第106話 謎な試練

「え?」


試練が始まった。とはいっても、目の前の巨大な黒い筒を破壊しろとしか言われてない。とりあえず、これに攻撃すればいいんかな?


「おっと、そんなに1箇所にずっと留まっていてもいいんか?」


「マスター!避けてください」


「おわっ!」


ナービの声に反射的に横にズレると、元々俺がいた場所に後ろから赤色のレーザーがやってきた。


「いや、溶けるのかよ…」


レーザーが当たった黒い地面は、ドロっと溶けているように見える。


「マスター、まずは走り続けてください」


「あ、了解」


俺は限界突破、極限突破、身体属性強化・雷光を使って、筒の周りをぐるぐると走り出した。走り出すと、俺が数秒前にいた場所に赤色のレーザーがやってきている。つまり、動かずに同じ場所に居たらダメということなのか。



「……完璧に避けるの無理なんだけど」


「多少のダメージは覚悟して当たりましょう」


いつの間にかこの空間には黄色のレーザーだらけになっていた。黄色のレーザーは地面に当たっても溶けてはいないので、赤色のレーザーよりはダメージは無さそうだ。動き続けるにはどれにか必ず当たらなければダメそうだ。


「あっつ!」


黄色のレーザーに掠ったが、普通に熱かった。多分火傷はした。ただ、それが再生できなくなるほど焼け焦げるということは無かった。


「マスター、準備ができました」


「よし!」


俺がレーザーを避けながら走っている間にナービが魔法陣の準備をしてくれた。


「炎爆!」


ナービが筒のすぐ近くに準備した魔法陣から筒へ魔術を放った。


「うわっ、一撃で切り替わるのかよ。やべぇーな」


「ん?」


レーザーが当たらない空間にいた俺もどきが何か言った。その瞬間に全てのレーザーが無くなった。


「あれ?っ!!?」


まだ筒は壊れていないので、レーザーは消えたけど追加で魔術を放とうとした。しかし、目の前に俺の背丈よりも大きい岩が落ちてきたので、それはできなくなった。


「レーザーの次は大岩かよ!」


今度はこの空間に大岩が大量に降り注ぐようになった。落ちてきた大岩は順に消えていくので、大岩が邪魔で移動できないということは無い。しかし、落ちてくる量が多い。



「赤の代わりはこれかよ!」


黄色のレーザーの代わりに大岩だったが、赤色のレーザーの代わりは槍になっていた。その槍は大岩を貫いて俺の元までやってくる。多分あれを食らったら身体も貫通する気がする。



「炎爆!」


落ちてくる大岩と放たれる槍に慣れてきたので、魔術を放つ余裕ができた。


「あれ!?」


最初の魔術で筒は削れていた。しかし、今度は魔術が当たったのに無傷だった。


「マスター、今の筒には物理攻撃しか効かないと思われます」


「何だよそれ!」


文句はかなり言いたいが、そんなことしていても終わらない。俺達は何とか攻撃の合間を見つけようと行動した。


「マスター、今です」


「はあっ!」


数秒は攻撃が全く来ない場所をナービと共に作り出した。その瞬間に俺は白虎術の飛ぶ斬撃を筒に放った。


「うわっ、物理攻撃でも一撃かよ。さあ!もうコツは掴んだか?次は第2ステージだ!」


今度は俺もどきがなんて言っているのか、しっかり聞き取れた。


「はあっ!?」


いきなり筒がうろうろと滑りながら移動し始めた。ついでに大岩が消えて、再びレーザーが現れた。筒が動くのが第2ステージかよ。


「マスター、しばらくまたレーザーを避け続けてください」


「了解!」


心做しかレーザーの本数も増えている気がする。だが、まだ逃げ場が全くないという訳では無い。時々黄色のレーザーには当たりながら赤色レーザーだけは確実に避け続けた。

ちなみに、筒もレーザーに当たっているが、全くダメージにはなっていない。



「マスター、お待たせしました。あの筒の動きは規則性があることが分かりました。合図をしたら魔術をお願いします」


「わかった!」


5分くらいでナービが規則性を発見した。

もし神速多重思考があったら、筒の規則性を計算しながら、それに合わせてナービが魔術を放つこともできたかもしれない。俺も神速多重思考がないだけで考えられることがかなり少なくなっている。

そう考えると、俺もナービも神速多重思考がないのはかなり不便だ。ナービが選ぶ5つのスキルの中に入れるわけだ。



「今です」


「炎爆!」


ドガンッ!という音と共に魔術が発動した。魔術は動き回る筒に当たった。筒は魔術が当たって一瞬動きを止めたが、再び動き出した。


「マスター、タイミングは合図をするので、斬撃をお願いします」


「おう!」


再び降り出した大岩を避けながら俺はナービからの合図を待った。

ちなみに、筒は大岩をすり抜けて移動している。



「そこです」


「はっ!」


ちょうど筒がUターンする時と攻撃が来ない数秒が合わさるタイミングでナービは合図を出した。俺はそれに従って斬撃を放った。



「あーあ、かなり余裕そうだな。これじゃあ試練の意味が無いな。少しステージを飛ばさねぇーとな。

さあ、早くも最終ステージだぜ。飛ばした分、少し最終ステージもレベルアップさせといたぞ」


「……」


今更だが、この俺もどきは何なんだ?まるで意思があるように見える。その前にこれは何の試練だよ。意図が謎すぎるぞ。


「あっぶね!」


そんな俺の疑問はすぐに消えた。なぜなら、降ってくる大岩の数が倍以上。さらに、同時にレーザーも追加でさっきの倍以上現れたからだ。


「え!?」


さらに、筒が自分から俺に向かって真っ直ぐ向かってきた。


「流星斬!」


向かってきてくれたので、魔法を付与した斬撃を放った。今の筒に魔法攻撃か物理攻撃のどちらが必要なのかは分からないが、とりあえず順番通りに魔法攻撃にした。



「え!嘘だろ!?」


筒から黒い腕が2つ出てきた。そして、その腕には何とかセーバーのような赤色のレーザーの付いた武器を両手に持っていた。その武器で俺の斬撃を斬り消した。

そして、そのまま俺に近付いてきて、今度は俺を斬ろうとしているのか、レーザー付き武器を振り上げた。


「マスター、あそこなら問題ありません」


「…転移」


ナービに場所を指示してもらって、転移で筒から逃げた。転移先にももちろん大岩や黄色レーザーはあるので、すぐにまた移動を開始した。数が増えたせいで何度も岩やレーザーに当たってしまう。すぐに再生するから痛いけど放置することにした。



「ナービ、どうすればいい!?」


筒は未だに俺に向かってきている。筒は大岩をすり抜けられるので、一直線に俺へと向かって来ている。多分今ある魔法陣から魔術を放っても、あのレーザー武器で斬られるだけだろう。いきなり試練のレベルが上がり過ぎてどうすればいいかわからない。


「マスター、落ち着いてください。難しく考え過ぎです。的が自分から向かって来てくれるのですよ。なら迎え撃てばいいだけです」


ナービは自信満々にそう答えた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る