第130話 実力差
「ふっ!」
俺は白虎の愛刀の柄を握ると、後ろに勢いよく構えることで鞘から引き抜いた。すると、柄と同じく真っ白な刀身が出てきた。
「はっ!」
そして、まだここから距離があるブラッドを狙って白虎の愛刀…訳して虎刀を振って斬撃を放った。
「わっ!」
ブラッドは慌てて頭を下げると、斬撃が頭の上を通過し、壁に横線の穴を開けた。
『さすが白虎の使っていた刀ですね。斬撃を放つことに関してはカグロよりも優れています。マスターの白虎術のスキルレベルでは使いこなせないのが難点ですが』
『文字通り、宝の持ち腐れだな…』
さすが虎刀だ。カグロを同じような大きさの刀にした時よりも斬撃は大きく、強くなっていた。ただ、問題点はその大きさと強さを俺がコントロールできない点だ。今の感じだと常に最大威力しか出せない気がする。
「氷斬!」
ブラッド達が固まっている間に俺はモクヨが生み出した火の葉を落とす樹木に向かって氷魔法を付与した斬撃を放った。
『完全に魔法が斬撃に負けています』
『…だね』
今度の斬撃では、斬り口が少し凍っただけで、普通に斬撃の力のみで切断された。斬撃が強過ぎるせいで魔法が足を引っ張って、逆に斬撃の威力を弱めているくらいだ。それでもまだ斬撃はコントロールできないくらいに強いけど。
『斬撃はあんまり使わない方がいいな』
『斬撃を放つだけで勝てるでしょうが、死者を出したくないのなら多用しない方がいいでしょう』
この斬撃は俺の防御力を持ってしても切断できるくらいの威力はあるだろう。つまり、ブラッド達が食らっても簡単に切断してしまう。
白虎術は基本的に威力が高過ぎる。玄武術は防御だから攻撃には使えない。となると、使うのは決まってくる。
『ナービ』
『畏まりました。3分で大丈夫です』
俺の考えを読んだのか、要件を話す前に了承してくれた。俺はその3分を稼ぐために、まずはトウリの方に飛んで向かった。
「炎雷鳥!」
「はっ!」
トウリは慌てて魔法を放ってきたが、俺はそれを斬り消した。普段はカグロで吸収しているが、今回は白虎術で魔法を斬った。俺が魔法化した時に白虎に斬られたから白虎術で斬り消せるだろうと思っていたが、できてよかった。
「不死鳥化!」
トウリが黄金の炎になって、俺に向かってきた。斬ろうかとも思ったが、万が一殺してしまったら大変なので、それは却下した。
「溶岩化」
トウリは分類としては魔法化しているので、俺も魔法化で対応した。火には氷や水の方がいいかとも思ったが、普通に黄金の炎には負けて蒸発されてしまいそうだからやめた。
「あっつ!」
溶岩化した状態でトウリの首を左手で掴んだが、左手が火がついたように暑い。溶岩が燃やされているようだ。溶岩を燃やされるとは思わなかった。
俺は慌ててトウリを地面に向かって投げた。しかし、トウリすぐに体勢を立て直して俺に向かってきた。
転移でトウリから逃げようかと考えたが、モクヨが新しく魔法を準備しているし、ブラッドが自分の血を薄く地面に広げているので、地上に転移は危険だ。カグロで魔力を奪えないので、無駄に魔法を使い過ぎるのはまずいから、いたちごっこをするために空中への転移もダメだ。
「紅炎化」
火炎魔法の進化系である紅炎魔法による紅炎化を行った。
「はっ!」
「ぴっ!」
そして、向かってきたトウリの顔面を殴った。まだ左手は熱かったが、さっきの燃えるほどでは無い。
「ちょっ!」
トウリは殴られた勢いでそのまま地面に落ちていくかと思ったが、俺の足を鋭い鉤爪のような足で掴んで、翼で俺を包んで一緒に落ちようとしてきた。
「覇王様〜、一緒に落ちてくれませんか〜?」
「1人で落ちろ!」
俺は翼を跳ね除けると、ギュッと掴まれている脛付近から下を氷結化にした。すると、すぐに蒸発してその部分から下がなくなってトウリだけで下に落ちていった。
「いって…!」
トウリが1人で落ちていくのを確認して、魔法化を解除したが、脛から下は無かった。剣で斬られるのは体的には何ともないが、魔法での攻撃は別のようだ。
超高速再生ですぐに治っているからこんな無茶な方法を使えたのだ。
「樹林!」
「ん?」
空中で足が治るのを待っていると、モクヨの声が聞こえてきて、訓練所を取り囲むように樹木が生えてきた。その樹木の枝から花が咲いて、その花はトウリ、ニオン、ドランの方を向いた。
『完成しました』
モクヨがやろうとしているのは恐らく回復させる魔法だろうから、樹木を斬撃で切断しようかと思っていると、ナービからの声が聞こえてきた。その声と同時に訓練所の天井に巨大な青白い魔法陣が現れた。
「アブソリュートゼロ」
そして、俺はそこから魔術を放った。
「ふぅ…」
俺は魔術を放ち終えて、足も元通りになったので、靴を吐き直して地面に降りた。
パリパリ…
訓練所全体が凍り付いているため、そんな音を出しながら俺はモクヨとトウリの氷像を通り過ぎた。ちなみに、モクヨの生みだした樹木達も全て凍っている。
「改めて、魔法を吸収できる武器ってやばいよな」
「そうじゃの…」
俺はこの中で唯一氷像になっていないブラッドとカグロの中に入っているレイカの前に来た。
「地面に敷いた血も凍らせたぞ。もうギブアップじゃないか?」
俺は虎刀をアイテムボックスに仕舞いながらそう2人に言った。
地面に用意した血も凍らせられたので、もうブラッドにできることは無いだろう。
「まだやるのじゃ!」
そう言って鎌を振ってきたブラッドを俺は無抵抗で見ていた。鎌は俺の顔の横で氷の壁に止められた。
この訓練所内は全て数cm程の厚さの氷に包まれている。包まれていない場所はブラッドがいた場所くらいだ。つまり、この場所なら玄武術が使い放題なのだ。
それから2人は何度か攻撃を試していたが、レイカの霊魔法でもすり抜けられず、俺の自動で発動する氷の盾を突破することができなかった。
「はあ…はあ……」
『2人に実力差を分からせるのはこれくらいでよろしいかと思います。そろそろ終わらせましょう』
「ああ」
1人で激しく動き回っていたブラッドはもう息が上がってしまっている。
「はっ!」
「あっ…」
鎌状態のカグロの持ち手を狙って殴ると、カグロがブラッドの手から抜けて回転して飛んで行った。もう握力もほとんど無くなっていたようだ。普段は両手で1つの鎌を持っているのに、鎌の二刀流をすればそうなりもするだろう。
俺は続けて足元が覚束無いブラッドの足を掛けて転ばせようとした。体が横になったブラッドが地面に着く前に腹を蹴った。
「かふっ…!」
そして、ブラッドは凍った樹木目掛けて一直線に飛んで行った。
「さて、後は…」
残っているのはカグロの中に入ったレイカだ。カグロは破壊もできないので、レイカに関してはどうしようかと思っていたが、ナービが対処法を教えてくれた。
「瘴気」
『あああ!』
俺は落ちたカグロを掴んで、腕を通じて瘴気を纏わせた。
『カグロは破壊無効ですが、中にいるレイカがその効果を持っている訳ではありませんからね』
要するに、俺は今カグロの中にいるレイカに直接攻撃をしているのだ。もちろんこれは神速崩壊でもいいらしいが、それは威力が高過ぎるそうなので瘴気にしておいた。
「痛い…!」
そして、瘴気に堪らずレイカがカグロから出てきた。
「サンダーボルト」
「ば…ば……」
そして、出てきたレイカに魔法陣から雷を当てて気絶させた。さっきみたいな大掛かりの魔術はナービに手を貸してもらって準備に時間がかかるが、これくらいの手軽な魔術なら自分ですぐに用意するくらいはできるようになった。
『マスターの勝ちですね』
「そうだけど、これの後片付けをしないとな…」
まずはみんなを溶かして、その次にこの訓練所を溶かして、その後に回復させなければいけないな。
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