第114話 エルフの街

「す、すごい…」


「これが覇王様の実力……」


「………」


俺がモンスターを倒して真っ直ぐ向かうようになってから、ナービの言っていた通り、進むペースが早くなった。

しかし、1戦ごとにぼそっと言っている感想が聞こえてきて、小っ恥ずかしい。


「えっと…次はどちら?」


「はっ!すみません!次はこちらになります」


「ありがとう」


「いえいえ!そんな…勿体なきお言葉…」


このように戦闘をするようになってから、エルフ達はさらに下手に出るようになってしまった。




「次が89階層になります!」


「了解」


数日かけてやっと89階層までやってきた。

良く考えれば、俺にはナービがいるのだから89階層まではそこまで迷わなくても着くんだよな。さらに、俺だけなら飛んで移動してもいいので、もっと早く着いていた。まあ、俺だけ89階層着いても、そこからは怪しまれないために案内役が居ないとダメなので、この遅れは仕方がないな。



「……えっ」


「驚きますよね」


俺は89階層に足を踏み入れた時に驚きの声が出てしまった。


「普通に森じゃん…」


今までの種族達が居た89階層では道があったりして、誰かが住んでそうな気配があった。しかし、ここでは視界には木しか見えない。ここにエルフ達が住んでいると言われていなければ、ここには居ないかもと思っていただろう。


「では、案内します」


「お願い」


それからエルフ達の案内の元、木々の間を抜けて進んで行った。ちなみに、こんな森のような階層だったが、他の89階層と同じようにモンスターは居なかった。また、森の奥に行くほど木々が高くなっていった。



「ここが我々が住む街になります!」


「お、おおっ…!」


エルフの住む街までは数時間で着いた。エルフの街は他で見た街と様子が違っていた。まず家は10m程の高さの木の中間地点くらいの場所から作ってある、いわゆるツリーハウスになっている。



「ここの他に街は無いの?」


「はい。我々エルフが住むのはここだけになります」


確かにツリーハウスは多くあるが、他で見た種族の人口と比べたら10分の1も居ないと思う。


「……エルフは長寿でありますので、出生率が低くなっています」


「なるほど」


エルフは寿命が長い分、子供ができにくいそうだ。


『あれ?寿命が長くて子供ができにくくても、普通人口は他の種族と変わらなくならない?』


生まれてくる数が少なくても長寿だったら、他の種族と人口がそこまで変わらないと思ったので、ナービに聞いてみた。

まあ、寿命が他の種族の20倍で、生まれてくる数が40分の1とかだったら少ないのは納得できる。

しかし、獣人とかの種族でも人数が増えている様子はなかった。つまり、それよりも人口増加率が低かったら、いつか絶滅してしまうのではないか?と疑問に思った。



『死因は寿命だけではありません。流行病、災害、事故、殺害…色々あります』


『あ、そっか』


さっきまでの俺の予測は死因が全て寿命の場合での話だ。元々は獣人達とかと同じ数だったのに、何らかの原因で死んで数を減らしたのかもしれない。これは明るくない話題なので、ナービに先ず聞いておいて良かった。



「少し休憩しますか?それともこのままエルフの王に挨拶しに行きますか?」


「急で迷惑でなければこのまま行きたいな」


「わかりました!案内します」


ダンジョンに進んでいる時はエルフに合わせて休憩をしっかりとっていたので、疲れはそこまでない。いつコボルトが動き出すかも分からないので、できるだけ早く話をしておきたい。

そういえば、俺はエルフのお偉いさんと話がしたいと言ったんだけど、いきなり王と話すのね。



「ここでございます」


「立派な木だな…」


王もツリーハウスに住んでいるみたいだが、その家が付いている木の大きさが他とは違う。木の高さは…100mくらいあるのか?高過ぎてちゃんとした高さが分からない。ツリーハウスなのに城のようになっている。


「こちらです」


「ありがとう」


俺はエルフに連れられて階段を登ってツリーハウス…いや、ツリーキャッスルに入って行った。



「ようこそ、お越しくださいました」


「お招きありがとうございます」


俺を部屋で迎え入れたのは、装飾の付いた豪華な木の椅子に座ったエルフの老人だった。


「この儂がエルフの王である」


「初めまして。覇王の?零です」


エルフの王と名乗るこの男は椅子から立ち上がって手を出してきた挨拶をしてきた。だから俺も名乗ってから手を握って挨拶をした。


「覇王様がどんなお方かと少し心配していましたが、周りに精霊達が多く集まっているのを見て安心しました」


「精霊?」


俺はキョロキョロと周りを見渡した。しかし、俺の目には精霊と呼べるようなものは見えない。


「精霊というのは自然の中でどこにでも存在する意志を持つ魔力塊のようなものです。そんな精霊を感じるには精霊感知、見るには精霊眼というスキルを取得されていないといけません」


「なるほど…」


確かに俺は精霊感知と精霊眼は取得していない。だから精霊の存在を感じられないのか。


「精霊が周りに集まってくる人というのは魔力が多く心が汚れていない人なんです」


「…そうなんだ」


何か心の問題ではなく、単純に魔力量が多いから寄ってきているのではと思ってしまう。多少心が汚れていても魔力が他よりも遥かに多いと寄ってくるとかは無いのかな?



「覇王様なら精霊魔法を使いこなせるでしょう」


『精霊魔法って?』


名前と流れからして、精霊を使った魔法なんだろうと言うのは分かる。それをエルフが得意にしていることも何となく分かる。

しかし、その魔法がどのような魔法か分からない。だから公平な立場で判断できるナービにどんな魔法か聞いた。


『精霊魔法というのは、精霊に協力してもらって使う魔法です。利点としては精霊に手伝ってもらう分、魔法スピードが早くなります。さらに、魔力消費を抑えられます』


『ほうほう…』


利点だけを聞くと便利な魔法のように聞こえる。


『欠点としては、精霊に手伝ってもらうため、意思の疎通が少しでも失敗すると魔法が発動しなくなります。また、精霊魔法のスキルレベルが低いと、精霊は気まぐれなので、言うことを聞いてくれない時があります。

これは場合によっては利点にもなりますが、精霊魔法の威力はそこにいる精霊の数によって上下します。基本はどこにでも精霊は存在しますが、環境によって数が異なります。例えば、この森のような場所では風や水や草や土のような属性を持つ精霊が多くいますが、火や氷などの属性の精霊は少ないです』


『…ナービの結論は?』


利点と欠点は分かった。そこから求めだしたナービの答えを聞きたい。


『魔力量が多く、私という魔法もサポートできる存在がいて、魔術という強力な魔法を覚えたマスターにとっては全てにおいて下位互換の魔法です』


『そっか』


せっかくエルフの王がおすすめしてくれてはいるのだが、俺には合わない魔法のようだ…。






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