魔法薬学という二流

 はっきり言おう、俺は自分のことを天才だと思っている。


 別に自惚れだとかナルシストだとかと言ってもらっても構わない。事実俺でもそうだろうと思う節があるなにせ今まで俺は負けたことがなかった。それはスポーツや魔法術などと言った派手な様なものではない。

 魔法薬学。つまりはポーション制作のことだ。

 今までの授業だけでも他と比べれば一番いい成績を残したきた。ポーション制作を習える数少ない場所で、俺はトップを取り続けた。

 多くの人は、「ポーションなんざ、レシピ通りに作れば誰にだって出来るだろ」「天才だと言うのなら新しいポーションを作ってみろ」なんて言うだろう。

 

 だがそんな甘いものじゃないんだ。


 レシピ通りに作れば上手くいく。確かにそこは言う通りなのかも知れない。だがポーションというのは作るところで終わりの分野ではない。例えば、作り方を知っているやつに、「なぜこうしたら回復の効果が生まれるのか」と聞かれて答えられるヤツが何人いるだろうか。

 専門書を読めばこれも載っていることだ。しかし俺はこれを前知識なしでズバリと答えることができた。これを才能と言わずしてなんと呼ぶ。だから俺は高等学校では薬学の授業を選んだ。才能があったからという理由もあるが、単純に作ることも好きであったから後悔はなかった。

 だがここで俺はある挫折を味わうことになった。それはテストで負けたからではない。初のテストの成績は当然一位だった。なら何を挫折したのか。分野だ。ジャンルそのもので挫折を味わった。

 どういう意味か簡単に説明せると、魔法薬学は、戦闘術や魔法術のように必ず必要じゃない。どんなに魔法薬学でトップを取っても、社会が必要とするのは戦闘で十位以下の連中だと言うことだ。

 回復魔法を使えれば回復薬などわざわざ買わない。強化魔法を使えれば筋肉増量の薬はいらない。いや、鍛えいればそもそも強化魔法すら要らないのだ。

 つまり俺のやってることは一流のものではなく、二流。あってもなくてもどっちでも良いものだと叩きつけられたのだ。

 自分の誇りだったものをそのように評価付けられた。しょせん薬学などをどんなに勉強しても、少し剣が使えるというだけのヤツより下としてみられるのだ。努力などではどうにもならない、社会意思そのものが最初の挫折だった。


 だがこれは最後の挫折でもあった。


 あれは今でも覚えている。最初の挫折を味わってから二週間後、ふと街を歩いていると途中にあった寂れた空き地で一人、練習用の槍を持った男がいたのだ。遠くから眺めていると、ソイツが圧倒的に扱いが下手であることが素人の俺でもわかった。

 何度も落とすし、突く時に反対側の方を押しだしていたりと。あんなのを演習でやったらボロクソ言われるに違いない。

 ちょうどやることもなかったので、しばらく見ていたのだが、ソイツは俺に一切気づいていなかった。これじゃあ実戦だとすぐに後ろから襲われて死ぬなとバカにした。

 ささっと何処かへ行けば良かったのに、俺はその下手くそな槍の練習から目が話せなくなっていた。

 何でかはしばらく分からなかったが、その男の顔がはっきりと見えたときに理由は分かった。清々しかった。まるでこの世の絶頂を味わっているかのように笑っていたのである。あんな腕で、他人から見られているのに笑っていたのである。俺だったら、近くで誰か見ていないか、見られたら恥ずかしいなんて思っただろうよ。だがそれが一切なかった。ただ純粋に楽しんでいたのだ。

 彼は腕はないが槍を扱うのが好きだった。しかしそれでは街の門一つ守ることができない。それを仕事にするのは無理だろう。なら俺は。薬を作るのは好きでさらには才能もある。 

 その場でこう思うと思わず大声で笑ってしまった。するとその声が向こうにまで聞こえたのだろう。振り向いてこっちを見てきたので目が合った。相手が少しはにかむように会釈をしたので、こっちも会釈をしてその場を去った。

 二流で結構。俺は魔法薬学、コイツが好きで学び続けるんだ。例え評価が薄くなろうが社会貢献性が低かろうが関係ない。

 一流の奴らと同じように。いやそれ以上の情熱を持ち、命を張ればいいだけだ。むしろ一流とは違い落ちぶれることはない。最初から一流に比べれば落ちぶれるているんだ。

 それ以降の俺の活躍は目覚ましものであった。高等学校では余裕の首席卒業。そのまま国立の大学校に入学し、研究の手伝いをしながら素材についての研究を並行。

 やがて研究を始めてから二年後に、俺は薬を入れる瓶によって効果の持続力に影響することを発見した。

 それがスゴいことなのかと、薬を作れないヤツは声を揃えて言う。だってそうさ、これほどまでの地味な発見があるかよ。

 だがこれでいい、これだから俺はとても嬉しかった。自分にしか分からないスゴさを知った時の優越感足るや、言葉には出来なかった。

 俺はこのままずっと二流として生き続けるだろう。それこそが俺にとって最高の生き方だと確信した。

 地味で陰気だが、ここにある驚異の快感を得る。そのためなら騎士道にすら負けぬほど命を張れる自信がある。

 最後にもう一度言おう、俺は自分を天才だと思っている。自惚れだ、ナルシストだと言ってくれた構わない。俺は魔法薬学の二流であることを、永遠の誇りとして生き続けるであろう!


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