第8話 犯人

 ピーンポーンとチャイムがなった。山口が押したためである。山口の他に二人の刑事が同行しており、山口の後ろでひっそりと立っているのである。連行するための要員と考えて間違いはない。

 ここへ来るおよそ一時間ほど前に山口は管理官のもとへ行き、二人で話をした。山口がこの事件を解いたからである。

 それでも山口は管理感の意見を聞きたいという思いがあったし自分の推理の自信を高めるためにも管理官という審査を通るべきだと考えたのである。

 山口はここまでの捜査の経緯とその中での山口なりに考えたことを管理官に話をした。凶器の特定のために事件現場で押収された証拠品の中から細かい破片になった石を調べたことやアルファベットエイチの謎など順を追って管理官に説明をした。

 それを聞いていた管理官は時折相槌を打ったり疑問が湧いたところやこれはこうなのではと思ったことを指摘したりしながら山口の推理を確実な一本線にするべく二人の間で討論に近いものが行われた。

 遺体が発見されたときから見つかっていた被害者の血液が付着したハンマーについては山口ではなく管理官がその情報を持っていた。

 被害者である内田が勤めていた会社では幾つか会社所有の工具があって必要に応じて社員に貸し出すなどしていた。その会社の工具のハンマーを内田が一ヶ月ほど前から借りたが、未だ帰ってきていないとのことで行方不明の状態になっていた。その中で事件が起こってハンマーが現場にあったということで担当の人に確認してもらった結果、会社のハンマーであった。

 山口はこの話を聞いてハンマーがどこから来たのかが分かり、何のために持ち出されていたのかの道筋までもが手に取るように分かった。実際、管理官も考えていることは同じで二人の中での意見の合致が起こっていた。

 管理官は山口の推理に異議申し立てる部分が微塵もないと判断し、犯人の家のもとへと送り出した。

 ピーンポーンというチャイムに反応して玄関の扉が開いた。山口が押したとは気付いていないようで身構えず、ラフな感じで出てきた。そこには内田の同僚、山上景汰の姿があった。

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