第9話 山口の推理

 扉の前にいる人物が山口であると気付いたときに山上は一瞬苦い顔をしてから表情を作った。素人が見ても動揺していると分かるのだから幾度とこういうことをしている山口の目からしたら一目瞭然なのであろう。

 山上は実際はどうなのかは分からないが、山口が訪ねてきた目的が分からないようで

「どうしたんですか、わざわざ自宅まで足を運んできて。」

とぽかんとした感じが伝わってくるトーンで山口に尋ねた。

「私が立てた推理をお話ししに来ました、事件について気になられていたようなので事件の真相についてのお話を。」

以前、山上からの口から出た真相を最後まで調べてほしいという言葉に応えるような強めの口調で山口が話しているのが印象的である。

 山上はそういえばそんなこと言ったなというくらいの遠い記憶なようでどうにか思い出して返事をして山口の口から出る言葉を待った。ゴクリという山上の立てた音が気になるくらいの静けさが緊張感を物語る。

「この事件は一人の人物によって計画的に実行されたものでした。犯人は予め返り血を浴びないようにそのためだけの服を買っていたんです。それを身に付けた犯人は被害者である内田角利ウチダスミトシさんを呼び、犯行に及んだというわけです。」

「返り血が浴びないように、ということは角利からしたら相当不審に見えると思うんですけど……」

「不審に思われないくらい犯人と被害者は親密な関係を持っていたんです。」

「犯人はそんなに角利の近くにいたんですか?!誰なんですか?」

「そう、近くにいたからこそ出来た犯行だったんです。犯人が誰かは話を最後まで聞いてからお話ししますので、そう焦らずに。」

 この会話を機に二人の間の緊張感は更に高まった。それは事件の核心に迫っていく、ということにとても大きな意味があるからである。

「この事件が計画的であったというところまでは話しましたね。しかしながら凶器は計画性を垣間見ることができなかったんです。凶器は事件現場の周辺ではよく見られる石でした。我々警察か見つけたときには石の原型を留めておらず、細かい破片と化していました。それもそのはず犯人が自ら凶器の石を砕きました。捜査撹乱のため、とでも言うべきでしょう。」

「その石はどうやって砕かれたんですか。」

「やはり、気になりますか。それが驚くべきことに山上さんの勤める会社所有のハンマーによってでした。」

「それは盗まれたということですか。」

恐る恐る熱湯に手を入れて温度を確かめているかのようなゆっくりとした動きを連想させるトーンで山上は聞いた。

「いいえ、そういうわけではなかったんです。被害者本人が借りたものだったのです。正確には内田さんが借りたになっていたんです。」

少し納得したような、それでもまだ完全には落とし込めていないような表情を山上は見せたが、山口の話は続いた。

「ただの推測に過ぎないですが犯人は現場付近に置いてある良い大きさの石を持ち上げ、相当な勢いで内田さんの頭に叩いたのでしょう。頭蓋骨が陥没したわけではないですが、傷の深さや損傷具合からしてそう考えられます。怨恨、ということも考えられますが、計画性からして単なる怨恨ではないとほぼ言い切れます。」

「角利はその犯人から恨まれていたということではないんですか。」

「怨恨ではないと申し上げましたが、まだ具体的な動機については犯人の口から聞けていないので分からないですが恨みがなかったということはないとは思います。殺すという行為自体が許されるわけではありませんが、何の理由もなく人を殺して行く愉快犯を私はとてもではなく許すことができないんですよ。こういう仕事をしているからこそ人の命の尊さに気付かされてそれを大事に出来ない人の考え方が理解できません。」

山口は“殺人”というものに対する彼の心にある熱い思いをひたすらに一人で熱くなって語ってしまった。すべてを話終えてからそれに気づいて顔を真っ赤にしている。

「すみません、勝手に一人で盛り上がってしまって。では、こんな卑劣な犯行をした犯人の正体についてお話しします。」

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