コボルト編

第126話 由紀の情報

「な、何!?」


試練が終わってクリスタルの前に戻ってきた瞬間に妹の由紀からテレパシーが送られてきた。


「まだ試練は1つ残っているし、四神も青龍が残っているのに……」


俺としてはそれらを全て終わらせて最大限パワーアップしてからコボルト達と戦いたかった。



「マスター、今はとりあえず妹の元へ急いで向かい、詳しい事情を聞きましょう」


「ああ…そうだな」


ナービにそう言われて少し冷静になる事ができた。元からコボルトはいつ動き出してもおかしくなかったのだ。むしろ、ここまで試練と四神を攻略してから現れてくれたのだから良しとしよう。



「ダンジョン転移」


ダンジョンクリアの称号の力でダンジョン転移を行って1階層の入口側に隠密を使いながら転移した。今回は特に人が溜まって居なく、すぐにダンジョンの外に出ることができた。



「じゃあ急ぐぞ!」


そして、急いで由紀の居るであろう自宅に向かって飛んで行った。



「由紀!詳しい事情を!」


「分かったよ」


今日は休日らしく、家には父と母と妹が居た。急いでいたため、隠密を使って家の中に入って両親との会話を避けた。そして、隠密を解除して妹の部屋に入った。



「とりあえず、そんな今すぐ現れる訳じゃないから一旦落ち着いて。乙女の部屋に入る時はノックをしようね」


「あ、ああ…」


由紀にそう言われて、まだ自分が焦っていたことに気がついた。

由紀はぽんぽんと自分が座っているベッドの横を叩いた。それはそこに座れという意味っぽいのでそこに座った。



「まず、コボルトが現れるのは早くても明後日以降かな。どんなに長くても2週間以内には現れるかな?」


相変わらず、由紀のユニークスキルの検索は強いスキルだな。調べさえすればかなりのことまでわかる。



「それと、今回やってくるのはネームドのみだよ。それが何体いるかまでは分からないけど」


『でしたら、連れてくるのは少数精鋭にしましょう。下手に弱い者を連れて来て足を引っ張られても困ります』


『そうだな…』


前回に現れたネームドは極振りではあったが、ステータスの最大値は数万だった。最低でもそれらと戦えるステータスが無いとダメだな。



「あと、あのキングコボルトの他にも群を抜いて強いやつが5体いるよ。その5体もキングコボルトと同様にステータス贈呈を受けられるみたいだよ」


「まじかよ…」


元々の予定では俺がステータス贈呈をされるキングコボルトを相手をしている間にステータス贈呈をしているネームド達を倒してもらうつもりだった。倒しきれなくても、ステータス贈呈元を減らしてくれれば、ステータス贈呈の時間制限である20分間は耐えられると思っていたのだけど…。そういうわけにはいかなくなったな。



「ただ、キングコボルトよりはステータス贈呈を受けられる相手が少ないみたいだよ」


「まあ、そうだよな」


ステータス贈呈はそれをする者がされる相手の事を盲目的に信じ、崇拝しなければならないとナービが言っていた。それほどの相手を作るのはそう簡単では無いだろう。

そして、あの頭のいいキングコボルトが自分よりも配下が強くなる可能性を与えるわけが無いとも思う。


「それから、どこに現れるのかの正確な位置はまだ分からない。ただ、4つの大ダンジョンのどれかの近くに現れるよ」


「そうか…」


前は日本にある俺が落ちた大ダンジョンに現れた。今回は一体どこなのだろうか?前もって場所が分かっていたら人払いなどもできるのだが…。



「とりあえず、今のところでわかる情報はこれくらいかな?もっと詳しい情報が分かったらまたテレパシーで伝えるね」


「ありがとう」


コボルトが活発に行動すればするほど由紀の検索で出てくる情報は多くなる。どうにか出現場所は前もって知っておきたい。



「みんなを連れてくるの頑張ってね。ランキングが変動するのを楽しみにしてるよ」


「ああ。行ってくる」


そういえば、俺が予定していた全員を連れてきたらランキングの上位が大変動するな。世間の反応がちょっと楽しみだ。


これからコボルトが現れるまでに俺がやるべきことは4つの大ダンジョンから人手を集めて回ってくることだ。俺はまだ帰ったばかりだが、早々に家を出た。



「…あ、もしかすると魔族は呼ばない方がいいかな?」


俺は東のダンジョンに向かって飛び立つ前にナービにそう言った。別にこれは前にあった事件を根に持っているから言っている訳では無い。シンプルに魔族のことが心配なのだ。

前に見た魔族達のステータスではネームドのコボルトの相手は厳しいだろう。



「呼ぶ、呼ばないは1度会ってステータスを見てから判断しましょう。反省度合いによっては今回の戦力になるかもしれません」


反省度合いは関係あるの?とは思ったが、そこは指摘はしなかった。焦るほどでは無いにしろ、時間に余裕は無い。だから早速、ここから1度近い魔族達のいる東のダンジョンに向かった。



「ダンジョン転移」


東のダンジョンはそこまで遠くなかったので、すぐに到着した。それからすぐにダンジョンの中に入り、89階層の魔族達の城の前に転移した。



「は、覇王様!?」


「急で悪いんだけど、長達の元へ案内してくれない?」


隠密も使わず急に目の前に現れたので、城の門番に驚かれてしまった。しかし、俺のことを知っているのなら話は早いと、すぐに城内に案内してもらった。

その後、俺は少し豪華な部屋に案内されて、そこで長達を待った。



『……ほう』


「覇王様、今回はいかがなされましたか?」


樹人のモクヨが俺のいる部屋に入って来て、そう言った。

ナービはモクヨを見て何か言ったが、どうしたのだろうか?



「あっ…」


ここで俺は思い出した。コボルトの問題が発生したのは魔族達と別れてからだ。魔族以外の他の種族にはコボルトの協力は元からお願いしているが、魔族達には何も言っていなかった。


『マスター、こう話してください』


『…ありがとう』


そんな俺にナービが助け舟を出してくれた。俺はナービの指示通り話始めた。


「話の前に他の長達はどこにいるの?」


「他の長達には、城内にはおりません。必要とあれば呼び出せますが、いかがなさいますか?」


そういえば、絶対感知にモクヨほど大きい魔力が存在しないな。ん?モクヨ魔力かなり増えてない?

なんて考えていると、次に話すことの指示がナービから出たので、それ通りに話していく。



「全員を大至急呼び出して欲しい。事情は全員集まってから話そうと思う」


「わかりました。少々お待ち下さい」


モクヨはそう言って軽く一礼すると部屋から出て行った。

そして、部屋で待つこと1時間ほどでメイドがノックして部屋にやってきた。



「族長を含め長達が集まりました。ご案内します」


「ありがとう」


俺はメイドに案内されて、初めて長達全員と会ったあの立派な扉の中に入った。

ちなみにメイドは扉の前まで案内すると一礼してから去っていった。



「は、覇王様、よ、よくいらっしゃったのじゃ」


扉の中に入ると、族長の吸血鬼であるブラッドが少し前で、他の族長がその後ろに綺麗に横一列に並んで、カーペットの上で片膝を付いて頭を下げていた。

ナービの言ってた通り、大罪系の称号が無くなってブラッドは生きているようで安心した。


『マスター、嬉しい誤算です。どうやら魔族は私の想定よりも遥かに戦力になりそうです』


その光景に唖然としていると、ナービのそんな言葉が聞こえてきた。


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