帯刀と佩刀は違う?という話

 こんにちわ。

 奇水です。

 電撃文庫などで書いてましたが、もう五年も新刊だしてません。

 担当編集様も辞めてしまいました。

 実質無職です。



 …………辛気臭い話題はやめましょう。

 つか、毎回この導入もなんか面倒というかしんどいというか。

 

 仕事はなくても時間は過ぎていくもので、同じく仕事がなかったゼロ年代は、一日の大半をweb小説を読むか新古書店を巡ることに費やしていました。しかし足を悪くした現状、新古書店巡りとかできませんし、せいぜいが近所の書店に足を運ぶくらいしかできません。それだって面倒くさいというか、冬になると嫌です。

 必然、家でパソコンに張り付いて、一日web小説読むか漫画読むかしてます。

 小説書かないのって?

 ……いいじゃないですか。

 そのことは……。


 それで最近名称が『X』に変わった『Twitter』を眺めている時間も増えるわけですが、先日、


「帯刀と佩刀の違い」


 というツイート(これも名称変わったんだけど、未だに慣れないのでツイートで通します)が流れてきました。

 その時に私は思わず「???」となってしまいました。

 そのツイートによると、帯刀は帯に打刀を挿して携帯することで、佩刀は太刀拵にして帯に吊るして携帯する方法のようです。

(細かいところは違うけど、だいたいこんな感じ)

 私がこの時に「???」となったのは、太刀を佩く……吊るすようにしていることは承知していましたし、「帯刀と佩刀は違う」みたいな言説自体も過去に聞いたことがあったにも関わらず――どうにもぴんとこなかったからです。


 確かに普通に刀……いわゆる打刀は佩く、つまり吊るしたりはしませんし、帯に差すわけですから、これは帯刀だと言われたらそうなんですが、これだと打刀だけが「帯刀」と言ってたことになります。

 ですが、「帯刀」というのは帯に差すからではなく、「刀を携帯する」「刀を帯びる」の意でしょう。

 これだと打刀のみを指して「帯刀」と呼ぶのは、どうにもしっくりきません。

 私が以前にこの佩刀と帯刀の違いについて聞いた時は、そんなことは考えませんでした。

「はー、そう?」

 みたいな感じで流してた気がします。

 念のためにツイろぐで確認すると、こんなことをツイートしていました。


 日本人いい加減だから、江戸時代くらいだと打刀でも佩刀とかいってそうな気がする…が、文例があるかどうかは知らない。https://twitter.com/SagamiNoriaki/status/1405016863008911362


 この時の私は、ぼんやりと「帯刀と佩刀は違う」と認知していたようですが――

 やはり、どうにもぴんとこないのには違いないので、とりあえずは『大言海』(※1)などにはどう書いてあるのかを調べてみました。

 国会図書館デジタルで検索して、探して――そして『大言海』には、『帯刀』も『佩刀』も載ってないことを確認したのでした。

 ……なんだこれ。

 ちょっと予想外の展開に、出鼻を挫かれてしまいました。

 こういうの調べたら、過去と今とでは意味が違い、その変化を追っていくとか……そんな感じになるの期待しません?

 それなのにまさか載っていないとは……。


 ちょっと遠回りだったかな?

 ということで、今度はストレートに検索してみました。


 佩刀………で、でてきたのがこの記事


はか‐し【佩刀】

〘名〙 (動詞「はく(佩)」に尊敬の助動詞「す」のついた「佩かす」の連用形が名詞化したもの) 貴人の太刀を敬っていう語。貴人の佩刀(はいとう)。多く「みはかし」の形で用いる。はかせ。

※栄花(1028‐92頃)鶴の林「さべき帯、はかしなんどはかねて御堂におかせ給て」


はかせ【佩刀】

〘名〙 「はかし(佩刀)」の変化した語。多く「御」をのせて用いる。→おんはかせ・みはかせ。

※文明本節用集(室町中)「帯刀 ハカセ 太刀名也」


はい‐とう ‥タウ【佩刀】

〘名〙 刀を腰につけること。また、その刀。帯刀。

※正倉院文書‐天平勝宝八年(756)六月二一日・東大寺献物帳「黒作懸佩刀一口」 〔後漢書‐郭憲方術伝〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について


https://www.bing.com/ck/a?!&&p=3ed1468a2878c7adJmltdHM9MTcwMTQ3NTIwMCZpZ3VpZD0xZTMyYzI0Yi03NzEzLTZjODctMzM5OC1kMzIzNzZmOTZkOTEmaW5zaWQ9NTIwNg&ptn=3&ver=2&hsh=3&fclid=1e32c24b-7713-6c87-3398-d32376f96d91&psq=%e4%bd%a9%e5%88%80&u=a1aHR0cHM6Ly9rb3RvYmFuay5qcC93b3JkLyVFNCVCRCVBOSVFNSU4OCU4MC01OTkxMTI&ntb=1


 以上はコトバンクから。


 正直、佩刀に「はかし」とか「はかせ」という読みがあるのは知りませんでした。まだまだ勉強が足りてないですね。私。

 でまあ、コトバンクの記事なんで鵜呑みにはできませんけども、こうやって読む限りでは、だいたい帯刀と同じ意味で、特に太刀に限定しているわけでもなさげです。


 でまあ、念のため、「帯刀」でコトバンクの記事を読むと……。

 


たい‐とう ‥タウ【帯刀】


〘名〙

① 刀を帯びること。また、その帯びている刀。江戸時代では大小刀を帯びることを称し、武士の特権とされ、武士と庶民とをわかつ重要な基準とされた。佩刀(はいとう)。

※御触書寛保集成‐四九・寛文八年(1668)三月「町人帯刀作事衣類倹約 蒔絵道具等之儀に付御触書」

② ⇒たちはき(帯刀)・たてはき(帯刀)


たて‐はき【帯刀】

〘名〙 (「たてわき」とも)

① =たちはき(帯刀)〔色葉字類抄(1177‐81)〕

② 植物「なたまめ(鉈豆)」の異名。〔重訂本草綱目啓蒙(1847)〕

たち‐わき ‥はき【帯刀】

〘名〙 ⇒たちはき(帯刀)

たて‐わき ‥はき【帯刀】

〘名〙 ⇒たてはき(帯刀)

たて‐あき【帯刀】

〘名〙 「たちはき(帯刀)」の変化した語。


https://kotobank.jp/word/%E5%B8%AF%E5%88%80-557855#w-1358987


 おや?

 おやおやおや?


 思わずボンボルド卿みたいな声がでてしまいました。

 そういえば、そうだった。

「帯刀」と書いて「たてわき」と読むんでした。

『らんま1/2』の九能帯刀で知ったんだった。


 いや、それはおいといて。


 帯刀の読みの一つが「たてわき」で、「これがたちはき」…「太刀佩き」の意だというのは、十分説得力があります。というか、それが妥当というか、それ意外はないというか。

 つまりまあ、「帯刀」と「佩刀」は特に区別されてなかったんじゃないか…という推論は正しかった――そもそも元は同じ意味だったくらいまであるではないですか。


 そうこうしていると、いつもお世話になっている町田さんから、こんなメンションをいただきました。


赤穂事件の本でたまに出てくる浅野忠允男爵所蔵の「赤穂義士佩刀覚書」という史料がありますが、もちろんこれは太刀のことではありません。

https://twitter.com/machida_77/status/1727570890794430635


 やっぱり、江戸時代も帯刀と佩刀の区別は特になかったようですね。 


大体、「佩ぶ・佩びる」(おぶ・おびる)という言葉がずっと使われていたわけですから佩く=佩刀、帯びる=帯刀という厳密な使い分けがされていたはずがないですね。

https://twitter.com/machida_77/status/172759488118989256


 まことにごもっともです。



   ◆ ◆ ◆



 ……となると、気になるのは「帯刀」と「佩刀」が違う……という言説が何処から涌いたのか。

 これはどうにも、辿るのは難しそうです。

 辞書に書いてるわけでもなし、恐らくは自然発生的にでてきた言説なのだと思われますが……。

 推測するだけなら腰から吊るすのを指して「太刀は佩く」というのが先行して、これが刀は帯びる――これだとしっくりこないな――差す、というのと区別されたのでのかも?などと思います。

 今更ですが、刀の別名に「差料」というものがあります。

 これも一応、コトバンクを参照すると


さし‐りょう ‥レウ【差料】

〘名〙 自分が腰に帯びるための刀。腰差しとして用いる刀。差前(さしまえ)。

※浮世草子・新可笑記(1688)五「又有時御月待執行あそばされし夜半に御指領(サシレウ)の小柄紛失せし事度かさなって」

https://www.bing.com/ck/a?!&&p=98c26b2743a54830JmltdHM9MTcwMTQ3NTIwMCZpZ3VpZD0xZTMyYzI0Yi03NzEzLTZjODctMzM5OC1kMzIzNzZmOTZkOTEmaW5zaWQ9NTIwMA&ptn=3&ver=2&hsh=3&fclid=1e32c24b-7713-6c87-3398-d32376f96d91&psq=%e5%b7%ae%e6%96%99&u=a1aHR0cHM6Ly9rb3RvYmFuay5qcC93b3JkLyVFNSVCNyVBRSVFNiU5NiU5OS01MTA2NjE&ntb=1


「差前」というのも新たにでてきたので、こちらも。


さし‐まえ ‥まへ【差前】

〘名〙

① 差して用いる刀。腰に差す刀。差料(さしりょう)。

※狂言記・武悪(1660)「さりながら身どもがさしまへは、おぼえが御ざらぬ」

② 目の前にあること。直面していること。

※絅斎先生敬斎箴講義(17C末‐18C初)「読ば読むなりに、どうなりと指前指向の事なりに、づんど失ぬぞ」

https://kotobank.jp/word/%E5%B7%AE%E5%89%8D-510569


 差料とかここらの言葉、いつくらいからあるのでしょうね?

 

 まあとにかく、このあたりから推論するに……帯に差すような携帯の仕方が、いつの頃からか「差す」として「佩く」と区別されるようになった――のだと、思います。

 太刀は帯に差さないですからね。

 けど、多分、「佩く」も「帯刀」もそのまま使われ続けたのでしょう。

 この辺りいい加減というか、慣用表現というか……とにかく、あんまり区別する意味ないですからね。

 太刀と刀(打刀)の違いだって、厳密にあったわけでもなく。

 一般には、太刀と刀では銘がの向きが違うということになっていますが、職工によってはそういうのしてなかったひともいたようで。

 ちょっと話がズレた。

 とにかく、「佩く」というのが吊るして携帯することであると厳密にわけられた……かどうも、まだ一考の余地はあるですが、とにかく「太刀は差さない」というところで最初に区別ができた可能性はある…のではないかと。


 そしてここから。


 この「差料」という言葉は「帯刀」や「佩刀」に比較して、そんなに耳にしない言葉です(私の知見が偏っているという可能性は今はおいとく)。

 実際に腰に刀差しているひとも現代ではいませんし、私も時代劇くらいでしか聞いたことがないです。「差料」。しかもその時代劇からして、かなり減っています。

 ますます、「差料」は耳慣れなくなった――と思います。

 そうすると今度は「太刀は佩く」というのが残り、「佩刀」……に対応する言葉として刀を携帯する言葉として「帯刀」が見出されたのではないかなと。

 そして恐らく、この帯刀という言葉、「帯」が入っているのが事情をややこしくしたのではないかなーって。

 つまり、言葉のイメージとして、みたいに思われたのではないかと。

 勿論これは間違いですけど。

 そういうのが回り回って、


 太刀=佩刀

 打刀=帯刀


 みたいな構図が生まれたのではないか……と、今のところ、そんな風に私は思っていたりします。

 これが正しいのかどうかは、証明する手段とかないんですが。

 推測が完全に間違っていて、帯刀と佩刀を違うとする用法も過去にあったのかもしれませんが――


 ……とりあえずまあ、江戸時代あたりは帯刀と佩刀はさほど区別はされてなかったと、それが別れば十分かなどと、そんなことを思いつつ今回は〆ます。

 

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