第56話 判断
天文二十年(一五五一年) 七月 但馬国七美郡城山城 雪村源兵衛清蔵
太田垣土佐守と八木但馬守の兵が我らを囲んでいる。その数は三百。そう多くはない。さらに土佐守と但馬守は出陣していないようだ。南に備えているのだろうか。
いや、違うな。単純に兵の損耗を嫌ったのだろう。八木家は家中がまとまっていない。太田垣はそんな八木のために働きたくない、自分だけ損をしたくないというところだろう。
忠義者の太田垣のことである。山名右衛門督のため、一所懸命の働きは見せたいはずであるが果たして。今の所は攻め込んで来る様子が伺えない。
「如何でござろう」
「全くですな」
南条勘兵衛殿が状況を伺いにこちらにやって来る。しかし、やって来られたところで状況が一変するわけではない。敵方は動かず、ただこちらを囲んでいるだけだ。
「芦屋城の様子は?」
「蒲殿衆の知らせだと囲まれてはいるが落ちる気配はないと」
それを聞いて勘兵衛殿が考え込んでしまった。そう、この状況を打破するかしないかで頭を悩ませているのだ。敵方は三百、味方は二百五十。十分に戦える戦力差だ。
ただ、無理して攻める必要があるのかというと疑問が残ってしまう。こちらは農兵が中心だ。被害を被れば石高に大きく影響してしまう。
芦屋城が窮地に陥っていないのであれば無理して打破する必要もない。そう思うのだが、果たしてそれで良いものか疑問が残る。
「ふむ。一度打って出てみるか?」
「それこそ敵の狙いかもしれませぬ。もう暫く様子を伺うとしましょう」
某が考えなければならないのは第一に城山城の防衛、そして次に農民兵の被害を抑制することだ。殿のことは信じている。治郎左衛門殿が居ればそうそう落ちることもあるまい。
◇ ◇ ◇
数日もの間、ただただ睨み合いだけが続いた。だんだんと農民兵も弛んで来ている。やはり籠城に慣れていないと精神がすり減るのだろう。
如何するか。そう考えているところ、一人の使番がこちらに走って向かって来た。敵方に何かの動きがあったのだろう。
「御注進! 敵方、撤退する準備に移っておりまする!!」
撤退だと。芦屋城で何か動きがあったか。急ぎ勘兵衛殿と今後の対応を練る必要がある。決めるのは追撃するかしないか。その後の動きをどうするかである。
「源兵衛殿! お聞きしましたぞ。如何なされる?」
「おお、勘兵衛殿。今から伺おうと思っていたところにござる。撤退の件ですな。追撃は必須でしょう」
問題はその後の動きだ。撤退した部隊が芦屋城へ援軍として駆けつけられるのは不味い。それであれば追撃も苛烈なものになるだろう。敵方は撤収か、それとも芦屋城か。
「源兵衛様、御注進です。尼子式部少輔様が因幡へ侵攻。山名右衛門督が撤退を開始し、因幡へ後詰めに向かっております」
「あいわかった」
やって来たのは与助だ。確か弥右衛門殿の元で励んでいる男だったはず。しかし、そうか。尼子が動いたか。それであれば退却も納得がいくというもの。
「源兵衛殿、ここは打って出るべきであろう」
「そうですな。勘兵衛殿、兵を五十ほど率いて追撃いただきたい。深追いは無用に。その後、我らは養父郡に向かいましょう」
「承知仕った」
城山城をなんとか守りきることができた。将兵にも被害は出ていない。なんとか使命を果たすことはできた。ほっと胸を撫で下ろす。ただ、戦自体が終わったわけではない。ここで我が方の優位を固めなければ。
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