第107話 試練攻略
「え?迎え撃つ?」
「そうです」
俺はそれから少し筒から逃げながらナービの作戦を聞いた。そして、全ての作戦を聞き終えると、逃げるのをやめた。
「覇気」
俺は覇気を纏った。今までは試練がどれくらいあるのか分からなかったので、覇気はしなかった。しかし、もうこれが最後だと俺もどきが言っていた。なら全力を出しても問題ないだろうとナービは言った。
「ふぅ…よし」
俺はこのカグロ(仮)を弓に変化させた。
「ドッピュン!」
俺はそんな効果音を口にしながら、矢を同時に2本放った。一応暴風魔法を使って威力とスピードを上げておいた。筒は両腕?に持っているレーザー武器でそれを止まることなく簡単に撃ち落とした。
「マスター、そこです」
「了解っ!」
俺はさらに追加で2本の矢を放った。追加の2本は筒へと向かわず、弾かれた矢へと向かった。狙い通り、弾かれた矢に上手く当たって跳ね返った。追加の矢に跳弾して、弾かれた矢は再び筒へと向かって方向転換した。
ここで初めて筒の動きが止まった。最初の矢の時に止まらなかったので通り過ぎていた筒は、後ろからやってくる矢を狙ってレーザー武器を振ろうとしている。
「次元斬・改!」
追加の矢を放ってからすぐに太刀に変えたカグロ(仮)で白虎を倒した技を放った。筒は矢を落とした後に次元斬・改もレーザー武器で斬ろうとした。しかし、これは空間ごと斬る斬撃だ。レーザー武器諸共、筒は真っ二つになった。
「さすが、ナービだ」
斬られた上部の筒が滑り落ちるのを見ながら俺はそう呟いた。今回の作戦を考えたのはナービだ。それに、俺の弓のスキルは弓聖だから狙い通りに狙うことはできる。しかし、どこに当たったら上手く跳弾して筒へ向かうかなんて分かるわけはない。ナービがどこに矢を放てばいいか教えてくれなかったら、こんな芸当はまず不可能だった。
ちなみに、あの跳弾して威力が落ちた矢には筒を破壊するほどの威力は持っていない。しかし、これまでの傾向から考えて、それを撃ち落とそうする確率が高かったそうだ。跳弾した矢を撃ち落とそうとした時点で俺の勝ちが決まっていたのだ。
ちなみに威力の低いかったが、矢を無視した場合の作戦もナービは考えてあった。その作戦とは、走り回りながら地面に大量の魔法陣を設置して、そこから一斉に魔術を放って筒を足止めしてからの次元斬・改だ。
「わぁーお。筒が綺麗に真っ二つになったな。物理攻撃と魔法攻撃の2つで基準以上の威力の攻撃をしないと壊れないのに、2つを合わせて一撃かよ。さすがに少し驚いたぜ。さあ!ボーナスステージだ」
「…ボーナスステージ?」
これで終わりだと思って油断していたが、まだこいつが居たのだった。再び警戒をすることにした。
「そんな警戒しなくてもボーナスステージは本当にただのボーナスだ。優秀な結果を出したお前へのご褒美だぜ」
俺もどきがそう言うと、再び無傷な筒が現れた。
また何か始まるのかと警戒を強めたが、俺もどき曰く、もう俺が攻撃されるようなことはこの試練では起こらないから安心しろと言われた。信用できないから警戒はしておく。
「さあ、一撃でこれにできるだけ多くダメージを与えろ。この筒は壊れないようにしておいたから遠慮なく攻撃していいぞ。
よっと…HPとMPは回復してやった。物理攻撃、魔法攻撃どちらでもいいぞ」
一撃で高威力と言ったらやはり次元斬・改だろうか?それともあるだけの魔力の全て使った魔術の方が威力が出るのだろうか?
「あっ、ちなみに言い忘れたが、使っていいスキルは1つだけだぞ。ゆっくり考えて選べよ」
「はあ!?」
それを先に言えよ!1つだけなら次元斬・改も魔術も使えない。その2つは基本となるスキルである武器系スキルと魔法系スキルがあって初めて使えるスキルだ。白虎術や朱雀術単体での使用はできない。
「ナービ、何がいいかな?」
「順当に考えるなら覇王一択です」
確かにそうなんだよな。覇王なら、限界突破や覇気などのステータスを上げるスキル、剣聖などの武器系スキル、火炎魔法などの魔法スキルの必要なものが全て揃っている。
一応、龍魔法や龍気の選択肢も思い浮かんだ。しかし、龍魔法は普通の魔法と組み合わせた時に強くなる。だから1つだけでもあまり意味は無い。
また、龍気でステータスを底上げしても、攻撃手段のスキルが無いから宝の持ち腐れだ。どんなにステータスが高くても、パンチやキックが下手くそならそれも意味が無い。
「時々、私でも驚く奇想天外な発想をするマスターは何か他のスキルは思い浮かびますか?」
それは遠回しに貶していないか?まあ、貶してはないかもしれないが、褒めてはいないことだけは確かだ。
ナービに言われて考えてたが、何か普通ではない手なんかそう簡単に思いつかな……あっ!!
「なあ、一撃の定義って何だ?」
「…何言ってんだお前?」
俺の質問を聞いて、俺もどきは頭が大丈夫かと言いたげなしかめた顔をしている。
「攻撃時間長かったり、攻撃の効果が長く続いたとしても一撃って判定なのか?」
今度は馬鹿な俺もどきでも分かるようにわかりやすく質問した。
「ああ、もし時間や効果が何年も続いても、それは一撃判定だぜ」
「了解」
なら俺の作戦が使えるかもしれない。声に出さずにナービに作戦を伝えて大丈夫そうかの確認をした。
『…なるほど。相変わらず面白いことを考えますね。大丈夫だと思います』
『ありがとう』
ナービからお墨付きを貰ったので、俺の選ぶスキルが決定した。
『では、少しの間さよならですね。頑張ってください』
『あ、そうなるのか…。ありがとうね。頑張るよ』
俺が新しく一つのスキルを選ぶということは、今使っているスキルは一旦使えなくなるということだ。しばらくナービとはまたさよならになってしまう。
「おっ、決まったか?」
「ああ」
急に無言になっていたから、ナービと相談していたことは察していたとは思う。そして、俺が急に俺もどきへと視線を移したから決まったとわかったのだろう。
「で、何にするんだ?」
「高速崩壊にする」
「は…?」
俺が希望を言うと、俺もどきは少し固まった。
「本当にそれでいいんだな?」
「いいから早くしてくれ」
「わかったぜ」
こうして今度は俺のスキルが高速崩壊だけになった。
「じゃあいつでも始めていいぜ」
「わかった」
俺はそう言うと、筒の近くで楽な体勢で座った。そして、右手で軽く筒に触った。
「高速崩壊」
高速崩壊が発動しているのに、やはり壊れる様子は全くない。まあ長期戦になるので、のんびりといこう。
「おい…まさか…ずっとそれをやり続けるのか?」
「ずっと高速崩壊をやり続けているんだから、これは一撃だろ?」
俺もどきには攻撃時間が長くても問題はないと言質は取ってある。とは言っても、高速崩壊はMPを使わないが、使うほど俺のスタミナが減って疲れてしまう。まあ、疲れても別に動くわけでも、何か考える訳でもないから問題は無いけどさ。
「…もう1時間だぞ?まだやるのか?」
「やるぞ」
「…もう2時間だぜ?そろそろやめたらどうだ?」
「まだやるぜ」
「…もう3時間経ったぞ?どうだ?やめないのか?」
「………」
何かいちいち1時間おきにやめないかと話しかけてくる。だんだん答えるのが面倒になったので、3時間経った時から無視するようにした。
「だぁーあ!そのやり方は試練の趣旨に反してるんだよ!もうボーナスステージは最大評価をやるからさっさと出てけ!」
6時間が経過したくらいで俺もどきがそう声を荒らげた。
すると、視界が歪み、気が付くと俺はあのクリスタルの前にいた。
『マスター、お疲れ様です』
『ナービ、おかえり』
こうして俺は第2の試練もクリア?した。
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