第54話 反省
天文二十年(一五五一年) 七月 但馬国二方郡芦屋城 塩冶 彦五郎
日本之介との話し合いが終わり、俺は城内の物資を確認していた。籠城していたのだ。どれだけ物資が減っているか確認して損はないだろう。
後は籠城してみて浮き彫りになった問題点を確認して洗い出す。今回は数週間の籠城で済んだものの、数ヶ月単位で籠城しなければならない場合も出てくるだろう。その時に困らないようにしなければ。
城の防備は戻ってきた五郎左衛門に一任する。もう芦屋に攻め込んできたりしないだろうが。撤退が偽装でこちらを欺く策であれば大したものだ。
後は城山城の様子も伺っておきたい。源兵衛と勘兵衛であれば大丈夫だろうが念のためだ。俺自身が動くのは止められるだろうから、頼める人物といえば。
「弥右衛門」
「はっ」
「済まぬが城山城まで一走り願えるか? 源兵衛と勘兵衛の様子を伺ってもらいたいのだ。無事であるならば一休みしてゆるりと戻って来てくれ」
「かしこまった」
これが済んだら配下の無事は確認が取れることになる。後はどれほどの損害が出たかだな。死亡兵や負傷兵の数とその慰謝料。それに田畑が荒らされたかどうかである。
おそらく田畑は荒らされておらんはずだ。山名右衛門督は勝ち戦だと信じて疑っていなかったはず。それであれば田畑は荒らさない方が得策なのだ。
なぜならば二方郡と七美郡の領民、すなわち百姓を敵に回さなくて済む。統治がしやすくなるのだ。青田刈りをしては税収も減ってしまう。勝ち戦なのに自ら税を減らす馬鹿がどこにいるのだろうか。
となれば気にかけるのは兵の死傷だ。今回はイェニチェリもどきが三百。農民兵が二百。常備していた兵が百。日本之介が連れて来た兵が五十だったな。
日本之介の兵は無事だ。となれば残りだな。イェニチェリもどきは奴隷兵だから慰謝料は必要ないとして、農民兵が減るのは痛いな。この辺り、源兵衛であれば配慮してくれているはずだ。
常備兵はおそらく損耗してるだろう。おそらく五十貫は用意しておかねばならんな。俺の金子からしても良いが、こちらには伊秩大和守が居る。山名右衛門督に黄金十五枚で返してやるとするか。
暴利だとは思うが、この条件は飲まざるを得まい。もし、飲めないのであれば配下の将をみすみす見捨てたことになる。それでは他のものに示しがつかないだろう。
いや、大事な銭を伊秩大和守一人のために使うことの方が反発が大きいか。どちらにしても山名右衛門督から将兵の心は離れるだろう。
後は停戦だな。今年の九月から一年間ほど停戦する約定を結ぼう。一年も時間があれば戦力を整えられるはずだ。常備の兵数を六百に伸ばしたい。本来であれば三万石の兵数だが、足りない部分は金で補う。
まあ、そんなところだな。物資も概ね大丈夫そうであったが、矢の減りが早い。籠城中は補給が出来ないからな。もっと多めに用意しておいた方が良いだろう。まだまだ詰めが甘かったな。
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