第128話 アピール

「覇王様、準備は終わりましたか?」


「ああ」


鎌状態のカグロを手に握った俺の前にモクヨ達7人が勢揃いした状態でモクヨがそう聞いてきた。俺はそもそも準備するものが少ないから問題ない。と言うよりも、準備するものがない。生活魔法で綺麗にしているSSSランクの衣類を常に着用しているし、武器は俺から離れられないカグロだ。

しかし、魔族側の数名はそうでは無い。特にニオンとドランの2人は全身に鎧を纏う重装備をしている。これは準備にそれなりに時間がかかるだろう。

ちなみに、他の魔族は割と動きやすそうな軽装だ。



「では、模擬戦開始じゃ!」


ブラッドがそう宣言すると、魔族達はすぐに動き出して陣形を取り始めた。



『前とは比較にならないほど洗練されてますね』


「ああ…」


重装備のニオンとドランの2人が前に出て、その後ろにブラッドがいる。そのブラッドの上の宙にいるのがトウリとカナンで、モクヨはその3人の後ろにいる。そして、レイカの姿は見えなくなった。



『ナービでもレイカの居場所は分からない?』


『分かりません。何らかの攻撃をするまでは分からないでしょう』


『厄介だな』


正直、レイカはこれから何もしなくても役立つことができる。いや、下手に何かするよりは何もしない方が役立つほどだ。

俺は姿の見えないレイカのことを常に警戒しなければならない。それだけで俺の注意の1部を割くことが可能なのだ。



『俺から行くしかないかな?』


『睨み合い勝負をしたいなら行かなくても良いでしょう』


ブラッド達は陣形を組んでから動く気配がない。このままずっと待ってたらさすがに動くだろうが、この模擬戦は7人の実力の確認も兼ねているので、俺から動かないとな。それに、睨み合い勝負をする趣味もないからな。



「限界突破、極限突破、身体属性強化・龍魔法、覇気」


油断していると危なそうなので、最初から強化は惜しみなくやっておく。瘴気に関しては装備とかを破壊してしまう恐れがあるからやめておく。まあ、多少壊れても修復のスキルで直すことはできるけど、万が一粉々になってしまった時に直せるか分からないから念の為だ。



(転移)


俺はそう心の中で唱えて、転移をした。敵の陣形のど真ん中に。


「はっ!」


重装備のニオンとドランの後ろかつ、ブラッド達の前に転移した俺は大鎌を振った。



「くっ…!覇王様ならそう来るかもと警戒はしてたのじゃ…!」


しかし、俺が振り回した鎌は誰かを斬る前にブラッドの大鎌にに止められた。ナービにさすがに安直な行動だと軽くお叱りを受けてしまった。

それにしても、さっきまでブラッドは大鎌を持っていなかった気がする。考えられるのはどこからか出したのか、サイズ変更の効果があるかのどちらかだろう。



「オラッ!!!」


「はっ!」


ブラッドは俺の鎌を受け止めると、すぐに引いた。すると、その次はニオンが2mはある大剣を上から振り下ろしてきた。俺はそれを振り上げた鎌で受け止めた。


「重いな…」


さすがに大剣よりもやや大きいニオンが上から体重を乗せて振り下ろしてきた大剣は重かった。俺の手にズシッという重さが伝わってきた。



『マスター、問題ないです』


『ありがとう』


ニオンの攻撃を受け止めたタイミングで、俺の背の方にいるモクヨが地面から尖った根を出して俺に勢いよく向かわせて来ていた。それを防ごうとしたが、ナービのサポートにより、その必要はなくなった。


「え…?」


そんな声はモクヨから漏れた。その声の理由は自分の魔法が急に現れた土の壁によって防がれたからだ。


『ちょっと使いにくくはあるけど、玄武術は便利だね』


『そうですね』


俺が今使ったのは玄武から奪った玄武術だ。これは玄武が使っていた自動の盾を出せるスキルだ。


『まさか、自動盾を出せる条件が自身の魔力を浸透させたものだとは思いませんでした』


この玄武術で自動盾の対象として出せるのは俺の魔力を流した物体だけだった。この物体というのは別に自身の魔法で出した物なら火や水などでも問題ないようだ。ちなみに、風や光のようにその場に留まっていないものを活用するのは難しい。


今回は俺の足元の訓練所の土でやってみたが、モクヨの魔法を防いでもまだ余力はありそうだ。どうやら、その防御力はスキルレベルとその浸透させた魔力量で決まるみたいだ。つまり、魔法で生み出した岩や氷の場合はそれを生み出した魔力によって作用されるのだ。

ちなみに、今回はモクヨの根で使われた魔力の10分の1以下程度しか使っていない。かなり防御効率は良さそうだ。



『また、有効範囲がまだ広くないのはマイナスポイントですね』


「はっ!」


「お…おおっ!」


その魔力を込めた物体や魔法で生み出した物が盾となる距離は今の時点で4m以内だ。これからスキルレベルが上がることでもっと広くなることを願おう。

なんてナービと会話しながら、俺はニオンの大剣を弾き返した。大剣を持ったままバンザイのような体勢になって隙だらけになったニオンの追撃はしなかった。


「ふっ!」


「ふんっ!」


その理由は横からドランが殴って来たからだ。俺は瞬時にカグロをガントレットにして拳に拳をぶつけた。


「うっ…」


その結果、ドランの重装備の拳の部分には大きなヒビが入った。そして、ドランも痛そうな顔をしている。その隙にドランを蹴って吹っ飛ばしておいた。その蹴りは拳をぶつけた腕ではないもう片腕でしっかりガードされてしまったし、自分から後ろに飛んで衝撃も減らされてしまった。



『上です』


『了解!』


俺はガンドレッドを棍棒に変えて、真上から急降下してきたタイミングを合わせて振った。


「えっ!」


しかし、急降下していたトウリは棍棒の射程の10cmほど手前でピタッ!と静止した。そして、俺の棍棒が目の前を通り過ぎてから再び向かってきた。

転移で逃げてもいいが、何かしてやられた感が悔しかったので、棍棒を鉄パイプのように細く、また軽くして、振り直した。


「ピッ!」


トウリは俺に触れる前にカグロパイプに当たって飛んで行った。振り直すのを優先し過ぎて軽過ぎたので、あまりダメージはないだろう。



「ん?」


魔力を感じて振り返ると、俺の盾が何個も現れ、それらはカナンの小魚サイズの無数の魔法を受け止めていた。


「あ、やべ!」


俺はすぐに横に回避行動をとった。その理由は盾が突破されたからだ。

俺が回避している隙に魔族達は再び陣形を組み始めた。



『どうやらここからが本番のようですよね』


『どういうこと?』


俺はナービが何を言いたいのかが分からなかったから聞き返した。


『さっきの戦いは個々の力を分からってもらうためのアピールでしょう。まあ、きっと覇王であるマスターの力がまだ上か見るためという理由も兼ねていたでしょうが…。

現に、さっきのは形は陣形でしたが、連携はほぼしていませんでした』


確かにどちらかと言うと、交代交代で入れ代わり立ち代わりで1対1で戦っていたな。ナービに言われるまで気付きもしなかったな。



『さあ、来ますよ』


『おう』


今度は陣形を組んだまま6人が俺の方へ向かってきた。連携をするようになるとしたら、さっきよりも手強いのか。なかなか大変だな。

それよりも、未だに消えたままのレイカは一体どこにいるのだろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る