第18話 食事

天文十七年(一五四八年) 十月 但馬国二方郡芦屋城


 この二ヶ月、俺は部屋に籠りきりであった。と言うのも、村同士の諍いや湊の整備など事務仕事が立て続けに舞い込んできたせいである。


 領主自身が行わなくても良いのだが、如何せん人手が足りぬ。それに領内の把握もしたかったので俺がやることは一石二鳥よ。


 そうそう。あの後、すぐに四郎兵衛が奴隷を送り込んできた。九歳から十三歳までの少年が二百に少女ら百。合わせてきっちり三百名だ。


 四郎兵衛曰く、今はどこも戦が続き奴隷は二束三文で売られ海外にまで売り飛ばされているようで、すんなり用意できたのだとか。


 大きな要因は三好筑前守が主君の細川氏に反旗を翻したのが大きいだろう。これで畿内は大荒れとなっている。果たしていつまで続くのだろうか。


 男どもは即座に弥太郎が鍛え始めた。この弥太郎という男、齢は源兵衛と同年代である。ただ、源兵衛が文と武のバランスが取れた男であるのに対し、武に全てを注ぎ込んだような男である。


 その男がみっちりと鍛え上げるのだ。彼らは一流とまではいかなくても一廉の武人には成れるだろう。ただ、問題は彼らの士気の低さだ。


 奴隷に対し、士気を高く持てと言うのも無理な話である。そのことは重々承知しているのだが、当面は塩冶家の中核を担う組織になるのだ。何とかして士気を上げ、ついでにその負け犬のような根性も脱させなければ。


 そこでまずは規則を定めた。信賞必罰である。良いことをすれば褒美を与え、悪いことをすれば罰を与える。それから十分な食事だ。


 彼らはまだ若く、成長期の真っ最中だ。十分に栄養のある食事を食べさせなければならない。ああ、その献立も考えてやらんとな。栄養学なんてまだこの世に存在してない。


 そして女子たちは椎茸栽培を手伝わせよう。菌の栽培は俺が行う。これは門外不出の技として胸の内にしまっておくのだ。そして、この菌……まあ、加護を受けた駒とでも呼ぼうか、これを木に打ち込んで日陰で育成させる。


 そして収穫したものを乾燥させて納めさせる。うん、これで完璧だな。量産ができればある程度の資金源になる。そうなれば軍備を拡張することも可能だ。ま、当面は彼らのご飯代に消えるのだが。


「殿、今少しご相談が」


 そう言って俺の傍に控えたのは木陰弥右衛門である。俺は献立を考えている最中だ。顔を上げずに声だけで反応する。そうだな。粟と稗の混ざった玄米。それに大根と豆と菜物の味噌汁だ。


 むぅ、味噌が足りんな。作らせるか。栄養価的に味噌と豆は外せん。貴重なタンパク質だ。肉か魚があれば良いんだが、そう簡単には手に入らんな。湊があるというのに。ただ、味噌も高いんだよな。


「なんだ?」

「男十名、女十名を我らの方で引き取りたく」

「ああ、そうか。蒲殿衆も人が足りんのだったな」

「申し訳ござらぬ」

「別に責めてはおらん。構わんぞ、引き抜け。いや、そうだな。少し耳を貸せ」

「はっ」

「良いか。引き抜くときにだな――」

「なるほど。承知仕った」


 これが上手くいけば奴隷たちは悪さをしなくなる、はずである。彼らには俺に忠誠を誓ってもらわなければならぬ。洗脳とまではいかなくても、一向一揆衆にも負けぬ忠誠を示して欲しいのだ。

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