第115話 堕ちたエルフ
「どうかされましたか?」
ナービに精霊魔法について聞いていたので、不自然な無言時間があった。だからエルフの王は不思議そうな顔でそう聞いてきた。
「いえ、何でもないですよ」
特に重要な話をしていた訳では無いので、気にしないでもらった。
「それで、俺がこのエルフの国に来た理由はですけど…」
俺はエルフの王にここに来た目的であるコボルトの討伐の協力について話した。
「なるほど…1つ質問いいですか?」
「いいですよ」
コボルトについて話すと、王は質問をしてきた。
「今までのダンジョンで、90階層から下のモンスターがここにやってくる事は今までありましたか?」
「…いいえ。今までそんな話は聞いたことがないです。そして、これからもそれが起こる可能性はかなり低いでしょう」
階層を越えてモンスターがやってくることなんて大量発生していたハチ以外には見た事がない。
「ありがとうございます」
王はそう言うと、少し考える素振りを取った。そして、数分後に再び話し始めた。
「我々エルフも他の3種族と同様にぜひ協力させてください……と言いたいところなのですが……」
王はそこまで言うと、言葉を止めた。
「ご覧になった通り、今はエルフの数自体が減っています。そんな現状に伴って、エルフの中でそのコボルトとの戦いで役に立てるほど強い者は、名付けを行ってもらったと考えても…10人ほどでしょう。その10人もエルフの食料を上の階層へ調達しに行くのと、非常時に備えると考えると、人員を貸すのは難しいですね」
「無理なお願いをしてすいません」
どうやら、エルフに人手を貸すほどの余裕はないそうだ。人手は欲しいが、そういうことなら諦めるしかない。
「いえ。まだ話は終わっていません」
「え?」
しかし、まだ王の話は終わっていなかったようだ。
「このエルフの国の中には堕ちたエルフであるダークエルフがいました」
「堕ちたエルフ…?」
何だか不穏な言葉が飛び出てきた。堕ちたエルフ…字面からしてあまりいい呼び名では無いだろう。
「堕ちたエルフとは子孫が生まれにくいエルフの禁忌と言われる、同族殺しをしたエルフのことです。我々エルフはどんなに悪事を行った相手だろうと、同じエルフを殺してはいけないのです」
「……」
エルフがエルフを殺すとダークエルフになるってことなのか?
それと、その話からして、そのダークエルフが殺したエルフはあまり何か殺されても仕方がない何かをやったのだろう。
「…そのダークエルフはどこにいますか?」
俺はそのダークエルフから話を聞きたいと思って、居場所を尋ねた。
「生きているのなら、下の階層にいるとしか分かりません」
「あっ…」
そういえば、さっきも「ダークエルフがいました」っと過去形で話していた。
「このダンジョンに転移させられて、偵察として下の階層に牢から出して行かせました」
「………」
牢から出してっと言うことは元々はここに捕らえていたということになる。そうか…ダークエルフとはいえ、同じエルフであるのなら殺せないから捕らえるしかないのか。
「もしこのダンジョン内で生き延びていて、それを覇王様が発見したのなら、そのダークエルフを連れ出して構いません。覇王様の話で、下の階層についての情報は分かりましたから。
ちなみに、ダークエルフになる前はこの国に一人しかいなかったエルフが進化した種族のハイエルフでしたので、強さは保証します」
「…分かりまりました」
元々、そのダークエルフを俺に戦力として貸し出せるかを考えるために90階層以下からモンスターが来る可能性があるのか聞いたのか。
そして、エルフからすると、そのダークエルフは忌々しく思うけど、殺せはしない。まさに目の上のたんこぶのような存在なのだろう。
「そのダークエルフを見かけたら、協力してくれるようにお願いしてみます」
ダークエルフになる前がハイエルフということは、かなり強いのだろう。できるのならコボルトの時の戦力になって欲しい。
「それでは、失礼します」
それから少し話して、区切りが良くなったタイミングで戻ろうとした。
「…すみません。最後にダークエルフに会えた時の伝言を頼んでもよろしいですか?本当は私から伝えるべきなのでしょうが、もう会える事はないと思いますので…」
「構いませんよ」
俺が背を向けて数歩進んだ時に王からダークエルフへの伝言があると引き止められた。
「国王として、お前がやった事は許されることではない。…しかし、親としては正義感が強かったお前がそうした訳は理解できる。
お前をこのエルフの国から永久追放する。2度と我々エルフの前に顔を見せるな。
…数十年も牢に入ってたんだ。これからは自責の念に苛まれずに自由に生きろ。お前は我々エルフを救ったんだ。そんなエルフの英雄にこのような処置しかできない不甲斐ない父を許してくれ…」
「……会えたら必ず伝えます」
「ありがとうございます」
どうやら今まで話したダークエルフと言うのはこの王の子供のようだ。王の子供がそんな不祥事を起こしたのなら、この王も大変だっただろうな。
そんなこの2人の親子のためにもそのダークエルフを見つけてその伝言を届けたいな。
「あ、お疲れ様です。話し合いはどうでしたか?」
「問題なく終わったよ」
俺が部屋の外に出ると、俺を案内してくれたエルフがその場で待っててくれた。別に待っててくれなくても良かったんだから、帰ってていいよっと声をかけておけばよかったな。
「これからどうしますか?」
「来たばっかりで悪いけど、ダンジョンを進もうと思ってるよ」
すぐに次の階層に行こうとしている理由は、伝言を忘れないうちにダークエルフに会いたいというのともう1つある。
「分かりました。次の階層への階段まで案内しましょうか?」
「いや、一人で行くよ。ありがとう、大丈夫だよ」
「いえいえ!またいつでもお越しください」
俺はここまで案内してくれたエルフ達に別れを告げて次の階層へ移動した。
「よし!出てこい!」
「ガアアァァァァァ!!!!」
俺は90層に着いた瞬間にマドラを解き放った。正直言うと、MPが限界に近かった。案内してくれるエルフの目を盗んで時々外に出してはいた。しかし、MPは減る一方で少し焦っていた。
「グア?」
「好きに暴れて来い」
マドラから激しく動きたいという意思が伝わってきた。影の中の広さは分からないが、多分ずっと窮屈な思いをしていたのだろう。
「あ、広範囲の魔法は使うなよ!エルフみたいな人型の誰かがもし攻撃してきたとしてもやり返すなよ!その時はすぐに伝えに来いよ!」
「グア?ガアァ!」
この階層にダークエルフがいるかもしれないことを忘れていた。慌てて大声でマドラに気を付けるように伝えた。マドラも何となく分かってくれたようなのでよかった。
俺はマドラによって殲滅されてモンスターが現れなくなった90層をのんびり歩いて進んだ。
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