第121話 急なスポ根
「神速崩か…ちっ!」
俺が地面にカグロを刺して神速崩壊をしようとしたが、邪魔をするように再び水の弾丸を放ってきた。
ちなみに、カグロには、不壊のスキルがあるので、カグロを通して神速崩壊をしても全く問題はない。また、崩壊させる方向を選べられるので、服や靴とかには崩壊はやってこない。
「もう遠距離での神速崩壊は無理かな?」
『かなり難しいでしょう』
もう水を崩壊させられたくないのか、神速崩壊をする素振りをすると、絶対に止めて来る。
「なら、もうあれしかないよね?」
『あれしかないですね』
どうやら、俺とナービの考えは一致したようだ。ナービと考えが一緒と言うだけでこれからやることに対しての安心感が段違いだな。
「転移」
俺は瘴気を最大まで強くして玄武の真横に転移した。
「はっ!」
そして、玄武に斬りかかった。しかし、それは前と同じく水の盾に防がれた。
「神速崩壊」
しかし、そんなことは想定済みだ。俺は水の盾に神速崩壊を使った。さっきまでよりも至近距離なので、崩壊速度も段違いだ。
ぱしゅしゃ……
なんて変な音をさせながら水の盾は消え去った。
「キシャッ!!」
だが、消えた頃には蛇が横から向かってきた。今度はそいつ受け止めて、さらに斬るために顔面に向かって鎌を振った。
ぱしゃっ!
「ちっ!」
しかし、そいつにも水の盾が現れた。何となく予想はしていたが、この蛇の方にも水の盾は現れるようだ。
だが、蛇の顔面の前に水の盾ができたので、こいつも俺に攻撃をすることはできない。
「え!?ずるじゃんか!」
そんな俺の予想とは裏腹に、蛇はその水の盾をすり抜けてきた。完全に意表を突かれた俺は、蛇の横薙ぎの頭突きを食らった。
「うぐっ…」
俺は吹っ飛ばされたが、すぐに止まった。なぜなら、吹っ飛ばされた方に亀が居たからだ。亀との間に現れた水の盾にぶつかって止まったのだ。
「ちょ待っ!」
思ったよりも蛇の頭突きが痛かったが、完全感知の反応でハッ!として亀の方を向いた。すると、亀は俺の方を向いて口を開けていた。
「転移!」
俺は急いで転移で逃げようとしたが、転移ができなかった。理由は盾から出ている触手のようなものが俺の右腕を巻きついて、盾と固定していたからだ。
「盾!」
流石の神速崩壊でも水の盾を亀の攻撃より前に崩壊させる時間は無いので、亀の水の弾丸に備えて、カグロを巨大な盾にした。
「ガァッ!!」
「なっ…!」
しかし、放たれたのは巨大な水の塊だった。その塊に押されて俺は壁に激突した。
「どんだけの質量なんだよ……」
かなり踏ん張っていたのに、壁まで吹っ飛ばされるとは思わなかった。しかし、カグロの盾のおかげで壁に激突したくらいことくらいしかダメージは無い。
『マスター、下!急いで転移してください!』
「え…?」
ナービに言われて下を見ると、水溜まりの中にBB弾程の小さな玉が何個もあった。
「転移!」
俺が急いで転移するよりも少し早く、下の玉達が一斉に爆裂した。
「…水の塊は今のを隠すためかよ」
俺は転移した先で、中に浮かびながら亀の行動を分析していた。
『足は大丈夫ですか?』
「無くなってないから、多分大丈夫」
転移を少し遅れた結果、俺の足はズタズタになってしまった。転移がもっと遅れていたら、全身がこうなっていたと考えると恐ろしい。ナービに感謝だな。
まあ、今回は足が無くなっていないだけマシだろう。今も超高速再生でシューッという音と共に煙を出して治っているしな。
「もう飛んでるのも許してくれないのね」
今は神速崩壊をしていないのに、亀が口を開けて、水の弾丸を放ってきた。
『マスターに弾丸は効果があると知られたので、前よりも攻撃的になると思ってください』
「了解」
亀は水が効果があると分かったから、これからは自信満々に攻めてくるらしい。
「ナービ、質問いい?」
『どうぞ』
俺は亀から放たれてくる弾丸を飛びながら避けたり、時には転移して避けたりしている時にある事を思いついた。
「これって打ち返したらどうなるのかな?」
これは亀が作った水だ。でも、あの亀に水自体は効果はあるだろう。さらに、この速度と密度の水の弾丸なら水の盾も貫通しそうだ。
『…確かに打ち返して、亀に当たったら効果はあるかもしれません。もちろん、試してみないと分かりませんが』
「分かった!」
俺はカグロをバットのように形を変えた。
「ふん!」
「ふん!」
「ふん!」
『…マスター三振です。ストライクアウトです』
「だって、あいつデッドボールの玉しか放ってこないんだもん!」
野球経験が学校の授業+αくらいしかない俺では、この早い小さな玉を避けてからフルスイングで打ち返すなんてできない。しかも俺は空中にいるから、踏ん張ることも満足にできない。
『……急に亀がストライクゾーンに投げてきても逆に怖いですよ。これは野球ではありません。ですので、わざわざバットの形にしなくてもいいんですよ』
「あ、そっか」
俺はカグロをテニスのラケットのような形に変更した。もちろん、ガットの部分は埋めてある。
「ふん!」
カグロの形を変えて振った一打は、ガンッ!と言う音を出して玉は亀の方ではなく、右方向へ向かった。
「当たったよ!」
さっきは当たる気もしなかったのが、カグロの形を変えただけで1発で当たった。
『当てるだけなら意味がありません。そもそもスイングもタイミングも悪過ぎます。フォアハンドで右方向へ行くと言うことは振り遅れているのと、力負けしている証拠です。もっとタイミングを合わせて、両手でしっかり握って振ってください』
「は、はい…」
それから、ナービからの熱血指導が始まった。
俺はなぜかダンジョンの100階の四神との戦いでテニスの練習をしていた。
『玉の位置によってはバックハンドにしてください』
「はい!」
『玉を待っていないで、少し迎えに行って、体の横で当ててください』
「はい!」
『もっと脇を締めて、腰を回して力いっぱい振ってください』
「はい!」
冷静になると、今後絶対に使わないであろうこの動きをここまで真剣にやる必要があるのだろうか?という疑問が出てきてしまう。だから、俺は冷静にならないように無我夢中で頑張った。
ちなみに、最初に当たったのは偶然だったようで、それからは10発に1回程度しかカグロにすら当たらなかった。
一応、テニスみたいなことを要求されているが、玉の大きさはビー玉くらいだし、ラケットにはガットが無い分空気抵抗が強い。さらに、玉はノーバウンド俺に一直線で向かってくるし、そもそもここは空中だ。よくよく考えると、テニスとは似ても似つかない謎の競技だ。ただ、俺がテニスのラケットという形を選んでしまっただけだ。
そして、謎の特訓が始まって1時間、2時間と経過していった。
亀も俺に打ち返されないように、玉をストレートだけでなく、曲げたりと変化をつけてくるようになってきた。さらに、その次は緩急まで付けるという成長を見せた。
おい、亀よ。俺に当てるという目的はどうした?打ち返されないのが目的になっていないか?
『右、右、下、左、下、上、左、右、上』
「はいっ!はいっ!はいっと!」
5時間も経過すると、玉をナービ指定の場所に10発中、9発は当てられるようになった。外れる1発も近い場所には打てている。
ちなみに、足の傷はもうとっくに完治している。
『これなら、もう亀を狙っていいでしょう。今から10つ後から全部亀に狙ってください』
「了解!」
ナービの指示であえて今まで亀に当てないようにしていたのだ。玉は連続で何発も放たれるので、ラッキーの1発だけ当てて終わりでは勿体ないからな。
「はっ!」
「ギャッ!」
俺の打った玉は一直線で亀に向かった。そして、亀の前に現れた水の盾を貫通した。亀が俺の打った玉に当たる前に放っていた3発もしっかり打ち返して亀を貫通した。
「当たったけど…」
亀も貫通したはいいが、玉のサイズに比べて亀が大き過ぎる。もちろん、亀には玉は爆裂しないので、あまりダメージが入ったように見えない。
『いいえ。これでも十分な効果です。亀はマスターが打ち返してくると学びました。つまり、次からは弾丸を放ちにくくなります。これで、弾丸という手を封じれます』
まあ、玉を打ち返されたのに、このまま亀が馬鹿みたいに玉を放ち続けるとは思えない。弾き返されるようになったので、亀は別の行動で来るだろう。
だが、俺でも即死になり得るこの弾丸を封じられただけでこの5時間は意味があっただろう。それなりに楽しかったりもしたしな。
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