第129話 連携の力

『マスター、後ろです』


「ああっ!」


6人が連携を取るようになって数分が経った。6人の強さは個々で戦った時のを合わせたのよりも遥かに高くなっていた。

俺はナービの指示通り、後ろからやってきたモクヨの魔法を双剣にした左手に持っているカグロで斬って魔力を吸収して魔法を消した。


「サンダーバーン!!」


「おっとっ!」


魔法を消して、すぐにモクヨに向かって放った雷の塊はニオンの大剣によって受け止められた。ただ、そこそこの至近距離で俺の魔法を受け止めたニオンは魔法で数m後ろに下がった。



「炎鳥!」


「風魚!」


ニオンが下がった間に真上からトウリとカナンが上から広範囲の魔法を放ってきた。炎の大きな鳥の周りに纏わり付くように風の魚の群れが居ることで、2つの魔法は合わさり、巨大な魔法となった。


「ちっ!」


双剣では魔法を斬り消すのは難しいと判断し、カグロを大剣に変更して、下から振り上げた。しかし、振り上げた瞬間にブラッドが俺の前に転移してやって来た。


「おい、俺が魔法を消せなかったら、魔法を食らうぞ?」


「覇王様なら絶対に消すのじゃ!」


この信頼が今回に限っては逆にきつい。俺が剣を振り上げた瞬間に懐に入って鎌を振ってきたのを考えると、本当に疑っていないようだな。

逆をついて転移で逃げようかとも思ったが、それはできなかった。


『ブラッドに影を踏まれたことで移動が遮られています。それを突破することはできますが、これらが当たる前には不可能でしょう』


『了解』


ブラッドに影を踏まれると移動を遮られてしまうようだ。魔王というスキルで魔法が統合されたせいで、何の魔法があるか分からないのは敵となると面倒だな。

もう玄武術の盾は無いので、このままでは魔法か鎌のどちらかは当たってしまう。神速多重思考でどうしようかを考えて、2つを防ぐ方法を思い付いた。



「結晶部分魔法化」


俺は上からの魔法は右腕で振り上げた大剣で斬り、ブラッドの鎌は結晶魔法で魔法化を行った左腕で受け止めた。

この他にも縮地で逃げるなどの選択肢があったが、1番安全そうだったこれを採用した。


「おお!!」


魔法が消えた瞬間にドランが右側から殴りかかってきたので、右手で振り上げた大剣を逆手に持ち替えて、刀身を下にすることで受け止めた。


「おらっ!!」


ガンッ!といい音が鳴って受け止めた右手がほんの少し痺れているが、そんなのはお構い無しに両腕に力を入れ、ブラッドとドランを弾いた。

その時に少し左腕に痛みを感じたので、弾いた時にブラッドに軽く斬られたかもしれない。



『マスター、この程度だとあまり舐められてもいけません。そろそろ真面目にやって勝ちに行きましょう』


『了解。サポートお願い』


ナービからの司令が出た。なので、そろそろ倒す気で行くことにした。



「雷雪斬!」


「ぐおっ!!」


手始めに、近寄って来ているニオンに雷雪魔法を付与した斬撃を放った。それをしっかり大剣で受け止めたニオンだったが、大剣は持っている手も一緒に氷り、大剣を通して雷が全身に流れたようで膝をついた。

ニオンが膝をついて動けなくなったことで、モクヨまでの射線が空いた。そこへもう一度大剣を振る素振りを見せた。


「待つのじゃ!」


「いらっしゃい」


俺の目的にブラッドは気が付いたが、少し遅かった。俺の行動を阻止しようと、俺の後ろからドランとカナンがやってきていた。俺はちょうど設置が完了した背中に張りつけるように作った魔法陣から魔法を放った。


「コキュートス」


「がっ…」


「あっ…」


2人が氷に包まれた。やはり、魔法陣から放たれる魔法の威力は桁違いだ。


「火大樹!」


モクヨが火に包まれた巨大な樹木を生やした。そこから落ちてくる葉っぱ一つ一つにかなりの魔力が込められて燃えている。1枚でも当たったら俺の魔防でも火傷だろう。


『マスター!』


「んぐっ!!」


いきなり大剣のカグロの刀身が伸びて、俺を突き刺そうとしてきた。俺は慌てて投げるようにカグロを遠ざけた。避けきれなかったのか、頬に軽い切り傷ができた。



『…やっと乗り移れた』


「レイカか…」


今のは急にカグロが俺のことを嫌いになったからという訳ではなく、カグロにレイカが乗り移ったからの行動のようだ。



『どうやら、マスターに乗り移るのは無理だったようですね』


ナービ曰く、恐らくレイカは俺に乗り移るのが無理で、カグロに乗り移ったらしい。俺の中にはナービという最強の防衛がいたせいで乗り移られることはなかったそうだ。そこで白羽の矢が立ったのがカグロだったということか。


『乗り移られてもスキルが生きているのが厄介ですね』


『ああ…』


カグロのスキルは作動しているので、カグロは俺から20m離れらない。また、俺はカグロ以外の武器は使えない。


「転移」


まずはカグロから離れ過ぎず、モクヨの魔法の影響が出ない場所に転移した。

カグロから離れ過ぎないように注意したのは、カグロから20m離れると、転移で俺の元にカグロが勝手にやってきてしまうからな。


『ナービ、どうしようか?』


『武器が無くなり、刃物が無く白虎術が使えなくなっただけです。先程と同じように変わらず普通に戦えば勝てます』


ナービのその自信が凄い。そして、ナービにそこまで言われたら不甲斐ない姿は見せられないと思ってしまう。相変わらず、ナービは俺を乗せるのが上手い。


「じゃあまずは…」


俺は天走と縮地で宙を高速で走って移動した。


「まずは先に片付けさせてもらうよっ!」


「がはっ!」


俺はまだ満足に動けていないニオンの元まで行って顔面を蹴り飛ばした。これでタンク役が居なくなった。


「そこで纏まるのね」


しかし、その間にモクヨの生やした樹木の元へブラッドとレイカインカグロとトウリが集まっていた。

偶然だが、残ったのは女の4人で倒れたのは男の3人だ。本当にこれは狙ってはいない。

あ、ちなみに、もう樹木から火の葉は落ちてきていない。ただ、まだ葉はあるので、何時でも落とせはするだろう。



「ちょっ!おいおい!」


俺が驚いたのはカグロをブラッドが手に取ったからだ。そして、ブラッドは2本の鎌を持ちながら俺に向かってきた。



「ふっ!」


ブラッドがカグロを振った。まだ俺まで距離があるからその行動は意味が無いはずだった。


『マスター、横に飛んでください』


「おっ!」


俺が横に飛ぶと、その横に何かが通り過ぎた。魔力感知もできないそれは陽炎のようにモヤモヤとしているだけで何かは分からない。


「今のは風霊魔法でしょう。まさか、目にも見えず、感知もできないとは思いませんでした」


俺の龍眼と魔眼を持ってやっと陽炎のように見えるだけで、普通だったら何も見えないそうだ。

ちなみに、眼にも捉えられず、感知もできない分、威力は控え目で速度も遅いのようだ。ナービが慌てた様子もなく回避を促したのはそのためだ。



「と言うか、カグロに憑依してもレイカの魔法は使えるのかよ」


レイカはカグロの中に居ても普通に魔法を使えるようだ。これはかなり厄介だ…な?


「ん??」


俺はブラッドから距離を取りつつ何か違和感を感じた。そして、すぐにその違和感の正体に気が付いた。



「あっ!ブラッドがカグロ持ってんじゃん!」


カグロの所有者固定というスキルは俺とカグロの両方を縛るスキルだ。俺はカグロを使えず、カグロは俺しか持てないというスキルのはずだ。それなのに、カグロをブラッドは持っている。


『…所有者固定はカグロの意思が強く働いて取得したスキルのため、カグロの意識がない今作動してないのかと』


『なるほど』


ナービですらはっきり答えが出ないこの謎現象だが、これは不幸中の幸いだ。

俺の手に入れた武器は全てカグロに喰わせていたが、1つだけ持っている武器がある。


「来い!」


俺は本来必要のない掛け声を出して、白虎の愛刀という名の太刀を取り出した。

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