第7話 ハンマーとエイチ
明朝、防犯カメラの動画の解析を依頼していた科捜研の研究員から動画の解析が終わったという連絡が入った。
山口がその動画内の人物の顔を見るとそれが誰なのか判別が付かなかった。何故ならその人物の顔には鼻や口を隠すようなマスクではなく顔のすべてを覆うようなマスクがあったからである。しかもよく判別しないと人の顔のように見えるような色合いや形をしているために山口が動画をただ見ただけでは人の顔と思ってしまうのである。
山口はこの事実の報告を管理官にし、凶器の特定とダイイング・メッセージとも思われるアルファベットのエイチの謎を解くのに力を入れることとなった。それを解くことが犯人の特定に繋がるからである。
既に被害者の血液が付着したハンマーは被害者の損傷の痕と一致しなかったと山口が一人で捜査している間の捜査会議で話されていたらしい。
山口が疑問に思うのは被害者の血液が付着していながら凶器ではないということである。事件現場とは関係ないところにあれば他のところで何らの怪我で付着したのかなとも考えられなくはないが、現場にあるということは事件との関連はあるしか考えられないのだ。
まずは被害者の損傷の痕を見て考えてみようと鑑識に行って資料を見せて貰った。見た限りでは鋭利な部分があったり少し凹凸があったり一定のものとは言いがたいような形をしていた。これを特定するということの難しさがよく分かる痕だ。傷痕を見る限りでは事件現場にあったハンマーの用途となりうるものはなさそうだ。
ハンマーの疑問は山口の中では大きなターニングポイントになるものだと思っていたので他の何よりも優先して考えなくてはならないと思っていた。
事件現場の状況から何か分かるのではないかと思った山口は捜査資料にある現場の写真を細かいところまで観察した。写真を見ていて遺体の周りに石と思われる細かな破片があったことを思い出した。事件現場ではそこまで気に止めていなかったが、今は少しの情報でも歯車を回すのに必要なのである。
その石について知るために山口は警察で保管しているかどうかを確認することにした。もし保管されているのならばその石を解析し、それをヒントとして用いることも可能なのではないかということだ。
証拠となりうるものはそれ用の部屋に事件ごとに一つの箱で保管されている。そこに例の石があれば少しの手掛かりが見出だせたということになる。
本来ならば捜査会議等で何があるかを知る機会があるが、山口は管理官の許可のもと捜査をしていてあまり会議に出席できていないのである。
箱の上部に証拠品のリストがあってそれを上から見ていくと山口が探し求めているものらしいものの名前が書いてあった。これで何か掴めるかも、山口は少しだけ期待を膨らませた。
箱の中にあるその石の実物を見てみると現場で見たときは夜だったので暗くてよく見えていなかったが赤みがかった部分があるようでただの石というわけでもないようだ。また同じ赤っぽい部分でも濃薄があった。事件から時間が経っているとはいえ、さすがに濃薄がここまで出るということはないだろう。
この赤っぽい部分については解析が行われているだろうと思った山口はその確認のために再度鑑識に顔を見せた。
話を聞いてみるとその石については調べてはいて赤いところは被害者の血液であることまでは分かっているがそれが飛び散って広がったものなのかとかそういうところは分からないという。石が細かすぎて色々な可能性が捨てられないのである。
山口は鑑識からの話を聞いてニコッと笑った。悪戯っ子が悪戯に成功してニコニコしているのと同じような顔をしている。
知る人、例えば管理官などは知っているが山口は答えが分かると悪戯っぽく笑うのである。周りからはそれを見せたらあとは彼のステージだから手をあまり出さない方が良いとまで言われるほどである。
山口の中では凶器については解決したようなものだった。強いて言うならばダイイング・メッセージが解けていないというくらいだった。
この日の仕事を終えて家で山口がテレビを見ていると放射線の特集みたいなものをやっていてα線やβ線、γ線などの違いなどを細かく説明していた。放射線の怖さみたいなものを伝えようとしているのだろう。その番組を観終えたときには山口の表情に笑みが見られた。
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