第120話 突破方法

「あ、俺もあれを真似すればいいのか」


俺の言ったあれとは、玄武の使っているあの水の盾のことだ。今までの白虎や朱雀の時のようにあの技を盗めれば役立つだろう。


『…盾を作れるようになったところで、どうやって玄武に攻撃をするのですか?』


「あっ…」


確かに玄武の盾を俺か作れるようになったからと言って、この状況は変わらない。


『もちろん、あれができるようになるのは良いことです。しかし、今までと違って今すぐに必要な技ではありません。ですので、強欲で奪えば良いと思います』


「それもそうだね」


今は俺の防御を考えるよりも、あの玄武の防御を突破する方法を考えなければならない。もちろん、盾を作れるようになって、簡単に近付けるようになれば戦いやすくはなる。だが、結局あの盾を攻略しなければならないことには変わりない。だから盾を作れるようになる前に盾を突破することを考えなければならない。



「…どうすればいいかな?」


俺には龍化などを使ってステータスを最大まで上昇させて、無理やり盾を突破するなどの力技くらいしか思いつかない。だから素直にナービに助言を求めた。


『まずは色々試してみましょう。解決案はそれからです』


「それもそっか」


俺は盾を突破するために色々と試すことにした。



「ダークサンダーガン!」


まずは重力魔法で圧縮させた黒雷魔法を拳銃の弾のように高速回転させて打ち込んだ。


ガン…


「雷は通さないか…」


俺の魔法は盾に当たって普通に止められた。



「シャドー剣山!」


今度は思い付きで亀の真下の影から剣山のように棘を大量に出した。思い付きで放ったせいで名前が英語と漢字の混合で少し格好悪い。


ガン


「これもダメっと」


しかし、見えてはいないが音的に下にも盾を出せるようで全く効いていない。



「よし!こうなったら全部試すか!」


それから俺は魔王に含まれているほぼ全ての魔法と、それを魔法陣にして放つ魔術を試した。限界突破などで消費されるHPと魔法で使われるMPが少なくなったら、武器をその都度変えながら転移で近付いて盾を攻撃してHPとMPを貰ったりした。




「ナービ!何も効果がありません!」


あの盾は俺の攻撃を食らってもうんともすんとも言わない。俺のこの試していた1、2時間は無駄に終わってしまった。



『何となく攻略法は分かりました』


「さすが!」


どうやら、俺のこの1、2時間はナービにとっては有益なものとなったようだ。


『まず、玄武から攻撃してこない理由の想定から話しましょう。私と話している隙が多いこの時間に攻撃してこない理由は、恐らく魔法を使うとあの盾を使えないからと、近くにしか発動しないからでしょう。マスターの予測できない奇想天外な動きを警戒して魔法を使えないのではないでしょうか』


「なるほど」


盾を張れない時に俺に転移で近付かれることを恐れているのかもしれない。それと、盾でガードできない範囲に蛇は出たくないのだろう。


『これらは追い詰められてきた時は全て無くなるでしょうから警戒はしていてください』


「分かった」


今は俺の攻撃が何も効かないから防御だけでいい。しかし、俺の攻撃が盾を突破してダメージになってきたら、防御だけではなくなるよな。



『そして、肝心な攻略法の話をしましょう』


「待ってました!」


俺が心待ちにしていた玄武の攻略方法の話になった。


『まず、玄武はマスターに近寄られるのを嫌がっていました』


「そうなの?」


どうやら、俺が気が付いていなかったが、玄武は俺が近寄ると少し後退りして警戒していたそうだ。

ちなみに、魔法と魔術に関しては何の反応もしていなかったそうだ。


『そこから考えられるのは、マスターが臭いのか、マスターが汚いのか、単純にマスターが嫌いなのか、マスターを生理的に受け付けないのか、マスターの発動している限界突破、極限突破、身体属性強化・龍魔法、覇気、瘴気のどれかが嫌なのかです』


「いや!どう考えても最後のやつでしょ!」


俺は汗をかいたり、汚れたりしたら、生活魔法で綺麗にしている。だから臭くも汚くも無いはずだ。一応汗は今もかいていると思うが、ダンジョンの性質的に老廃物は出ないようになっている。だからその汗にしても臭くないし、汚くもないと思う。

そして、嫌いと生理的に受け付けないは知るかっ!そもそも敵から好かれることがほぼ無いだろ!


『私も最後の可能性が高いとは思います。ただ、選択肢にある以上、お教えしないといけないと思いまして』


「余計なお世話だよ!」


『ちなみに、最後の確率が99%以上だと予想しています』


「なら絶対に言わなくてよかったじゃん!」


99%程の確信があるなら言わなくていいと思う。しかも1%未満の選択肢を四択もあげる必要は絶対に無い。



『マスター、瘴気を強くして玄武に近寄ってください』


「はあ……全く…。よし、分かった」


俺は今の気持ちを少し切りかえた。そして、瘴気を強くして玄武に歩いて近寄った。



「あ、下がった」


『瘴気が嫌なのでしょう』


まだ俺との距離が10m以上もある時から玄武は後退りをした。今まで転移で近寄った時よりも過剰反応だったので、ほぼ確実に瘴気が嫌なのだろう。なんで瘴気が嫌なのだろうか?



『マスターのお好きな時間がやってきましたよ』


「別に好きって訳じゃないけど…」


俺は再び玄武から離れて地面に手を置いた。

瘴気は周りを腐敗させて壊す気を纏うスキルだ。つまり、簡単に言うと、俺の神速崩壊のスキルの威力を弱くした纏うバージョンだ。


「神速崩壊」


俺は地面に手を付きながらそう唱えた。神速崩壊になったことで、数10m離れていても、何かを経由して触れていれば発動するようになった。まあ、離れれば離れるほどその崩壊速度は落ちてしまうけど。


「お、慌てているな」


玄武は慌てた様子で4つの足場を盾で作って、それに足を乗せた。


「結局盾が地面に触れちゃってるんだよな」


足場を作ったはいいが、その足場の盾は地面に触れている。つまり、少しづつではあるが、それも神速崩壊に巻き込まれている。




「「ギャンッ!」」


「あ、落ちた」


約1時間後、その水の盾は神速崩壊によって消えてしまい、玄武は着地もできずに無様に地面へ落ちた。


「ガッ…」


「やっべ!」


落ちた瞬間に亀は俺の方へ口を大きく開けた。絶対感知が危険と反応したので、俺は転移ですぐに逃げた。


ヒュンッ!スコっ


「こっわ…」


転移前に俺の頭のあった場所に水の弾が打ち込まれた。その弾は高速で壁に埋まった。



ダンッ!!


「え?」


水が埋まった壁が突然勢いよく弾け飛んだ。そして、俺の膝下まで濡れるほどの水が流れてきた。


『水の圧縮を解除したのでしょう』


「こわ」


さっきはあの俺を最初に閉じ込めた水を食べていたが、それの一部だったのだろうか?それにしても威力が高い。

そして、その流れ出した水は再び玄武が圧縮させて飲み込んでいた。もしかして、玄武の中の水が消されるから瘴気や神速崩壊を嫌がっているのか?



『マスターの魔防を持ってしても体を貫通するほどの勢いかつ、その後は爆発。殺意が高いですね』


「…本当にね」


神速崩壊をしただけでこんな殺意の高い攻撃をしてくるとは思わなかった。

もしかすると、俺は本当に玄武から生理的に受け付けられていないのかもしれない。

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