第4話 栽培
天文十六年(一五四七年) 十月 但馬国二方郡芦屋城 塩冶彦五郎
この一ヶ月。俺は椎茸の栽培法を編み出すための研究に精を出していた。俺が知っている椎茸の知識はせいぜい菌類で多湿の環境を好み、木に生えるという具合だ。要は椎茸の菌を繁殖させて丸太に付着させれば良い訳だろう?
椎茸が菌類であるということを知っているのはこの国、いやこの世界を見渡しても今は俺だけだろう。生物の生態を理解できているのは転生者である特権であり優越だ。
ただ、そこからが苦難の連続だった。当たり前だが、まず椎茸そのものを確保しなければならない。偶然にも本拠である芦屋の山にも生えていたので、それを採取してきた。
しかし、それが間違いであった。採取してしまったら椎茸が成長しなくなる。となると、椎茸の傘が開かなくなってしまうのだ。するとどうなるか。胞子を飛ばすまでに至らなくなってしまうのだ。
必要なのは胞子だ。それを培養し、成長させて繁殖させる訳なのだから。そしてその胞子なのだが、最初は真っ白なカビかと思ったよ。それこそが胞子だったわけだけども。
後は胞子を増やして付着させるだけだ。椎茸が生えていた木と同じ種類の木、ブナの木を円柱型の駒にして菌を定着させる。理論的にはそれで栽培できるはずだ。
そしてそれをブナの原木に打ち込んで温度と湿度の管理さえ出来れば椎茸が生えてくるはずである。問題はその温度と湿度の管理だな。これから冬に向かうのだ。温度も湿度も適さなくなる一方である。
俺が頭を抱えているとドスドスと廊下を踏みしめる音が響いてきた。どうやら誰かが忙しなく歩いているようだ。いや、複数人が歩いているな。
籠もっていた部屋から顔を出し、覚えのある顔が居ないか探す。すると、ちょうど源兵衛と目があった。ニヤリと笑ってから手招きをして源兵衛を呼び出す。はぁと溜息を吐いてからこちらに寄ってきた。
「何をしているのだ?」
「取り立ててきた税を確認しているのでございます」
税か! 確かにそれは重要なことである。確か二方郡は八千石に満たない身代だったはずだ。土地はそこそこ広いのだが肝心な平野が少ない。であれば耕作は期待できそうもない。つまり税が厳しいことが予想される。
「今年の税はどうであった?」
「良くありません。寒さが続き例年よりも実りが悪かったようで」
そういえば戦国時代は小氷河期であったと何かで読んだ記憶がある。それが影響しているのだろうか。そして税は六公四民となっているようだ。お世辞にも良いとは言えない。
お陰で養父殿がご機嫌が斜めだ。溜息ばかり吐いている。しかし、こればっかりはどうすることも出来ん。早急に金の成る木を見つける必要が出てきたな。いよいよ椎茸栽培が失敗出来なくなってきたぞ。
とりあえず、この菌床は自室でこっそりと栽培しておこう。そして冬の間に菌を付着させるのは自制する。それよりも情報収集に励むのだ。
山名家のこと。但馬国のこと。京のこと。畿内のこと。挙げればきりがない。そうなるともっと手の者が欲しいな。特に忍びとか。少し誰かに探りを入れてみるか。
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