事情の事件であれ、刑事たちは切り替えて次の事件に向かっていくしかない。山口は切り替えが苦手で事件毎に感情に浸ってしまう。もしかしたらそれが山口を所轄に留まらせる理由なのかもしれない。

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叡智の困惑 キザなRye @yosukew1616

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